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魔法使いの子ども達  作者: 時任雪緒
2 私立ワシントンプレパラトリーアカデミー 初等部1年生
15/63

2-4 僕の学校生活 4時間目

 4時間目は外国語の授業。と言っても1年生はフランス語や中国語なんて高度な外国語を学ぶわけじゃなくて、イギリス英語。同じ英語だけど、イギリス英語はアメリカ英語とは読み方も違うし、あちらはキングスイングリッシュもあるから、外国語として扱っている。同じ英語だから覚えやすいってことで、1年生はイギリス英語。

 いつも通り窓際の席に腰かけると、外のベランダからバタバタと音が聞こえた。見ると、大きな白い布がベランダに張られている。何か書いてあって、裏側からだと字が反転して読みにくかったが読んでみた。「おめでとう」と書いてある。

 あぁなるほど、奥さんが来ていたのは、この横断幕を持ってくるためだったんだ。横断幕づくりは奥さんの仕事って聞いたことがある。

 そんなことを考えていると、始業ベルじゃなくて、またしてもピンポンパンポーン。


「全校の皆さんにお知らせします。只今より、臨時学院総会を開始します。全員速やかに講堂に集合してください」


 横断幕に載っている件だろう。僕たちは授業が潰れた事をちょっと喜びつつ、きちんと整列して講堂へ向かった。


 学校の講堂は1階にある。ちょっとした市民ホールくらいの広さがあって、床には赤い絨毯が敷き詰められて、中央には演台がスポットライトに照らされていた。僕達は階段状に配置されたシートに腰かける。先生たちは僕たちを先導した後、最前列の自分の席に行った。


「ねぇ、なにかな?」


 隣のロイドがコッソリ耳打ちする。


「横断幕におめでとうって書いてたから、また誰かがいい成績とった表彰とかじゃないかな」

「なるほどね! でもなんで突然なんだろうね?」

「なんでだろう?」


 表彰とかだったら、せめて前日に告知してもいいような気はする。ロイドに言われて僕も疑問に思ったけど、演台の前に校長先生が立ったので、僕たちは静かに前を向いた。


「えー、今日は授業を中断して、急に総会を開くことになりました。えー、というのも、先日の全国模試で、えー、わが校の学生がですね、えー、素晴らしい成績を修めました。えー、それで今日は、えー、表彰式を行います」


 色白で真っ白な白髪がハゲかかっている校長先生は、いつも「えー」がやたら多い。気になりだしたらものすごく気になるけど、校長先生はえーえー言いながら生徒を呼んだ。


「えー、11年生、ニコラ・ホワイト、10年生、カスト・ジェズアルド、9年生、リヴィオ・ジェズアルド、8年生、ミカエラ・ジェズアルド、5年生、イアン・ジェズアルド。前へ」


 うわぁ、11年生のニコラ先輩以外、見事にウチの先輩達が呼ばれた。周りの雰囲気も「またあの人たちか」って感じだ。

 次々に表彰されていく内容をまとめると、ニコラ先輩は全国模試11年生の部3位、カストは10年生の部1位、リヴィオは9年生の部1位、ミカエラは8年生の部2位、イアンは5年生の部1位。いやはや、恐ろしいね。みんなも「おぅ……」と言いながら首を横に振る。やっぱウチの学校の英才コースってすごい。

 呆れ半分、感心半分で表彰式を見ていると、演台から降りようとしたリヴィオを校長先生が引き留めた。


「実はこれで終わりじゃないんだ。えー、リヴィオ・ジェズアルド君。えー、ここにいる彼が、えー、先日発表した論文が学会誌に掲載されて、えー、非常に高い評価を受けた。えー、それで彼を祝福したいと、特別なお客様が来てくれています」


 誰だろうと舞台袖を見ると、校長先生に促されてはいってきたのは、20歳くらいでスーツを着ていて、金色のウェーブがかった髪を清潔に整えて、紫色の瞳をした、ものすんごいイケメンのお兄さんだった。

