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魔法使いの子ども達  作者: 時任雪緒
1 孤児院「魔法使いの家」
1/63

1-1 僕と魔法使いの子ども達

 アメリカ合衆国の首都ワシントン。洗練された大都市の郊外の一角には別荘地があり、その中の一つ、広大な敷地を有する白亜の屋敷は、魔法使いの家と呼ばれている。

 孤児院「魔法使いの家」創設者はアンジェロ・ジェズアルド。元イタリア軍軍人で、戦災孤児となった子どもを引き取ったことが、孤児院創設のきっかけと言われている。

 初代ジェズアルド一族と呼ばれる先輩たちは、みんな弁護士や代議士、事業家になっていて、魔法使いの家を出た子どもの評価は総じて高い。時には孤児だと差別されることもあるが、たまにお土産を持って孤児院に遊びに来てくれる、成功者となった先輩たちを見ていると、自分も頑張ろうと勇気をもらえる。


 そんな家で過ごす僕の名前は、ジョニー・マクダレン。パパが詐欺で捕まって、ママには置いて行かれた。だから魔法使いの家に引き取られた。まだ7年しか生きてないのに、自分でも割と壮絶だと思うが、先輩たちほどじゃない。世の中には色々ある。

 僕がここに引き取られることになった時、児童相談所の人に連れられてここにやってきて、一番最初に出迎えてくれたのは院長先生だった。オールバックに纏めた金色の髪に意志の強そうな金色の瞳、きりっとした精悍な顔と、高級スーツを着こなす194㎝の高身長。正直ガタイが大きくて少しビビったのはみんなには秘密だ。

 少し怯えたけれど、院長先生は僕にやさしく微笑んでくれたし、院長先生の後ろからひょっこり顔を出した奥さんが、ニコニコ笑って僕を抱きしめてくれて、僕は安心した。僕はここにいていいんだ、受け入れてくれたんだ。そう思って安心したんだ。


 そんなことを思い出しながら鉄道模型を作っていたら、隣に誰かが座った。人懐っこい笑顔で、「また模型作ってる」と茶化すのは、僕がここにきて最初にできた友達、マチルダ。マチルダは事故で両親を亡くしてしまって、ここに引き取られたらしい。最初のころはふさぎ込んでいたと言っていたけれど、僕と出会った頃のマチルダは、人懐っこくていつもニコニコして僕を遊びに誘ってくれた。真っ黒の髪と真っ黒のクリクリした瞳がキラキラしていて、黒い肌は健康的。明るくて屈託のないマチルダが、僕は大好きだ。

 今日もやっぱりマチルダに遊びに誘われて、途中にしていた模型を丁寧に箱に戻した僕は、ジョニーと名前の書かれたロッカー(リビングにある各自のおもちゃ置き場だ)に箱を置いて、その代わり水鉄砲をもってマチルダと一緒に庭に出た。

 

 この孤児院は元々、世界的企業であるスペンサー製薬会社CEO、ジュリア・スペンサー個人の別荘で、院長先生が借り受けているものだ。だから、お金持ちの別荘あるあるで敷地は非常に広くて、テニスコートやプールまである。先輩たちの中にはそういったスポーツを楽しむ人もいるが、僕とマチルダは動物の形にカットされた植木が並ぶ、南の東屋のそばにやってきた。


 動物の植木に囲まれるように、ひっそりと佇むその東屋には先客がいた。僕は別のところに行こうかと思ったけれど、マチルダがいたずらっぽく笑って口の前で人差し指を立てている。相手をビックリさせてやる気なのだ。こういういたずら好きなところは困ったものだけど、僕もそれに賛同してうなずいた。

 芝生を踏みしめるサクサクという足音に注意しながら、東屋に忍び寄る。相手の茶髪の頭が見えたところで、クスクスと笑い声が聞こえた。


「ジョニー、マチルダ。何してるの?」


 彼からは僕たちの姿は見えていないのに、どうしてわかってしまったのか。僕たちがびっくりしていると、彼は読んでいた本を閉じて立ち上がり、こちらを向いた。そして苦笑気味にして言った。


「僕は目が見えない代わりに、耳がいいからね。足音くらい聞き分けるよ」


 彼のそのセリフに、マチルダはつまらなそうに頬を膨らませる。僕はその隣を駆け抜けて、彼に抱き着いた。そんな僕を見て、マチルダは溜息をつく。


「もう、ほーんとジョニーはリヴィオのこと大好きなんだから!」


 そう。僕はこの彼、盲目のリヴィオが大好きだ。盲目なんてことは関係ない。リヴィオは優しくて洗練されていて、頭もすごくいい。リヴィオも院長先生と同じジェズアルドの氏を冠する、ジェズアルド一族の人間だ。リヴィオのように院長先生に引き取られて、院長先生の養子になった初代の子ども達が、リヴィオ含めて28人。過半数はすでに成人しているが、リヴィオのように未成年の子どももいる。僕は、彼らジェズアルド一族こそが、魔法使いの子どもだと思っている。


 それはなぜかというと、話は1か月前にさかのぼる。

登場人物紹介


ジョニー・マクダレン

主人公の少年、7歳。黒髪癖毛青目の混血。父親は5歳の時に詐欺で逮捕され懲役7年の刑に服している。母親は父親の逮捕後人が変わったようになってしまい、男を作ってジョニーを置いて出奔してしまった。近所の人がそれに気づいて通報し保護され、現在に至る。

鉄道模型作りが趣味で、非常に好奇心旺盛。比較的勉強熱心で成績もいい方。なんでも首を突っ込みたがる性格で、なおかつ人当りもよく要領もよく、父親譲りなのか結構な人たらし。


マチルダ・リンゼイ

7歳 黒髪の黒人と白人の混血。両親が事故で他界し、引き取ってくれる親戚もいなかったため孤児院で引き取られた。明るくて人懐っこく、親切で面倒見がいい。施設でもよく幼い子供たちの面倒を見ている。勉強はあまり得意ではないが、活発で歌やダンスが得意で女子の人気者。ジョニーの親友。


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