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第七話 交渉と一念発起

「宅間守・・・さんですか?」

「おおそうじゃ姉ちゃん。天下御免の統合失調症にしてクソガキ殺して調子に乗りまくってた死刑囚じゃ」

「・・・意外と冷静だな。牢獄で食う飯は美味いからな。少し太ったんじゃねえか?」

「ほっとけや兄ちゃん」

交渉か、はたまた口喧嘩か、宅間と水間の会話はその後も無駄に弾んだ。

「兄ちゃんは何人殺したんじゃ? 10人ぐらいか?」

「50人ってところだな。50人目は時の内閣総理大臣だった。こっちの世界に来てからは豚に盗賊団にで百から先は数えてない」

「50人!? おいおいおいおい、そりゃ何でも盛りすぎやろ? 冗談吹かすと難波に沈めっぞ!」

「だって本当のことだからな。行く先々で英雄気取りの毎日さ。この世界じゃ殺しの上手い奴が賞賛される。暴言吐いてふてくされてる場合じゃないぞ」


宅間はチッと舌打ちした。それが水間に向けられたものなのか、自分に向けたものなのかは分からない。

かつての宅間は地獄に向かうレールの上をただ走り続ける人生だった。

何の努力もしてこなかったし、悪い事は全て自分を生んだ親とのうのうと生きている弱者に向けた。全てを他人のせいにしてきた。

そんな人生しか歩めないと思い込んでいたし、事実彼は自殺のために知り合いでもなんでもない子供を殺して殺して殺した。

裁判所で喋った暴言は全て今でも誇りに思ってるし、処刑までの時間はそれはもう楽しかった。初めて生を実感した。


なのに、自分はまだ生きている。生きてこの場所にいる。それがムカッ腹がたって仕方がなかった。フィナーレを飾り損ねた、オチで盛大に滑った気分だった。

「なぁ~お兄さん、結局こいつ殺さないの? 俺つまんないんだけど」

「あぁん!? 誰じゃ貴様は! ワシは殺しは大得意だぞ!」

「けど水間のお兄さんほどじゃないよねぇ? この人の殺しは芸術だよ。ダヴィンチだよ。だから俺も自重して付いて行ってるのにさ」

「ああ、紹介が遅れたな、こいつはエド・ゲイン。聞いたことぐらいはあるだろう?」

「はあぁ!? あの死体コレクターで有名な奴かよ。おまえらどうなってるんじゃ?」

「で、彼女がマフィ。俺達を纏めてくれる良き一般人」

「ど、どうも・・・」

マフィはペコリとお辞儀をした。

「で、俺が水間将一。こいつらの、まあリーダー格かな?」

「・・・で、おまえは俺をどうしたいんじゃい?」

「連れて行くよ」

その場にいた一同が全員ええっとなった。

「俺と来い。宅間守。どうせ延長戦みたいな人生、せいぜいおっかなびっくり楽しんで生きるのも一興だ」

「・・・・・・俺は人の言う事は聞かん。裏切るかもしれないし、味方だって殺すかもしれんぞ」

「それは、大丈夫。うちの面子はその辺肝が据わってるし、何より、おまえだって欲望が満たされている間は手出しはしないだろう。それに・・・」

水間がニヤリと笑う。

「お前がどうやって人を殺すのか興味がある」

「チッ、人をただの殺人鬼だと思いやがって・・・!」


(まあ、ええわ。ここから出られるならそれにこしたことないし、さっさとトンズラしてもええしな)


