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K-1甲子園  作者: 冬夏
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2章ー2話「高校生の日常」

 あれから4年。僕は高校生になった。

相変わらず劣等性だったわけだが何とか追い込みの勉強のおかげでまずまずの県立の高校に入れた。


場所も家から近くその気になれば徒歩でも行けるけど電車で通学していた。

初めて体感した満員電車では内臓が口から出るんじゃないかと思うくらい人と人に挟まれていたけどそれももう慣れた。ちなみに乙女姉さんはもっと頭の良い女子高に通っている。


乙女ちゃんがいなくて本当に大丈夫?と両親に言われた。

大丈夫に決まってるだろ。まったく。

電車を降りホームに立つと同じ制服の人間でごったがえしていた。

あちこちから。


おはよーとかねぇねぇ知ってるーとか中にはあざっすなる体育会系てきな挨拶も聞こえる。同じ学年、クラスメイト何人かに声をかけられ適当に挨拶を交わす。


ちなみに先輩は全く分からないため挨拶をしていない。

まぁ大丈夫だろう。


下駄箱で上履きに履き替え教室に向かった。


席に座り鞄から雑誌をだした。


月間格闘技、ファイトスタイル。

キック関係の記事を読んでいた。


あ、この選手フリーになるんだとか。

またクラッシュやるのかとそれから有名選手のインタビューやテクニックなどを何度も読み返していた。


「やぁ」

 一人の眼鏡をかけた痩せ型の男子が僕の後ろの席に座った。

名前をしゅんと言う。

4年前将来の夢で「歴史に名を列ねる作曲家」と言った片割れである。


DTMとかいうパソコンで音楽を創ったりしていてボーカロイドなるソフトを駆使して動画サイトに投稿している。他にもピアノが弾けて発表会に何度か聴きに行った。                                                                 普段は無口だが僕らと居る時は割りと喋る。

小学校からずっと一緒である。

「毎日飽きずにそんな雑誌読んでますねー。なに今日も朝走ったの?」


まぁね。

でもしゅんだって毎日ピアノ弾いたり夜な夜なパソコンでなんか創ってるじゃん。


「僕はあれが無いと生きていけないのですよ。」

笑顔で答えた。かける情熱は人ぞれぞれですね。


そんな感じで僕の一日が始まった。


僕が劣等性なのは何と言ってもこの授業態度である

。国語、数学、英語など廻りめくる授業のなか僕は教科書を読まずノートも取らず、先ほどの格闘技系の雑誌やマニュアル本を読んでいた。

キック入門。

絶対強くなる新空手。

ハイキックが出せる!。

はじめてのボクシング。

ウェイトトレーニングの理論。

古武術など。


様々な本を網羅しており鞄はこれ関係で一杯になっている。


部屋に帰れば雑誌と合わせて100冊はあるはずだ。

まぁこんな事していれば入学1週間も経たずして勉強に遅れていくわけだ

。この後の中間テストが怖い。

後ろの席を見た。


しゅんはなにやらコツコツとシャープペンを走らせていた。なんだ真面目に授業受けてるんだ。と思っていたらどうも教科書ではないらしい。

赤い本に「和声」と書かれていた。しゅんは難しそうな顔をして五線譜にだんご(音符)を並べていた。類は友を呼ぶ。そう感じた。


こいつの中間も楽しみにしていよう。追試は仲良く。旅は道連れ。


授業中たまに席と席の間を先生が歩く。

僕は素早くマニュアル本を閉まって教科書を出しその場をやり過ごそうとした。しかし先生はぼくの席の前で止まった。一瞬ドキッとした。マニュアル本がばれたか!没収か!どうしよう!

「越前君。君は何の授業を受けているんだ。」


先生の目線に目をやる。

今受けている授業は英語。

そして僕の机に出ているのは国語。周りはどっと笑いが飛んだ。先生は呆れてその後は何も言わず教壇に戻った。

とんだ恥をかいてしまった。

僕は耳まで真っ赤になりながら後ろのしゅんを見た。


さっきあった赤い和声と書かれていた本は英語の教科書になっていた。・・・ずるい。

「君とちがってぼくは冷静沈着なのですよ。」

とまで付け加えられた。悔しい。その一言に尽きた。


こんな所で変な対抗意識や意地を発揮しているんだから重ねて僕は馬鹿なんだと。

たまに自分を一歩引いて見てみると思う。しかししゅんともなればやはりこうなってしまう。

しかも普段あまり喋らないくせにたまに開く一言一言がぐさっとくることもある。


10年以上こんなことを続けている。

再び先生が黒板にチョークでなにやら文法で書き出して授業が再開になっていた。

僕はマニュアル本を、しゅんは先ほどの赤い本と五線譜を出して勉強(?)をはじめた。

 昼になった。何誘うわけでもなく昼食は自然と後ろの席に居るしゅんと机を共にしている。


特に何も喋らないしゅんにたいして一方的に僕は話しかけていた。

そして大体この時間帯になると、

「おう。なんだ今日も乙女姉さんのお弁当かい?」

 

