2-5 僕の学校生活 給食
ウチの学院の特色といえば、給食があることだ。もちろんご飯は給食のおばちゃんたちが作ってくれるんだけど、配膳は生徒の仕事。
お昼は普通コースも英才コースもアスリートコースもみんな食堂に集まる。そして各クラスの給食係が食堂の配膳口から給食を預かってきて、給食係が流れ作業で給食を配膳していくというシステム。
このシステムを採用しているのは、国内ではごくわずからしい。奥さんが日本からもってきたシステムらしいけど、こういうシステムは貧困地域にこそ用いられた方がいいと思う。
食堂の指定席に腰かけて昼食を食べていたら、僕たちの斜め後ろのテーブルから黄色い声が聞こえる。その席は11年生の女子たちが座っていて、一つのテーブルに熱い声援を送っていた。
「ジョナサン先輩カッコいい」
「えーっ、ロナルド先輩の方がかっこいいって」
ジョナサン先輩とロナルド先輩というのは、普通コースの12年生の先輩だ。二人ともお金持ちの御曹司で、成績も優秀で運動神経もいい。一応だけど、英才コースとアスリートコースは完全に格が違う専門クラスなので、彼らと比較しちゃだめだ。ジョナサン先輩もロナルド先輩も、普通の人にしてはかなりできる方。一般的にエリートコースを歩む部類の人。加えて二人ともイケメンなので、学内の女子人気はとっても高い。だからこうやって女子がキャーキャー言うのも日常茶飯事なので、僕は気にせず食事を続けていた。
「でもさぁ、今日表彰あったじゃん」
「理事長先生の養子たちでしょ。アレ絶対コネだよね。答案横流しでもしてるんじゃない?」
「それにほら、学会で論文がナントカとか。がり勉野郎とかキモイんだけど」
「しかも盲目とかマジきもいよね」
そんな心ない言葉が聞こえてきて、僕は我知らずフォークを握る手が震えていた。僕の手は怒りに震えていたんだ。
僕の大好きなリヴィオを不当に非難して、彼がどれほど努力しているかも知らないくせに、好き勝手なことを言うなんて許せない。
文句を言ってやろうと立ち上がると、同じことを考えたのかマチルダもテーブルを叩いて立ち上がった。すると11年生の先輩たちは気づいて、僕たちを怪訝そうに見ている。
「は? なに?」
「もしかしてアレじゃない? 同じ孤児院の」
「あぁ、捨て子ね」
「やだぁ、それ言っちゃ可哀想だってぇ」
頭に血が上って言い返そうとしたら、急に先輩たちがむぐっと口をつぐんだ。それは明らかに自発的なものじゃなくて、縫い留められたように口が開かないといった様子だ。どうしたのかと様子を訝っていると、先輩たちは立ち上がって、そのまま更に椅子の上に立ち上がる。
そして、自分たちの給食が盛られたトレーを持ち上げて、頭から食事を被った。僕たちはその様子を呆然と見ていたんだけど、向こうのほうでミカエラが顔の前で細かく指を動かしているのが見える。どうやらミカエラがパペットマスターの能力で操っているらしかった。
11年生の先輩たちは、頭からコールスローとシチューを被ってしまったので、恥ずかしさで食堂から走って出ていってしまった。ふと、リヴィオからのテレパシーが頭に響いた。
(僕のために怒ってくれてありがとう。だけど、喧嘩はよくないよ)
続けてミカエラからも。
(そうよ。あんな奴らマトモに相手にしなくていいの。吠えるだけで何もできないんだから。それよりアンタ達が先輩から目を付けられることの方が心配よ。こういうのはお兄さんお姉さんに任せておけばいいの)
僕は心の中で「ごめんね」とお返事をして、小さくミカエラに親指を立てると、ミカエラからもウィンクとともにサムズアップが返ってきた。
先輩には目をつけられたかもしれないけど、ミカエラのおかげで意趣返し出来て僕はすっきりした。
まぁつまるところ、正々堂々喧嘩しなくても、彼らは一般では計り知れない能力で仕返しができるので、好きにさせておいても大丈夫なんだろう。大体彼らは、他人から何を言われても卑屈になる必要がないくらい、優秀だしね。僕が口出しするようなことはない。
まぁ僕も、せめてとは言わないまでも、ジョナサン先輩とロナルド先輩みたいに、「普通にしては出来る」人間を目指さないといけないなと思った。