2-14 白トンガリの強襲 2
怯えて縮こまる僕たちの様子に満足したのか、白トンガリのリーダーは銃を降ろしてソロモンさんを見た。
「金融家に女優、投資家。生意気な連中だが所詮は家畜だ。命が危ういと知れば泣き叫ぶ様は、まさしく家畜そのもの。無様なものだ」
「君たちは、一体何が目的なんだ?」
「貴様らの下らない”ごっこ遊び”に終止符を打つ。ハーメルンの笛吹きも、今日で仕舞いだ」
「……なるほど、解散しろということだね」
敵対勢力なのだから、どこかで衝突することはあると思う。だけど、パーティに乗り込んで解散を要求するっていうのは、どこか不自然な気がする。何か大人の事情があって、白トンガリにとってリンクフリーが邪魔なのかもしれない。
僕にはその事情を推察することはできなかったけれど、少し考え込んだソロモンさんには、その心当たりがあったのかもしれない。やはり毅然とした態度で、リーダーに言った。
「はいそうですかと引き下がれるほど、私は生半可な気持ちで活動しているわけじゃない。君の後ろで糸を操っている男が何を考えていようと、我々は君たちのような人間の思想と闘うことこそが、活動の本質だ。ここで今日私が撃ち殺されたとしても、私の死が世間の風潮を変えるだろう。私の死が差別社会に投じられる一石になるのなら、本望だ」
ソロモンさんの言葉に、白トンガリ達は動揺した様子を見せたし、僕も他の人たちも感銘を受けた。そうだ、差別と闘うってことは、こういう人たちと闘わなきゃいけないんだ。怪我をするとか死ぬとか、本当はすっごく怖いけど、それでも、クラリスは僕が守るって決めたんだ。院長先生の陰で怯えてちゃダメなんだ。
僕が院長先生のスーツの裾から手を放して、僕が心に闘志を燃やした瞬間、パシパシと静電気が走ったように、僕と院長先生の間で赤い光が走った。
その瞬間、院長先生の体からバチバチと青白い閃光が走って、すぐ近くにいた白トンガリを直撃して、白トンガリがガクガク震えながらバタリと倒れた。
周りは騒然として、奥さんが顔色を変えて院長先生を見上げて小声で言った。
「ちょっとアンジェロ、何してるのよ!」
「あれ? いや、俺は何もしてねぇんだけど……」
と言いながら院長先生が僕を見る。僕もさっきの赤い光が気になって院長先生を見上げる。
「あの、僕……?」
「お前、もしかして……」
もしかして、もしかして。僕が何かやったせいで、院長先生の能力が暴走しちゃったんだろうか。院長先生は、それはそれは大きな溜息をつく。
「驚いた。ジョニーのやつ、”ブースター”だ」
「それって、能力者の能力を強化できるって能力よね」
「そうだ。ジョニーだけだったら何も起きねぇけど、周りにいる能力者の能力を増強する。ジョヴァンニとは真逆の能力だ。まさかジョニーも天然型だったとは」
院長先生も奥さんもみんなも驚いているけれど、正直僕が一番驚いている。だけど白トンガリが怒鳴りだして、今はそれどころじゃないと思い出した。
白トンガリ達は、僕たちの誰かがスタンガンを持っていて、それで攻撃したんだろうと言い出した。一番近くにいた僕たちがやっぱり目をつけられて、ジンジャーが腕を掴まれて引っ張り出された。
「お前か?」
「違うわ」
「やめて、ジンジャーを放して」
ジンジャーを捕まえる男を、クラリスが突き放した。するともう一人の男がやってきて、今度はクラリスの腕を取った。
「じゃぁお前か?」
「違うって言ってるでしょ!」
「女の子に乱暴しないで。なんならボディチェックでもする?」
奥さんが割り込んで、やはり男を突き放す。白トンガリ達は奥さんやクラリス達を上から下までジロジロと見て、3人の腕を掴んで引っ張りだした。
「クラリス!」
「奥さん!」
僕とマチルダは心配になって声をかけたけど、奥さんは小さく笑って、僕たちにパチンとウィンクをした。そうか、よく考えたら奥さんは人間じゃないし、クラリスとジンジャーは強化型だ。相手が大人の男でも、あの3人に勝つのは無理だ。だってウチの孤児院の強い人ランキング1位と3,4位だもん。そう考えると、まぁ大丈夫だろうと思えたので、僕はホッと息を吐いた。
当然白トンガリ達はそんなことは知らないので、得意満面といった様子で僕たちを見る。
「下劣な民族は売春でもやっているがいい。他の女たちも連れていけ」
悲鳴を上げて嫌がる女の人が、更に3人連れていかれた。下劣なのは一体どっちだ。吐き気がする。奥さんや女の人たちはステージの裏に引きずりこまれ、悲鳴が響き渡る。奥さんやクラリス達がいるなら大丈夫ってわかってるけど、僕はクラリスを守ると誓ったこともあるし、悔しくて腹立たしくて、僕は思わず叫んだ。
「やめてよ! クラリス達に酷いことしないで!」
そう僕が叫んだ瞬間、僕を中心にして赤い光が電流のように会場中に広がった。僕は自分が叫んでしまったことにも、その赤い光にも驚いていたけれど、白トンガリ達にはその光は見えなかったようで、リーダーが胡乱げに僕を見下ろす。
「男の使い道は、強制労働だろう。そしてガキの使い道は、弾除けの消耗品だ」
リーダーが僕に銃を向ける。僕は怖くなって震えが止まらなかったけど、どうしても許せなくて、頑張って足を踏ん張った。怖くて涙が出てきたけど、僕はリーダーを睨む視線を逸らさずにいた。
「生意気な目をするガキだ。せいぜい盾として仲間を守るがいい。それが本望なのだろう?」
リーダーがサブマシンガンのトリガーに指をかける。指が引き絞られた瞬間、僕のそばでフワリと風が起きて、同時にステージの緞帳を引き裂いて、白トンガリが吹き飛ばされて出てきた。
銃弾は確かに発射されたけれど、僕の足元に潰れて転がっている。そしてステージの方では、バツの悪そうな顔をしたジンジャーとクラリスがこちらを覗いていた。
よくわからないけれど、クラリス達は大丈夫そうだし、僕も怪我はしてない。リーダーは吹き飛ばされた白トンガリを見た後、怪訝そうに僕を見る。
「お前たちの企みなんて成功しないぞ。だって僕たちは、魔法使いの子どもだから!」
再び僕の体から赤い光が迸った。




