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魔法使いの子ども達  作者: 時任雪緒
1 孤児院「魔法使いの家」
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1-5 僕とジョヴァンニ先生

 僕がこの孤児院について語るうえで外せないのは、当然ながら院長先生と奥さんのことだ。


 約10年前、当時軍人だった院長先生が奥さんと出会って、なんやかんやで離ればなれになり、その間に戦災孤児となった子供たちを引き取って軍をやめて孤児院を設立し、なんやかんやで奥さんと結婚した。


 ものすごくあやふやで、僕にはさっぱりわからないんだけど、二人が今の生活をするに至った歴史については、誰に聞いてもそう回答されてしまうので、仕方がないのだ。恐らくみんなも院長先生と奥さんについて、詳しい話は知らないんだと思う。


 そこで僕が目を付けたのは、ジョヴァンニ先生。ジョヴァンニ先生はこの孤児院の副院長で、学院の理事でもある。そして院長先生の昔からの軍人仲間で、仲のいい友人の一人でもある。

 だから院長先生たちのことを知るには、ジョヴァンニ先生に聞くのが一番確実だと思った。


 ジョヴァンニ先生は保育士のステファニーお姉ちゃんと婚約していて、今年30歳。みんなの話によると結婚秒読みらしい。そんなリア充なジョヴァンニ先生は、最近前頭部が後退してきたといって、30代という年齢を呪い始めている。


「俺ももうオッサンだよ……そのうちハゲ散らかるんだぜ。そんな俺でもステフは愛してくれるかなぁ。ジョニーも髪は大事にするんだよ」

「うん。でも、ハゲてる男はセクシーだって、ドラマで女の人が言ってたよ。少なくともデブには”ぬれない”けど、ハゲには”ぬれる”って」

「君はその歳でなんて番組を見ているんだ。やめなさい」

「え? なんでダメなの? ”ぬれる”ってどういう意味?」

「10年早い。その話はもう忘れるんだ」

「えーっ」


 僕は納得がいかなかった。言葉の意味も分からないし、そのドラマは好きで見たわけじゃなくて、カスト達に誘われて見たけど、あんまりよくわからなかったんだ。なのに僕が怒られたのが不服だった。

 だけど僕は友達を裏切ったりしないから、カスト達のことは黙っていた。それでもムカムカするのは変わりなかったけど。

 僕はちょっと不貞腐れながら、やれやれと溜息をつくジョヴァンニ先生を見上げた。


「じゃぁさ、ジョヴァンニ先生」

「うん?」

「院長先生と奥さんって、ジョヴァンニ先生より年上だよね」

「そうだね。二人とも36歳だよ」

「じゃぁどうして、二人ともジョヴァンニ先生より若いの?」


 僕のその質問は予想外だったのか、ジョヴァンニ先生は顔を引き攣らせた。


「それは、アレだよ。いわゆる金持ちなもんだからさ、エステとかプチ整形とか、金に物を言わせたアンチエイジングしてるんじゃないかな」

「それにしたって奥さん若すぎだよ。ジンジャーより幼く見えるっておかしいよ」

「そりゃミナは東洋人だし、東洋人ってそういうもんだって」

「そうなの?」

「そうそう」


 やっぱり僕は納得がいかなかったけど、ジョヴァンニ先生が明らかにゴリ押ししてくるので、そういうものなんだって納得するしかなかった。


「じゃぁさ」

「なんだよ?」


 いささかウンザリした様子のジョヴァンニ先生だけど、僕は気にせずに続けた。


「ジョヴァンニ先生のこと教えて」

「俺のこと? いいけど、何を知りたいの?」

「ジョヴァンニ先生は何ができるの?」

「何がって……」


 少し困ったように宙を仰ぐと、ジョヴァンニ先生は僕に視線を戻した。


「一通りの家事、保育、事務処理、大型車の運転、格闘技。趣味で射撃と釣りと……」


 質問の意図が伝わっていなくて、僕はムカムカしていたのも手伝って地団太を踏んだ。


「そういうんじゃなくて!」

「違うのか? 何を聞きたい?」

「ジョヴァンニ先生の超能力のこと!」


 僕が地団太を踏みながらそう言うと、ジョヴァンニ先生は少し驚いたけど、すぐに観念したように溜息をついて両手を開いた。


「まいったな。気づいてたのか」

「うん。だってあの誘拐事件の時、僕が不安にならないようにって、ずっとリヴィオが見見せてくれてたんだ。クラリスが巨大化した時、ジョヴァンニ先生が元に戻してたよね。あれがジョヴァンニ先生の超能力なの?」

