1章ー魔裟斗にあこがれたあの日ー
2003年7月僕にとって忘れられない年になった。
僕の一生を決定付ける日になったからだ。当時の僕は小学6年生。
特にこれっていうほど趣味も無くはっきりいってごく普通な至ってニュートラルな小学生だった。ただ成績は悪くスポーツもさほど得意ではなかった。マラソン大会とか運動会でもいつも真ん中以下の順位でゴールしていた。家に帰ってからも早々に宿題を済ませ漫画読むかゲームするかだった。近所に仲のいい友達がいるので誰かしらの家に行って集まるもやってることは殆ど同じ。
まぁ小学生なんだからそんなもんだろう。ただ周りで野球だの剣道だのピアノだの習い事をやっている子を見ては僕も何かしないと・・・。と思うことはあった。でも結局なにかしたいことも見つからずいた。
将来の夢も無かった。
なんでこんな事言っているのかと言えば今日出された宿題が将来の夢という作文だったからだ。
まだ7月の初夏だというのに気の早い担任の先生が卒業文集やアルバムをどんどん製作していこうといっての事だった。
本当に気が早い・・・。
夢・・・。
みんな何て書いてあるんだろう。
クラスメイトで少年野球をやっている友達は
「メジャーリーガーになる。」と常々言っていた。
そのほかにも同じくスポーツならサッカー選手やバスケット選手、女子には料理人やピアニスト、スチュワーデス何て言っている人もいた。
ちなみに僕には仲のいい2人の友達がいる。夢を尋ねたら片方は、
「総理大臣」
そしてもう1人は
「歴史に名を列ねる作曲家」
と答えた。
一体どこまで本気なんだか
再び原稿用紙に目をやった。まったく進んでいなかった。
本当になんて書こう。このまま中学校に上がって高校、大学に進学してどっかの企業でサラリーマンやって・・。としか思いつかない。
幼稚園の卒園アルバムを見た。
同じく将来の夢に僕は「畑を耕す人」と書いてあった。お祖父ちゃんが農家だったからだ。
この路線を書くのも良いけど原稿用紙2枚かけるほどの内容では無い。
そして今特に思う所でも無い。
本当に困った。
そんなことをしているうちに夕方になった。夕飯に呼ばれ一旦居間に行った。
お茶碗にご飯をよそってお母さんと2人でテーブルについた。
食べながら宿題はどう?と聞かれ、
まだ全然と答えた。お母さんは困ったわねーといいながら少し俯いていた。
僕が夕飯を終えて自分の部屋に戻ろうとするとお父さん帰ってきた。
普段は仕事が遅くこんなに早く帰って来ることは無い。どうしたの?と聞こうと思ったらお父さんは
「今日どうしても観たいテレビがあってね。少し早く切り上げたんだ。」
と言って一緒に観ようと誘われ再び居間に行った。
宿題も気になる所だけどまだ一向に決まらない。とりあえずお父さんに合わせてテレビでも観ようかという感じだった。大体仕事切り上げてまで観たい番組って一体何なんだろう。
座りながらボーっとブラウン管を見つめた。するとまもなく始まった。
K-1ワールドMAX2003
そう書いてあった。
Kー1はなんとなく知っていた。
お父さんは格闘技好きでよくテレビで見ていた。
僕も横目でチラチラ観てはいたけどあんまり関心がなかった。
外国人のでかいやつが蹴ったり殴ったりしているだけで特に面白いとも思ったことが無かった。
けど今日のはちょっといつもと違う感じだった。
人が小さい?
「今日はな、ミドル級という階級のトーナメントがあるんだ。これがもしかしたら日本人初のK!世界王者が誕生するかも」
と言った。
日本人初の世界王者。僕には意味が良く分からなかった。するとお父さんはこの人この人!と少し声を大きくして言った。
番組のテロップには
{反逆のカリスマ 魔裟斗}と書かれていた。
まさとって読むんだと聞いた。
なんか今までの経過のPVが流れていよいよ試合となった。
今日1日で3試合あり、魔裟斗の相手は鉄の拳という異名を持つ相手だった。この選手も知らないがとにかくパンチが強いんだろうということだけ分かった。
その鉄の拳を掻い潜り1試合目を判定で勝っていた。
お父さんは良し!と声を上げていた。
その後何試合か他の選手の試合があって再び魔裟斗の試合になった。
相手はタイ人でムエタイ王と書いてあった
。一進一退の攻防の後左アッパー顔面にぶち込み魔裟斗がKOで勝った。
いよいよ決勝になった。僕は画面に喰らいついていた。この人がどうなるのか。僕はドキドキして胸の鼓動が高まった。
決勝の相手は魔裟斗が一度負けているとお父さんが言った。
僕は息を飲み試合を見守った。
魔裟斗が何か攻撃をもらう度ひやっとした。
どれもらっても一発でやられるんじゃないか?試合はどんどん進んでいった。
とにかく魔裟斗の攻撃が当たれば倒れろーと心の中で叫んだ。しかし相手はそう簡単にやられてくれはしなかった。
どうなるんだろう?どうなるんだろう?試合はヒートアップしていた。すると
バチン!
まばだきを許さない高速の左フックが相手に当たった。
膝がガクンと折れてマットに大の字で倒れた。カウントが始まる。
「ワン、ツー、スリー・・・」
早く進め~それが僕の心境だった。どうなるんだろうと早く進めがせめぎ合い僕の興奮がどんどん高まっていた。そして、
「テン!」
同時にレフェリーが手を交差した。
魔裟斗がガッツポーズを上げセコンドの人たちと抱き合っていた。
会場の大歓声もテレビからでも十分伝わった。
誰もが望んだ瞬間だったんだ。
程なくして魔裟斗にベルトが巻かれた。2003世界王者のベルトだ。
すごい。これが僕の素直な気持ちだった。
胸はまだドキドキしている。お父さんが何か言っていたが僕は直ぐに部屋に向かった。
机に向かい原稿用紙に鉛筆を走らせた。
「K-1ファイターになる」
六年一組 越前 芳樹
これが僕の夢。
そしてはじまり。
僕はこの日1日の感動と魔裟斗について書き綴った。
魔裟斗のようにかっこよく魔裟斗みたいに強くなりたい。
その後直ぐに僕は格闘技のジムに入門した。
それから4年後物語りはそこから始まる。