7章ー5話「ダッシュ!ダッシュ!ダッシュ!」
早朝の練習が終り一度民宿に戻って朝食を済ませた。
食事のあと直ぐ運動は良く無いので休憩がてら今日の練習スケジュールの話を聞いた。
オリンピックの選手や世界チャンピオンのトレーニングメニューを聞いていうのかと思ったけどやっぱりそのメニューは僕に降りかかってくるらしい。
さきほどの立禅で早くも下半身がぎしぎしと音を立てているような気がするのだが果たして今日一日無事に過せるのだろうか。
車で移動して更に人気の無い所に着いた。
ここではまりか先生が考案したトレーニングを行うのだが、
「芳樹くーん。100mダッシュ×百本だよぉ。」
と陸上の選手を目指すのであろうかという内容をさらっと言われていた。
本当に百本やるのだろうか。
「本当に決まってるだろ。いくぞ!」
スタート地点には日焼け対策ばっちりした乙女姉さんが居た。
ゴールにはストップウォッチを持ったまりか先生が居て隣では英治さんたたい4人が交代交代で走ってくれることになった。
僕がペースが落ちないようにだそうだけど百本走りきるのは僕だけなのか・・・。
「行くよー・・・よーいドン!」
第一走者はいきなり英治さんだった。
あっという間に引き離され早朝と同じく英治さんの背中を追いかける形となった。
英治さんならこっちでもチャンピオンになれそうだなと思わせるスピードだった。
一本目を走りるや否や英治さんから
「だらだらするな。直ぐに戻って!」
「はーい残り99本!」
そんな気の遠くなるような・・・。
10本、20本と走りきった。
早速酸素が切れかけてきて走ってる間隔も無くなるつつあった。
まだ半分もいってないのに。
横でみきがぜーぜー言っていた。そりゃそうだ。
みきは別に格闘家めざしてるわけでもなくまして運動部でも無いし。
「ん?しゅんは全然ばてて無いな。」
会長とラッキー先輩しゅんをみながら驚いていた。
あぁ、しゅんは中学のとき長距離だけど市の大会で軒並み優勝してきたんで結構そっちはあるんですよ。
「は?この不健康そうな細いやつが?」
「失礼な。そんな不健康そうなやつに重労働まかせないで下さいよ。」
そこはすかさず切り替えして言った。
「そんな後付け設定いらないぞしゅん。」
後付って。
まぁ普段そういうこと話さないから知らないだろうな。
持ってる本も音楽関係とかだし、見た目からも想像できないだろう。
人は未知の可能性と神秘を秘めている。
ようやく50本きた。やっと半分だ。
乙女姉さんが酸素のスプレーと冷たいスポーツドリンクを持ってきてくれた。
僕はスプレーを口に海底からやっと這い出てきた人のように酸素を吸いまくった。お・・・おいしい。
「大丈夫?なんか目がおかしいことになっているわよ?」
走って走って走り抜いた。もうどこに向かって何をしているのかも段々わからなくなった。
「芳樹しっかりしろ!そんなんじゃトーナメント勝ち抜けないぞ!もっと気合いれて一回一回全力で走れ!」
はい!僕は腹の底から体で響かせるように声を出した。もう声しか出ない。
「芳樹くん!タイム落ち始めてるよ!もっと早く走って!」
「あっ!あんなところに下着だけで歩いてる女子大生がいるぞ!走れ!」
最後のは勿論ラッキー先輩だけどもうどうでもいい。
それでタイムが良くなるのは格闘界広しといえどラッキー先輩だけだろう。
走る。走る。走る。
これがまだ午前中の内容だっていうんだから。
もう先の事を考えて余力を残そうなんてできない。
今はここを切り抜けることを考えよう。とにかく手を、足を振れ!一歩でも早く一歩でも多く足を運べ!理性があるうちにとにかく自分に言い聞かせた。
70本、80本、ついに90本と残り10本となった。
周りの皆も少なからず拾うの顔が伺えた。ぐちゃぐちゃになったシャツですら重く感じそれを脱いで少しでも体を軽くした。
ラスト10本!うおぉぉぉ!気合を入れた。
はじめは軽やかに聞こえた走る打音もドスドスと象のご乱心ともいえる音に変わった。
「あと一本!いくぞ!」
やっとこれで終る。
もう100メートルが1キロメートルに感じる。早く早くゴールこい!
「お疲れー!良く走ったわね!」
はぁはぁはぁはぁ。
自分の呼吸音だけがこの世界を支配していた。
ゴールと同時に地べたに倒れこんだ。
体全体が酸素と水分を欲しがっている。
でも取りに行く体力が無かった。
それでも一つ一つの細胞が僕に酸素と水分を要求してきた。
バサーッ!バサーッ!勢い良く水がかかってきた。
まりか先生と乙女姉さんがバケツを交代交代でかけてくれていた。
他のみんななもペットボトルを頭にかけ座り込んでいた、過酷。この練習過酷。
「芳樹立てるか?」
英治さんが手を差し出してくれた。ぼくはその手を握って立ち上がった。なんか自分の体が自分じゃないような感じですよ。
「そうだろうな。よく頑張ってるよ。合宿きてよかっただろ?」
良かったどうか分からないけど、たしかに自信には繋がりますよ。こんだけやったんだっていうね。でもたしかノート(通称、夏休みの書)には・・・。
「そういってくれてメニューを考えたこっちとしては嬉しいよ、よしじゃあ直ぐ坂道ダッシュ100本行こうか。」
来るんじゃなかった。
過酷。
この練習過酷すぎる。