登校してきた。

名前をみきという。

「総理大臣なる」といった男だ。


しゅんと同じく小学校から一緒で今日までに至る。

朝にとても弱く寝起きが悪くいつもこの時間に登校する。

三国志を愛読し政治、経済、思想、哲学に明るく同年代とは思えな知識に溢れている。

とにかく言葉が多い。口喧嘩となればあらゆる角度から攻めてくる言葉に圧倒され僕は一度もこの喧嘩には勝つことができないでいた。

 

その相手は同年代の学友に留まらず、中学時代では当時の担任の先生にその矛先が向かった。

その日下校途中コンビニで買い食いをしていた男子生徒が発覚して学年全員で体育館に呼ばれ先生から説教を受けていた。僕は黙って下を向いて立って話を聞いていた。


すると隣に立っていたみきが先生に猛攻撃を仕掛けたのである。


内容は、下校途中買い食いする奴と下校してからコンビニで買い食いをする奴の違いとかであった。この押し問答はその場で解決せず全員解散したのちみきだけ生徒指導室に呼ばれ担任の先生と話し合っていた。いやもう話し合いなんてもんではなく国会中継の党論のごとく次々に質問をぶつけるみきに先生はたじたじだった。ぼくとしゅんは心配になって生徒指導室の前で待っていた。


結局決着は付かず他の先生が間に入ってその日は終わったがしばらくみきは学校に来なかった。担任の先生の催促に乗るわけがなかったので僕としゅん乙女姉さんでみきの部屋に何度も行きなんとかその事件の一週間後学校に来るようになった。部屋では絶えずジャズが流れていた。

 


この事件がきっかけとなりみきは先生不信になり高校も受験せず大検をとるといったが結局高校に進学した。

 みきは自分の席に荷物を置いてお弁当と椅子だけ持ってきてこっちにきた。顔つきはまだ眠たそうで欠伸をしていた。

 「で今日もその弁当にクイズは入っているのかい?」

みきはその眠たそうな目で僕のお弁当箱の巾着袋を除いた。

 あるみたいだね。僕は白い紙切れを手に取った

。乙女姉さんのお弁当クイズは二人の知る所になり時にそのクイズを3人で考えることもしばしばであった。内容はなぞなぞめいたものや自治問題、アイドルの名前から歴史上の人物とバラエティに飛んでいて一貫性はみられなかった。多分適当なんだろう。ちなみに昨日の問題は芥川賞受賞作品を5つ答えろで一昨日はAKB48を20人フルネームで、さらにその前は小学校低学年の子が喜びそうななぞなぞだった。残念ながら僕はこのなぞなぞにつまずいてしまった。あとAKBもわからん。

さてきょうの問題はっと・・・・

白き紙切れには綺麗な字で「もしもチェ・ゲバラが今生きていたら。」と書いてあった。

ゲバラ?


僕が首を傾げるとそれをみきとしゅんが覗き込んだ。するとみきからゲバラの人となり、キューバ革命とその後の話を細々と聞きやがてその話はラテンアメリカの歴史的現実の皮肉についても語られた。話が止まらなかったのでぼくはとりあえず話をゲバラに戻した。


相変わらず問題の意図が見えない。

みきは時間一杯ゲバラの思想を頼りに世界情勢に当てはめ色々示唆してくれた。

結局ぼくはついていけなかったので安易に人口が1人増えてるだけと答えた。


みきは呆れていてしゅんはずっと黙っていた。

こんな昼休みを過ごしまた授業が始まった。


満腹で満たされている僕の体は授業を聞くに堪えないほど眠気が迫ってきていた。仕方なく僕は鞄から無造作に本を一冊手に取った。ついでにしゅんとみきを眺めた。


しゅんはオーケストラの楽譜がまとめられてるスコアを手にイヤホンで音楽聴きながら書き込んでいた。みきは村上 龍著書の愛と幻想のファシズムを読んでいた。

お前ら帰れよと小声でいったが二人そろって


「お前もな」

と返してきた

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