 彼が現れたと知って、リヴィオも嬉しそうに破顔し、二人は固く握手をする。


「あれ、レミ先生じゃん」


 僕の後ろからマチルダが言う。


「レミ先生?」

「ジョニー会ったことなかったっけ?」

「知らない」

「そっか。まぁいつもはニューヨークにいる人だし、あんまりこっちには来ないもんね」

「ふぅん?」


 マチルダが知ってるということは、院長先生の友達だろうか。そんなことを考えていると、レミ先生の正体を知りたがったのは僕だけじゃないらしく、それに気づいた校長先生が紹介した。


「えー、皆さんに紹介します。えー、こちらはレミ・ヴァルブラン先生。彼はまだ若いが、えー、かのアイビーリーグに名を連ねるコロンビア大学で教鞭をとっている先生だ。えー、先生は10歳からコロンビア大学に在籍し、えー、幼少から数々の発明をし、論文を書いてきた先生で、えー、今現在アメリカでは、国内で最も天才的な人物と言われている」


 紹介を受けたレミ先生は、校長先生が演台の前から退くと、演台の前に立って僕たちを見渡した。


「皆さん初めまして。校長先生の紹介で訂正を1つだけ。僕は決して天才的なんじゃない。僕は100%天才だ。その点を間違えないように」


 レミ先生の傲慢な物言いに、講堂に笑いが起きる。


「僕が天才なのは生まれつき。ここにいるリヴィオだってそうだ。だけど天才っていうのは、ただ頭がいい人間のことを言うんじゃない。人間として正しい魂をもって、自分のやるべきことを全力で貫ける人間じゃないと、天才とは呼べない」


 レミ先生は一旦言葉を切って、リヴィオを傍に立たせて肩を組んだ。


「僕がリヴィオに初めて会った時、彼は失明したばかりで人生に絶望していた。ミカエラはⅠ型糖尿病が悪化して死にかけてたし、今でもインスリンが手放せない。彼らは天才だけど、健康でないことはとても不幸なことだ。でも、リヴィオはそんなことで挫けたりしなかった。それは彼自身が、自分の能力が社会に貢献するものだと知っているからだ」


 少し照れたように俯くリヴィオに、レミ先生は少し愉快そうに笑って、また僕たちの方を見た。


「みんなも努力してほしい。自分なんてって、自分を卑下して逃げ道を作らないでほしい。君たち一人一人が、社会から必要とされている。それを忘れないでほしい。そしていつか、僕を超える天才が現れるのを、僕は頂点で待っててあげるよ」



 せっかくイイことを言っていたのに、またしても傲慢なセリフに、やっぱり講堂で笑いが起きる。


「リヴィオ、おめでとう。期待してる」

「レミ先生、ありがとう」


 二人は固く握手をして、演台から降りた。なるほど、今回はレミ先生がやってきたから、急に総会を開くことになったんだな。

 まだあんなに若いのに、大学の先生をしていて、天才でイケメンでって、神様は彼に才能を偏らせすぎなんじゃなかろうか。


 だけど舞台袖に下がったレミさんが緞帳の陰で、「てめぇ調子に乗りすぎなんだよ」と院長先生からボディブローされてるのが見えて、その後の僕は笑いをこらえるのに必死になった。

登場人物紹介


レミ・ヴァルブラン

20歳。元軍人。天才型の能力を有する強化型。試験的に開発された新人類のひな型で、試作型はレミしか存在していない。

天才的な頭脳に加え、サイコメトリックと予知夢を見ることができる。もちろん強化型なので身体能力もずば抜けており、大変手先が器用で、その器用さで発明されたものもある。

現在はコロンビア大学の研究所におり、時々講師も務める。10歳からコロンビア大学に入学し、様々な発明をし、現在は工学博士として業界では超有名人。

イケメンで学生やまわりの女性から非常にチヤホヤされるのだが、研究バカで女性に興味がない唐変木。

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