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魔法使いの子ども達  作者: 時任雪緒
2 私立ワシントンプレパラトリーアカデミー 初等部1年生
19/63

2-8 僕の学校生活 放課後

 学校が終わると、ロドリゲスさんがお迎えに来てくれている。ミドルやハイスクールの先輩たちは終わるのがもっと遅いし、クラブに入っている子もいるから、夕方ロドリゲスさんは5時間目が終わると1時間おきに迎えに来てくれている。

 ロドリゲスさんは日中、バスを含めた孤児院車をメンテナンスしたり、院長先生の仕事の運転手をしたりしているんだって。

 僕らは必ずロドリゲスさんのバスで帰らなきゃいけない。以前のマチルダ誘拐事件みたいなこともあるし、昔も色々あったんだって。

 かといって、学校帰りに遊んだりできないかというと、そんなこともない。ルールは「ロドリゲスさんの送迎」なので、ロドリゲスさんに送ってもらい、ロドリゲスさんに迎えに来てもらえば大丈夫。要は所在をはっきりさせて、連絡をきちんとすればOKてこと。ロドリゲスさんは大変だと思うけど、僕たちはそれで特に不満はない。今のところね。


 僕たちがバスに乗り込むと、最後に院長先生が乗ってきた。ついでに奥さんも。ロドリゲスさんも少し驚いたように二人を見た。


「ボス、奥さんも。珍しい」

「色々あってな」

「アンジェロがちょっとハッチャケちゃって。ププッ」


 5時間目のことを思い出して、奥さんと僕たちもクスクス笑い、院長先生がちょっとバツの悪そうな顔をして、ロドリゲスさんは首をひねる。院長先生が最後だったので、ロドリゲスさんは首をひねりつつも周りを確認してバスを発車させた。


「なにかあったんですかい?」

「ローザンヌ高校の奴らがケンカ吹っ掛けてきた」

「えぇ? あいつらまた来たんですかい? 9年前もボスがコテンパンにしてやったのに?」

「まぁ、9年もあれば教師も生徒も代替わりしてるだろうしな」

「9年で”WPAに関わるな”って校訓は、忘れられちまったわけですね」

「どうもそうみたいだ」

「そいつぁご苦労なことでした」

 

 一応労いつつも、ロドリゲスさんは愉快そうに笑って、やれやれと首を横に振る。ロドリゲスさんは設立したころからウチにいるらしいので、昔のことも大概知っているらしい。

 面白い昔話が聞けると思ったのは僕だけじゃなくて、意外にも奥さんがノリノリだった。


「ねぇ、9年前はどうやって追い払ったの?」

「うーん、別に。フルボッコにしただけ」

「それ問題にならなかった?」

「50対1で負けたなんて、不良が警察に訴えると思うか?」

「あはは、それは無理だね」


 うっわ、それは恥ずかしい。50人がかりでスーツ着たホワイトカラーに負けました、なんて恥ずかしくて言えないよね。


「でもさすがにあの時は、ボスもスーツが汚れてやしたね」

「9年前は修業が足りてなかったな」

「ははは、今回は綺麗なもんだ。修行の成果ですかい?」

「いや、今回はタイマンだったからな」


 デコピン1発で相手を鎮めるのを、タイマンと呼んでいいのだろうか。僕はちょっと違う気がする。奥さんが笑いをこらえながら言った。


「ていうか相手が何人だろうが、銃持ってようが、アンジェロが出てきた時点で、もうこっち側の反則勝ちだよね」


 僕たち全員が、ウンウンと深く頷く。それを院長先生がジットリした目で見ているので、僕たちはさっと窓の外に視線を移す。

 院長先生は小さく溜息をついて、座席に肘を置いて、足を組み替える。


「つーか、あのチンピラどもに嘘ついたわ」

「え? 嘘って?」

「学院で一番強いの、俺じゃなかったわ。あのタイマンにはミナを出すべきだった」


 僕たちはいっせいに奥さんを注視する。院長先生より奥さんの方が強いってどういうことだろう。やっぱ最強の吸血鬼の弟子って言ってたし、人間の院長先生より全然強いってことかな。

 僕らが興味津々で奥さんを見るので、奥さんは両手をワタワタと泳がせ始めた。


「え、なんで。ムリ、マジ無理。私絶対手加減できない!」

「……そうだな。やっぱお前出さなくてよかった」


 院長先生が少しゲンナリした様子で奥さんの肩をポンと叩き、ロドリゲスさんはゲラゲラ笑っている。


「ははは、奥さんはほんっとーに容赦ねぇですからね。こないだ奥さんを送った時なんか、後ろから煽ってきた車、ハイウェイからブン投げてやしたよ」

「ギャー! なんでそれ言うの! 内緒にしてって言ったのに!」

「あ、すいやせん」


 ロドリゲスさんの話を聞いて僕たちは目が点になった。でもそれ以上に奥さんはワタワタして、院長先生の顔色を窺っている。

 一方院長先生は、半目で奥さんを睨みつける。ただただ無言で、睨みつける。怖い。


「いや、アンジェロ、あのね? 大丈夫だよ? 多分死んでないよ、多分」

「多分って、お前なぁ……。その車、爆発は」

「してないしてない! 大丈夫、今回は爆破してないよ!」

「……あ、そ」


 許すんかーい! 爆発してなきゃいいんかーい!

 僕らは心の中で全力で突っ込んだ。多分奥さんがやりすぎるのは、院長先生が甘やかすからだ。絶対そうだ。

 そんで、「今回は」爆破してないってことは、前回はやったんだろうな。信じられない。その辺のヤンキーやテロリストより、奥さんの方が100倍やばい。そりゃぁ、テロリストから人間兵器として狙われちゃうよ。


「お前はやることがいつも派手なんだから、事件をもみ消す俺の身にもなれよ」

「うん、ごめんねぇ」

「全く……」

 

 奥さんはいつものニコニコスマイルで院長先生にもたれかかって甘えて、それで院長先生は諦めてしまったようだ。

 甘ーい! 院長先生奥さんに甘いよ! 雰囲気も甘いけど扱いも甘い! 僕らにはいつも厳しいのに! 差別だ!


 院長先生はカッコいいし頭もいいしお金持ちだし強いし超能力者だし、全く隙がない人だ。でも多分、院長先生の唯一の弱点が、この奥さんなんだ。

 おそらくこれが、惚れた弱みというやつなんだろう。


 僕も女性には気を付けないと。奥さんみたいに甘え上手で制御がきかない人は、僕はお嫁さんにしてはいけない。奥さんは院長先生だから結婚できたに違いない。僕は院長先生と違って普通だから、超能力とか魔法とかを使わない、普通の女の子と結婚しようと誓った。

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