第五話 願いと旅立ち
祭のような夜が明け、水間は重たい体を起こし、屈伸する。
村長は風呂も沸かしてくれたし、ベッドも用意してくれた。有難いことこの上ない。
そして今は井戸水で顔を洗っている最中だ。
「ふう・・・・・・」
「・・・へーっくち!」
隣にいたエドが盛大にくしゃみをした。
「何故かなぁ? 自慢の人皮のチョッキをしっかり着込んでいたのに、風邪気味なんだよなぁ」
「言うだけ無駄だと思うが、おまえはもう少し正気を身につけろ」
なんだかんだで仲が良くなってしまった二人であった・・・。
「そうですか、この村を出ると」
「ええ。何故異世界からこちらの世界に飛ばされてきたのか、何故このような因果を背負う事になったのか・・・俺はどうしても知りたいんです」
朝食中、村長と水間はこれからどうするかを話し合っていた。もはやこの村を脅かす存在はいない、ならば旅に出て己の存在を確認したかった。
「正直なところ、この村では見当がつきません。もっと大きな都市に行かなければいけないと思います。異世界を研究している施設があれば、そこにご厄介になろうかと考えています」
「あ~、せっかくだから俺も付いて行くね~。若返ったのはいいけど、俺正直、貧弱だし、それに村人とは馴染めそうもないし」
「ふむ・・・、それでしたら、ここから北方にポンメルという都市があります。学業が盛んですし、異世界の研究もされているかと」
「ポンメル・・・ですか」
(俺をこの地へ呼び寄せた奴が、果たしてそこにいるだろうか・・・いや、今は考えるだけ無駄か)
「少しばかり路銀も渡しておきましょう。出立は、明日に?」
「何から何まで感謝します。・・・ええ、早いほうがいいかと思いますので。今日は下準備ですね」
(これで当面の予定は付いた。後は、もう一人・・・)
「え、ええっ!? 私を旅に同行ですかぁ!?」
「ああ。この世界を知っている人が必要なんだ。マフィなら適任だし、面識もある。頼む。同行して欲しい」
学校が放課後を迎える時を見計らって、水間はマフィの元に赴いた。男 の 土 下 座 込みで懇願してである。
「そ、そりゃあ水間さんは村の英雄だし、断りにくいことは確かですけど・・・」
「そういう恩着せがましいことは言わない。ましてや面子は大量殺人鬼と死体フェチだ。難しいことを承知でお願いしたい」
「うぅ~・・・困ったなぁ。私押しには弱いほうなんですよねぇ。気持ちが痛いほど伝わってくると・・・・・・うーん」
2人の間に、しばしの沈黙が流れた。この間、水間は地面に突っ伏したままである。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかりました。水間さん、頭上げてください」
「っ・・・。あ、ああ」
「こんな一村娘をそこまで頼ってくれるんでしたら、断りきれません。私この村を出たことないから旅にも興味ありますし」
「そうか・・・」
「それじゃあ休校届け出さなきゃいけませんね。それから両親も説得しないとですし、あともう1ついいですか?」
「俺でよければ何なりと」
「絶対・・・守ってくださいね。私この年でまだ死にたくないので」
「約束しよう」
「はい! ではよろしくお願いしますね!」
と白い歯を見せてニカッと笑う。その姿は夕焼けに照らされ、どこか美しかった。
「じゃあ早速行きましょう。ついて来て下さい」
「ああ・・・」
「あ、それとお父さん結構厳しい性格だから殴られるかもしれませんよ」
「結構。そういうのは慣れてる」
「・・・穏便にお願いしますね」
夜は静かに更けていった・・・。
旅立ちの朝、村の者たちは集まり、盛大に出発を送り出しに来てくれた。
なにせ山盛りオークの肉を売りさばけば半年は遊んで暮らせる金が手に入る。村長の路銀も多めに貰い、準備は万全。隣の村まで馬車を用意してくれる程の念の入り用だ。
「若いの、気をつけて行って来いよ」
「いつでも帰ってきたっていいからな」
「あ、死体好きは来なくていいぞ。ホラーだしな」
「それじゃみんな、行って来るね」
「マフィちゃん、お手紙書いてね。私待ってるから」
「マフィ、俺達にも手紙よこすんだぞ」
「うん、パパ、ママ、息災でね」
「そろそろ出るぞ~。みんな乗ってくれ」
「分かった。今行く」
水間は村の者から服を貰い受けた。返り血まみれの衣服から、この世界にあった衣装に。背中にはマント、武装は大鉈。エドには短刀。
「行って来るぞ~」
「行って来る・・・」
「行って来ま~す」
馬車は軽快に北へ向かう。目的地はポルメル。果たしてそこに辿り着くまでにどんなことが待っているのか。水間たちはまだ知らない。
ただはっきりしていることは、それが苦難まみれの茨の道だということのみである。
「年甲斐もなくワクワクするぜ・・・。口がアドレナリンで満たされそうだ」
「どんなコレクションが手に入るか楽しみだな~」
「あは、ははは・・・」
ただこの3人なら大丈夫だろう。なにせ常軌を逸した伝説級のキチガイなのだから・・・。
「わたしは違いますー!」




