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魔法使いの子ども達  作者: 時任雪緒
1 孤児院「魔法使いの家」
4/63

1-4 テロリストよりも院長先生の方がよっぽど怖い

 ようやくクラリスが落ち着いて、ダンテの瞬間移動で孤児院に戻ってきた。ちなみにネイサン達も連れて戻った。ジョヴァンニ先生と院長先生の友達の、超能力捜査官のレオナルドさんに引き渡すのだそうだ。

 僕もほっとしたいところだったけど、正直な話それどころじゃなかった。それは僕だけじゃない。頼みの綱のリヴィオだって、ダラダラと冷や汗を流している。


 クラリス達は孤児院のリビングに到着した瞬間、思わずビクッ! とした。リビングのソファの背に肘を置いて、足を組んで、いつものリラックスモードで院長先生が座っていたからだ。隣にはちょこんと奥さんも座っている。


「あれ、アンジェロ。帰ってたんだ」

「おう、今帰ってきた」


 ジョヴァンニ先生と院長先生は、普通の感じで話しているが、僕たちから緊迫感が漂っていて、つられてクラリス達も冷や汗を流す。

 ふと、院長先生がクラリス達の方に向いて、営業スマイルを浮かべた。


「おかえり」

「た、ただいま。院長先生」


 子どもたちは知っている。院長先生がこういう笑い方をしている時は、ロクな事にならないと。滝の様に冷や汗を流すクラリス達に、更に院長先生が言う。


「こんな時間までどこに行ってたんだ?」

「う……」

「えっと……」


 素直に言ったら絶対に大目玉をくらう。だけど嘘をついて、それがバレたらもっと怖い。

 どうすべきかと迷って、ジョヴァンニ先生に視線で助けを求めるが、彼はニヤリと笑うと、ぷいと視線を外してしまった。

 アワアワしている子どもたちを見て、院長先生は深い溜息を吐く。そして突然号令をかけた。


「全員整列!!」

「「「「ハイ!」」」」


 しゅばっと僕たちは集まって一列に並ぶ。相変わらずダラダラと冷や汗を流す僕たちの前を、院長先生は一人一人の顔を覗き込みながら横切っていく。

 普段はとっても優しい院長先生だが、怒っているときは元軍人らしい厳しさを、いかんなく発揮するのだ!

「俺に隠し事は?」

「「「「できません!」」」」

「俺に嘘は?」

「「「「つきません!」」」」


 僕たちが一斉に返事をするのを見て、院長先生はウンウン頷いている。一通り僕たちの前を横切った院長先生は、再びどっかりとソファに腰かけて、営業スマイルで笑っている。


「俺は千里眼で、ずーっと見てたぞ」


 リヴィオたちは揃って「うっわぁ……」と項垂れる。院長先生は持っている能力が多すぎて、チートすぎる。卑怯だ。そんなつぶやきが僕にも聞こえて、やっぱりそうなんだと目の前がクラクラした。


「今俺の所には北都もいるから、テレパシーもずーっと傍受してた」


 北都というのが誰のことか僕にはわからなかったけれど、リヴィオたちはいよいよ白目を剥いて、放心状態になる。

 それを見て院長先生は少し愉快そうに笑って、再び立ち上がって、僕たちの前に立った。そして、営業スマイルじゃない、優しい顔で笑った。


「お前ら、マチルダを助けてくれて、ありがとな。よく頑張ったな。怖かっただろ」


 思いがけぬ優しい笑顔と言葉に、僕は感動して思わず涙目になった。

 だが年長のお兄さんお姉さんは知っている。院長先生がこれだけで済ますはずがないことを。


 案の定、院長先生は笑顔を引っ込めて、腕組みをして僕たちを見た。それでやっぱり僕たちは冷や汗を流す。


「マチルダを助けた事は褒めてやる。お前らの頑張りも認めてやる。だけど、その後がいけない」


 僕たちは項垂れながら、院長先生のお説教を聞いている。


「お前らはまだ子どもだ。テロリストの対策は、国家安全保障上の問題であって、子どもが手を出していい相手じゃない。こういうのは大人に任せてりゃいいんだ。大人が取りこぼして来たモンを、子どもが尻拭いする事はねぇ。お前らに超能力があって、普通の人間より強くても、超能力者を倒す方法なんて、いくらでもある。下手したら死んでたかもしれねぇんだぞ」


 院長先生の言いたいことはよくわかる。クラリスの暴走を止められなかったし、相手は銃を持っていた。撃たれたら能力を発動できないかもしれないし、死んでしまうことだってある。

 シュンとする僕たちに、院長先生は続けた。

 シュンとする僕たちに、院長先生は続けた。


「問題点1、俺や他の先生に、報告も連絡も相談もなかった。問題点2、クラリスの暴走を予防できなかった。問題点3、渋滞中の高速道路という、人目の多いところで能力を使った。問題点4、自分の能力を過信し過ぎている。この4つの問題点について、反省と対策を考え、その反省文を明日夜8時までに、俺に提出すること」


 一番嫌な罰が下りた事で、僕たちは一斉に顔を歪めた。


「「「「えぇ~っ! や~だ~!!」」」」

「えーじゃねぇ。以上、解散!」

「「「「はぁ~い」」」」


 僕たちはガックリと肩を落として、トボトボとリビングから出て行った。

 うぅ、僕は超能力者じゃないのに、なんでこんなことに。僕は泣く泣く部屋に戻って、院長先生に言われた課題に対して、僕は超能力者じゃないからわからないという軽い反論を入れながらも、真剣に反省文を書いたのだった。


