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魔法使いの子ども達  作者: 時任雪緒
2 私立ワシントンプレパラトリーアカデミー 初等部1年生
22/63

2-11 生卵マン、初めてパーティに行く 2

「ジョニー、ダメよ。行儀の悪い」

「イアンとカストも。からかわないの」


 クラリスとジンジャーに喧嘩両成敗されたものの、僕はのっけからアミューズブーシュ(突き出しって意味だって院長先生が教えてくれたよ)であるオムレツのライ麦チップスサンドを食べ損ねた。ほんの一口程度のものだけど、「美味しい!」と小躍りしている。羨ましい。食べ物を粗末にしたから罰が当たったんだな。気を付ける。

 次のご飯が運ばれてきた。なになに、秋野菜とブルトン・オマールのテリーヌ。トリュフや栗、新じゃがとレア状態にポアレしたオマールエビをプレスしました、と。

 ナイフとフォークを入れて、トマトソースにつけて一口目を口に運ぶ。


「!!」


 ねっとりと口の中に広がるエビの濃厚な味わい。このエビ、普通のエビと全然違う。甘みのある野菜の優しい風味に、トマトの酸味がいい刺激になっている。

 すごい、こんな美味しい食べ物、僕初めて食べた! 僕はがっつきすぎない程度に気を付けはしたものの、ひたすらに食べることに集中した。



「……」

「……」

「みんな、静かだね」

「いつもこの位静かだといいんだけどな」


 僕たちが黙々と食事をしているので、院長先生と奥さんが何か言っていると、院長先生の傍に人が立った。


「ようイタ公。フレンチ食ってるっつーのに、お前は今日もパスタくせぇな」

「ようドイツ野郎。お前もソーセージくせぇぞ」


 院長先生に軽口を叩いて笑っているおじさん、見た事ある。顔が大きくて立派な髭があって、口の悪いこのおじさんは、ホルスト・リリエンタールさんだ。リリエンタール・レイノルズっていう弁護士事務所の代表の一人で、ウチの顧問弁護士さんだ。 

 リリエンタールさんはいつも口が悪くて、院長先生もそれに合わせて「男の挨拶」を返している。付き合いも長いんだろうし、仲良しなんだろう。このパーティに来ているのは、少し意外だけれどね。


「それよりイタ公、お前なんでここにいる?」

「話は変わるけど、俺はイタリア出身なだけで、イタリア人じゃねぇからな?」

「見りゃわかる。北欧丸出しの面しやがって、寒気がしてくるぜ」

「オリエントも入ってる」

「どうせテロリストの家系だろ。いや、話を変えるんじゃねぇよ。その情報今いらねぇ」

「ウチの子が招待に預かったんで、引率だ。お前は? 寄付金でもくすねに来たか?」

「バカ言え、金持ちの税金対策で出てきた金なんて、湿っぽくていらねぇよ。ウチのかみさんが、ノアチャイルドんトコの嫁と同級生なんだよ」

「あぁ、それでか。じゃぁ仕方ねぇけど、お前早く帰った方がいいぞ。浮いてる」

「口の減らねぇ奴だな」

「お互い様だろ。そういえば最近グレッグはどうしてる?」

「誰かさんに似て減らず口ばっかりでイライラするぜ。さらにタチの悪いことに、アソシエイトん中じゃ飛びぬけて優秀だ。お前はどんな教育してんだよ」

「俺に似る様に教育してる」

「可哀想に。お前んとこの子ども達が気の毒で仕方がねぇよ」


 二人とも非常に口が悪いけど、刺激的で面白いので、僕はこの二人の会話を聞くのが好きなんだよね。

 さっきからイタ公とかドイツ野郎とか、オリエント=テロリストとか、思いっきり差別用語が飛び交ってるけど、まぁいいか。さっさと食べ終わってエビの至福を喪失した僕は、二人をじーっと見つめていた。

 そうしたら、僕の視線に気づいたらしいリリエンタールさんがこちらを見て、目が合った。


「おう、さっき紹介されてたジョニーじゃねぇか。生卵ぶつけたってのは本当か?」

「うん。地味にダメージ大きいかなって思って」

「はっはっは! お前やるなぁ! おいイタ公、お前の教育方針、ちょっと見直したぜ」

「だろ?」


 リリエンタールさんは豪快に笑ってるし、院長先生もドヤ顔してるし、僕もダイレクト に褒められたので、ちょっと気分がいい。

 少し話をすると、リリエンタールさんは奥さんらしき女性に呼ばれて「またな」と人並みの中に消えていった。面白いけど、嵐のようなおじさんだ。

 

 リリエンタールさんがいなくなった直後に、次のご飯が運ばれてきた。次はトマトのコンプレッション。ジューシーなトマトをセミドライしたものを成型して、その中にフルーティなトマトのムース、タルタル、ゼリーを三層に重ねたもの。ナイフを入れると、中からとろっとした赤いソースが出てきた。

 僕はなるべくソースがこぼれないように慎重に掬って口に運ぶ。うぅー! 美味しい!

 ドライされたトマトは風味が凝縮されて濃厚だし、フルーツトマトのソースは甘くて瑞々しい。このホテル、絶対また来たい。

 すでにノアチャイルド・グランドホテルのファンになった僕のところに、このホテルのオーナーでパーティの主催であるソロモンさんがやってきていた。


「当ホテルの食事はいかがかな?」

「すっごく、すっごく美味しい!」

「そうかい。喜んでもらえて光栄だよ」


 僕ににっこりと笑いかけると、ソロモンさんは院長先生の方を振り向いた。それで院長先生も営業スマイルで立ち上がった。


「初めまして。本日はお招きいただき、感謝します」

「こちらこそ。楽しんでいただければ幸いです」


 さっきのリリエンタールさんとの会話が嘘みたいな、上品な会話だ。大人はキャラの使い分けをしなきゃいけないから大変だ。

 院長先生とソロモンさんは自己紹介をして名刺交換をして、孤児院や経済の話やビジネスの話をしだした。完全に大人の会話だ。一応奥さんは参加している体を装って、院長先生の隣でニコニコしている。そこに茶髪の巻き髪のすごくきれいな女性がやってきた。どうもソロモンさんの奥さんみたいで、今度は奥さんチームの自己紹介が始まって、教育の話や夫の話をして。


「ねぇジョニー、大人の話って、つまんないね」

「だね。でもリリエンタールさんは面白かったね」

「あの人は心が少年なんだよ、きっと」


 マチルダとそんなことを言っていると、ジンジャーにクスクス笑われた。ジンジャーに聞こえたなら、院長先生にも聞こえてしまったんじゃないかと思って覗き見ると、ソロモンさんと目が合った。


「退屈するかもしれないと思って、チョコレートフォンデュを用意したんだ。あのシャンデリアの下だよ。行ってみてごらん」


 チョコレートフォンデュ。子どもが一回はやってみたい、お菓子とアトラクションの運命的な融合、チョコレートフォンデュ!

 僕たちは一瞬でチョコレートフォンデュに心を奪われて、すぐさまシャンデリアの方に向かった。



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