「わかったわ。こんなガチのキチガイでよければ仲間になったる。ええ、仲間になったろうやないか」

「決まりだな。自警団の人、こいつは俺達で預かるがよろしいな?」

「え、ええ・・・こちらとしては持て余していた人間ですので、引き取っていただけるのならそれは有難いことです」

「そうか、それなら・・・」

と、ここで自警団の鐘の音が鳴り響く。事件が起きた証拠だ。

「た、大変です。近場にいた盗賊団がまたやってきて市場を荒らしてます!」

「またか、あいつらめ、何度やってもこりずにまたきやがる」

「・・・おい、エド、宅間、どうやら早速俺達の出番みたいだぞ」

「おっけ~ね」

「俺も参加するんか。まあええわ」

「私はいつも通り逃げ遅れた人の避難を助けてきますね」

「よし、水間部隊、出撃だ!」


「やめてください! 商品が壊れてしまいます!」

「るせぇ! こんなガラクタに売値付けるてめえの方がよっぽど極悪人だよ」

そう言いつつかっぱらった果物を齧る頭首。いかにも小悪党だが、この世界にはどうにもこの手の輩が多い。

「コラー! 『ノルダの牙』の連中め、いい加減やめないか!」

「おっ、きやがったぜザコ連中が。こんな小さな村じゃあ兵隊さんもしょっぱくて相手にならねえ。楽な仕事だぜ」

そう言うなり手近にいた恰幅のいいおかみさんを人質に取る。

「おっと、それ以上動くんじゃねえぞ。近づいたらこの女を殺す。いいな」

「その女一人の命で貴様ら全員殺せるなら安いもんだ・・・」

そう言いながら群集に突っ込むのは勿論水間だ。この男に人質作戦など通用しない。マフィなら別かもしれないがどうせ丸腰でも人が殺せる男だ。脅威は揺るがない。

「な、なんだてめえは! ・・・ひっ!」


ずばっ!


大鉈一閃。頭級の男の首は瞬時に撥ねられた。

「うわあああ、何だこいつ」

「ミズマだぁ! 盗賊殺しのミズマだぁ!」

周りを搔き分け必死に逃げようとする盗賊団だが、残念ながら水間からは逃げられない。


ずばっ! ぐきっ! ずばっ!


伝家の宝刀『首捻り』も混ぜて水間は猛然と敵の背中を追いかけては殺していく。

「う、うわああああだめだ。こっちに逃げ・・・」

「悪いね~こっちも行き止まりなんだよね~」

エドが短刀で首の頚動脈を瞬時にスパッと切り裂く。鮮血が勢いよく噴出し、やがて死に至る。なるべく死体を再利用したいので無駄な傷は付けないのがゲイン流だ。

そんな光景を棒立ちで見続けていた男がいる。宅間である。

「な、なんやこいつら。滅茶苦茶や。でも滅茶苦茶強いやんけ・・・ガキンチョ殺して調子こいてた俺が恥ずかしいくらいや」

「あれで普通なんですよ」隣にいたマフィが言う。

「滅茶苦茶だけどとにかく強いんです。水間さんは。宅間さん・・・でしたっけ? あなたもあのぐらいになって欲しいと思われてるんですよ。

 だから逃げられませんよ。水間さん級のシリアルキラー・・・だったかな、こういう呼び名が相応しい人になってくださいね。っと、はーい、皆さんはこちら側に避難してくださいねー」


(こいつら狂い過ぎておかしなっとる・・・! けど、俺も・・・)

ふと、下を見れば絶命した盗賊の剣が転がっていた。

「おんどりゃあああああ! しばき殺したるわああああ!」

朝早くの市場は、水間たちの大立ち回りで滅茶苦茶になっていた。ただし店の品物は傷つけない。傷をつけるのはあくまで人だけだ。

盗賊団はあっけなく壊滅させられた。自警団の出番は悲しいほどなかった・・・。


「成績発表ー」

「わーわーどんどんぱふぱふ」

「俺、17名。エド、6名。宅間、2名。宅間君はもう少し頑張りましょう」

「やかましいわ! こちとらブランクがあるんじゃ! 勘が戻ったらもっと殺れるわ!」

マイペースな3人の元に自警団の隊長格が現れる。

「御三方、色々と骨を折ってもらってすまなかった。荒れた市場はこっちが片付けるので宿場に戻ってゆっくりしてくれ」

「兄ちゃん達格好良かったぞ!怖くて小便漏らしたけどな!」

「有難う、旅の人。おかげで救われました」

(ホンマに人ぶっ殺して賞賛されるんか。ワシらの世界とこっちの世界、どっちがおかしいのか分からんわ・・・)


「あ、死体の片付けは俺ね~。最近脳みそ食べるのに凝っちゃってさ。意外とおいしいんだよねこれが。あ、あと人皮なめしたいから液売って欲しいんだけど」

「人目につかないところでやれよ、エド。おまえのせいで馬車の荷物がどんどん増えていくんだから」

「あは、ははは。匂いとかもきついですからね。あんまり作るとゴミに出しちゃいますからね」

「オーノー。マイコレクションをゴミに出すのは勘弁してよマフィちゃ~ん」


その後、一向は下準備を済ませ、次の村へと旅立っていった。

後日、マフィの手紙には、仲間が一人増えた事が書かれたという・・・。

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