「そーだよ」


 ジョヴァンニ先生はまたしても溜息をついて、僕を手招きした。ついていくと、リビングを抜けた先にあるサンルームに連れていかれた。サンルームは硬化テクタイトガラスで一面を透明に張られた、床の白い太陽の降り注ぐ部屋で暖かい。

 なんで無駄に硬化テクタイトなんて使っているのかは、今は考えないことにして、僕はジョヴァンニ先生の反対側にあるソファに腰かけた。


「ジョニーはどこまで知ってる?」

「とりあえず、ジェズアルドの氏の人はみんな超能力者で、院長先生も奥さんもジョヴァンニ先生も超能力者ってこと」

「はぁ、大概知ってるんじゃないか」

「秘密だった?」

「別に隠してはいないけど、公表することじゃない」

「どうして?」

「ハムスターの群れの中に、モルモットが混ざってたら?」

「なんか違うのが入ってると思って、そこから出すかな」

「超能力者はそのモルモットと同じなんだ」 


 僕にはそのたとえがわかるようなわからないような、やっぱり釈然としなかったけど、とりあえず飲み込んだ。


「僕は別に怖いとか、言いふらしたいわけじゃないよ」

「わかってる。興味津々なんだろ」

「うん!」


 身近に超能力者がいるとわかって、興味を持つなというほうが無理だ。正直僕はこの状況を面白がっているし、楽しんでいる。


「気味が悪いとは思わないか?」

「思わない! カッコイイよ!」

「カッコイイねぇ……まぁそういう考え方もあるね」


 ジョヴァンニ先生は複雑そうに笑っていたけど、僕に向いた。

「で、俺の能力だったね。ロマンサーって知ってるか?」

「ううん。知らない。それがジョヴァンニ先生の能力?」

「そう。ロマンサーは特定の単語を、現象として発現する」

「う?」

「難しかったか」


 苦笑すると彼は席を立って、近くの鉢植えのそばにあった如雨露を手に取って、僕に持たせた。


「それを俺にかけてみて」

「え、でも、濡れちゃうよ?」

「濡れないから大丈夫」


 僕は半信半疑で如雨露をもって、再びソファに座ったジョヴァンニ先生のところに行った。ジョヴァンニ先生に向かって如雨露を傾けると、先端の穴から水が勢いよくシャワーになって降り注ぐ。

 その時静かな声で「防衛」と聞こえた。その瞬間にジョヴァンニ先生の周りの空気が揺らめいて、如雨露の水はガラス窓を濡らすように、何かに当たって下に流れていく。

 僕は何が起きているのかわからなくて、慌てて如雨露を引っ込めて、床に流れた水とジョヴァンニ先生の顔を交互に見ていた。

 僕のその様子が可笑しかったのか、やっぱりジョヴァンニ先生は苦笑した。


「俺が防衛といったから、俺の周りに障壁ができた。だから濡れなかったんだよ」

「えぇ~っ! すごいすごい!」

「そうでもないよ。特定の単語じゃないと発現しないし、俺のは防御に特化したものだからね。みんなみたいに派手なことは無理」

「そんなことないよ!」


 大興奮してブンブン如雨露を振り回す僕を見て、ジョヴァンニ先生はやっぱり苦笑している。


「クラリスを元に戻したのは!?」

「あれは封印。超能力者の能力を一時的に封印できる」

「それ反則じゃんか! ジョヴァンニ先生がそばにいたら、超能力者は普通の人になっちゃうってことでしょ! それってある意味最強じゃん!」


 僕がそう言うと、ジョヴァンニ先生は「よく言われる」と笑い出した。

 なんでジョヴァンニ先生が笑っているのか僕にはわからなかったし、結局院長先生と奥さんのこともよくわからないけど、とりあえずジョヴァンニ先生のことを知ることができたので、僕はそれで満足することにした。


「ねぇ、ところで”ぬれる”って何? 水に濡れるのとは違うの?」

「それはいい加減忘れろ」


 最後にちょっと怒られた。こういう詰めが甘いところが僕の欠点だ。


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