*****************************************



 子どもたちが消えるのを見送って、奥さんが院長先生ににこっと笑った。


「テロリストのアジトはわかった?」

「あぁ。ったく、ウチの子に手ェ出しやがって。絶対許さねぇ」

「ホントよね! 叩き潰さなきゃ」


 そう言うと院長先生と奥さんは、ジョヴァンニ先生に留守を任せて、パッといなくなった。


 やれやれと溜息を吐いて、テロリストを縛りながら、ジョヴァンニ先生は電話をかける。相手はFBIの超能力捜査官、レオナルドさんだ。


「あ、レオ? お疲れ。ちょっとテロリスト捕まえたんだ。後からアンジェロ達が配達に来ると思うから。うん、よろしくー」


 それから30分もしない内に、レオナルドさんの所には、30人を超えるテロリストが配達された。


*****************************************


 翌日、僕たちは戦々恐々としていた。反省文を考えている内に、自分達のやらかした、事の重大さがわかって来たのだ。


 高速道路の事が大騒ぎになっていたらどうしよう。ホテルの部屋もめちゃくちゃにして、銃声を聞いた近くの部屋の人たちが警察を呼んでいたら逮捕されちゃうんじゃないか、ホテルから訴えられるかもしれない、テロリストの残党が報復に来るかもしれない。


 そんな風に怯えていて、朝起きてすぐ、アリス先生やジョヴァンニ先生、ステファニーお姉ちゃんに聞いてみたが、みんながみんな、「何も起きてないよ」と答える。

 これは院長先生が何か根回ししたな、と思いながら、朝食後にリビングでテレビを見ていた。


 朝はいつも院長先生がコーヒー片手に、ニュースを見ながら新聞を読むという、大変器用な事をしている。なので僕たちも一緒になってニュースを見るのが日課だ。


 今日のトップニュースはこちら。


「昨夜、ヴァージニア州の倉庫群が、地盤沈下によって倒壊しました。この事故によるけが人はありません。この倉庫群の一角は、テロ組織「アガルティア」が使用していた形跡がみられ、警察では、昨夜一斉拿捕された「アガルティア」との関連を調べています」


 僕たちは思わず振り向いて、院長先生を見た。院長先生はしれっとした様子で、コーヒーを飲みながら新聞の文章を追いかけるのみだ。

 今度は朝食の片づけをする奥さんに視線を注ぐと、奥さんは視線を促す様にゆーっくり横目で院長先生を見て、また僕たちに視線を戻した。そして、にっこり笑ってぱちんとウィンク。

 それを見た僕たちは、一斉に院長先生に集まって抱き着いた。


「「「院長先生大好きー!!」」」

「ちょ、お前ら……コーヒー零れただろ」

「「「院長先生ありがとう!!」」」

「……聞いてねぇし」


 院長先生はシャツに零れたコーヒーを見て溜息を吐いて、奥さんがハンカチを渡して、アリス先生とステファニーお姉ちゃんがクスクス笑って、ジョヴァンニ先生が「遅刻するよー」と声を掛ける。


 院長先生に一通りいってきますのキスをすると、僕たちは元気に学校に出かけて行った。



 こういうことがあったから、僕は彼らジェズアルド一族を魔法使いだと思ってる。

 みんな複雑な事情があって、超能力者で、変な環境だけど、僕はこの孤児院「魔法使いの家」と、ここにいるみんなが、大好きだ。

登場人物紹介


ジェズアルド一族


 人体実験と交配実験、薬物投与や外科手術により超能力者の研究開発をする非合法組織で生産された、人工的人類進化をテーマに作られた人造人間。

 強化人間をベースに作られた戦闘特化型個体と、天才をベースに作られた精神感応特化型個体とに大別される。

 そこの筆頭だったアンジェロによって救出された子どもたちが、アンジェロの養子になっている。


クラリス 17歳 ウェアウルフ 強化型

ジンジャー 16歳 フリーザー 強化型

カスト 16歳 透視 天才型

リヴィオ 15歳 広範囲同時テレパシスト 天才型 盲目

フローラ 15歳 透過 強化型

ダンテ 14歳 ワールドジャンパー 強化型

ミカエラ 14歳 パペットマスター 天才型

ジャンヌ 13歳 サイコキネシス 強化型

イアン 11歳 ダウジング 天才型

ジェイク 9歳 ヒーラー 天然型


院長先生 (アンジェロ・ジェズアルド)

36歳。元軍人。研究所で最高傑作と呼ばれた超能力者。当時のコードネームはコピーキャット。見た能力を片っ端からコピーする。強化型


奥さん(ミナ・ジェズアルド)

36歳。アンジェロの妻。人間じゃないことは基本的に秘密。普段はニコニコ愛嬌たっぷりで茶目っ気のある奥さんだが、ぶっちゃけ院長先生より危険人物であることは、ジェズアルド一族の子ども達は知っている。


ジョヴァンニ先生

30歳。元軍人。言語の現象化が可能なロマンサー。コードネームはレッドクリフ。絶対防御、能力の一時的な封印が可能。強化型。


アリス先生

56歳。 元超能力研究所能力開発部主任。研究に嫌気がさし、組織を裏切ってアンジェロについてきて、孤児院で保育士をしている。


ステファニーお姉ちゃん

24歳 核融合 強化型。ジョヴァンニ先生の婚約者

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