3-7 スポーツ大会 4
スポーツ大会当日。僕は委員の仕事が忙しいから、リレーの第1走者にしてもらっていた。だからさっさと準備を済ませて、さっさと走ってみんなの応援をしようと思っていた。
そんな時に、10年生の実行委員の人が僕の所にやってきた。その先輩は緊張した面持ちで僕に告げた。
「サバゲ―の1戦目、お前のクラスの対戦相手は棄権だ」
「えっ、どうして?」
「モデルガンとか、装備が全部壊されてた」
「えぇっ!」
僕も、話を聞いていたサバゲ―参加者や他の子たちも、顔を見合わせる。先輩が僕に耳打ちした。
「やっぱり、クロードの弟が何か知ってるんじゃないか?」
「でも先輩、対戦相手は直前までは知らされないよ? 実行委員しか知らないはず」
「クロードが話したのかもしれないだろ」
「そうかもしれないけど……」
僕がチラリとノアに視線を送ると、ノアはぎゅっと拳を握りしめていて、その場から走り去ってしまった。
僕はこうしちゃいられないと思って、バトンをジェイクに渡した。
「おい、ジョニー!?」
「僕の代わりに走っておいて!」
「ハァ?! おい!」
僕はノアを追いかけて、すぐに走り出した。学校の校舎を抜けて、学校の裏庭にある森。そこがサバゲ―の対戦場所だ。裏庭にある芝生にはテントが張られていて、そこにクラス別に用具が置いてある。
ノアの後に続けてそのテントに入る。何人もの人がテントの中にいて、5-2と書かれたプラスチックケースの中の道具が、全て破壊されている。
その5年生2クラスの先輩が僕らに気づいた。そして呆然とするノアの胸倉を掴んだ。
「お前がやったんだろう! 異物混入もサッカー部のも! そこまでして勝ちたいかよ!」
「違う、俺じゃない!」
「お前以外に誰がやるんだよ! 得をするのはお前だけなんだぞ!」
「やめてよ先輩! 本当にノアじゃないよ! ノアは朝からずっと僕らと一緒にいたよ!」
僕が先輩の手に縋ってそう言うと、先輩は舌打ちしながらノアを離してくれた。ノアが犯人扱いされるのはムカつくけど、先輩達が怒るのは当たり前だ。
「朝って言うけど、壊されたのは朝とは限らないだろ。昨日の夜かもしれない」
「そうだけど、まだ2年生の僕たちが、夜に家から出られると思う? もし出られたとしても、ノアの家から学校までは距離があるし、長い時間家にいないってなったら、ノアの両親が気づかないはずないよ」
「……じゃぁ、一体誰がやったってんだ」
「それは、わかんない。けど、先輩達も直前まで僕らのクラスが対戦相手って知らなかったでしょ? 犯人はこの事を知っていた人か、無差別にやったんじゃないかな」
「こいつの兄貴も実行委員だろ。兄貴に聞いたんじゃないのか?」
僕がノアに振り返ると、ノアはずっと俯いていたようで、ぎゅっとジャージの裾を握っている。
「ノア、対戦相手が5-2って知ってた?」
「知らなかった。兄ちゃん、最近俺の事避けてるし……」
「嫌がらせ行為をするような弟、避けられて当然だな。もういい、どっか行けよ」
「……」
ノアは落ち込んでいるし、先輩には追い払われるしで、僕らは渋々テントから出た。テントから出ると、裏庭に集まっていた学生や先生たちが、僕らのことをいぶかしげに見ている。やっぱり、疑われているんだ。
ふと、疑問がわいた。さっき先輩は、嫌がらせ行為をする弟なんて避けられて当然だと言った。だけど、ノアは否定しているし、あの弟想いのクロード先輩が、ノアを疑って避けるだろうか。
「ノア、クロード先輩が避けてるって?」
「うん……」
「どうして? 疑われてるんじゃないよね? なんで避けられてるの?」
「それは……」
ノアは俯いて言い淀む。何故避けられているのか、何故教えたくないのか。僕は必死に頭の中で考えを巡らせた。
異物混入事件で、結果的にノアの順位は上がった。サッカー部への嫌がらせで、技術テストは後日実施されたけど、モチベーションの落ちたライバル達はいい結果を出せなくて、結果的に新人戦にはノアが出ることになった。
ノアが優位に立つためにやったことだって、周りは思ってる。だけど、ノアはそんなことをする子じゃない。
ふと、ノアが言っていたことを思い出した。
「お腹痛いって言ったら兄ちゃんが薬くれて、それですぐ治った」
胃洗浄までした子もいたのに、普通の胃薬で薬物中毒の症状が治るものだろうか。もしかしてその薬は、普通の腹痛の薬じゃなかったんじゃないか。
スポーツ大会での対戦相手を知っているのは、実行委員のメンバーだけ。実行委員じゃないノアは知らないけれど、実行委員のクロード先輩は知っている。
ノアを優位に立たせたかったのは、ノア本人じゃない。ノアが教えたくないのは、かばっているのは――。
「クロード先輩が、犯人なんだね。そのことを問い詰めたから、先輩はノアを避けてるんじゃないの?」
ノアが、泣きそうな苦しそうな顔をして、僕を見つめる。みるみる涙があふれてきて、しゃくりあげるように泣きながら、ノアが泣き縋った。
「もう、こんなの嫌だ。兄ちゃんは、俺のために……でも、こんなことして欲しくなかった。兄ちゃんを止めたかったけど、でも……」
「……先輩は?」
「わかんない。今朝も早く出ていった……俺の対戦相手の、装備を壊すためだったんだ……」
僕はしばらく泣き縋るノアを抱きしめて、背中を叩いていた。ノアが落ち着いて、ノアの両肩を握った。
「ノア、僕も手伝う。先輩を止めよう」
「でも……」
「ノアを勝たせたいなら、次もまたやる。1回戦のトーナメントを勝ちあがる、8-1か10-2のどちらかが、今度の対戦相手」
「でも、この辺にはずっと人がいるし、多分みんな自分のクラスの装備を守るよ」
「うん。だから、多分対戦中に何かしてくると思う」
「対戦中に兄ちゃんが何かしたら、どっちみち俺たちは失格になっちゃうよ!」
「多分、そうならないように隠れて何かする気だと思う」
「何を……? どうやって……?」
「わかんないけど……」
先輩がどういう手段を取る気なのか、僕にはわからない。先輩の居場所も分からないし、もしかしたらすでに森に隠れているのかもしれない。2回戦以降はトーナメントだから、結果が出なきゃ対戦相手もわからないしね。
だけど、ノアも僕も無力だけど、一人じゃない。僕達には友達がいる。
「大丈夫。絶対クロード先輩を止めるから。ノアも止めたいんだよね」
「うん……!」
泣きながらも頷いたノアに、僕も笑ってしっかりと頷き返した。




