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第四話 大豚とサイコ野郎

『ブヒー! やばいぞ、このままじゃ俺達全員丸焼きだ!』

『ダメだ、井戸が使い物にならねえ。あの人間、自分も焼け死ぬつもりか』

『逃げる! 逃げるぞ! こうなったら強行突破だ』


豚達が業火の中で慌てふためく。ラードの塊たちがジュワジュワといい匂いをさせる度、炎は一段と勢力を増す。


一方で門に布陣していた兵たちも必死に戦っていた。

『死ね! 人間共の分際で!』

「死ぬのはてめえらだ! 豚共の分際で!」

数にものを言わせれば強行突破も可能だと思い込んでいたオーク族だったが、戦局は圧倒的に不利になっていた。

背後からは炎が押し寄せ、逃げ場もなく、突入すれば槍のリーチにしてやられる、の連続だ。

「オラオラッ!フィル校一のガキ大将のバンジャ様がてめえらを串刺しにしてやるぜ~」

「さっすが兄貴! やりますねぇ」

「くそっ、槍が使い物にならなくなった! だれか代わりをくれ!」

「はい! どうぞまだまだストックはありますから遠慮なく言ってください」

「このまま時間を稼ぐぞ! そうすりゃこいつらは最期は全員丸焼きだ! オークの肉は高級食材だからな! 半年は食うのに困らないぞ」

状況が有利になれば希望が沸く。希望が沸けば気力が上がる。俺達でもこいつらをやれる、その想いが村人達の心を激しく高ぶらせていた。



「おら、死ね。死ねといってるんだからさっさと死ね」

一方水間は既に坑道内に侵入していた。途中鉱奴として働かされていた村人達を救出し、最深部までの道筋を教えてもらう。

狭い坑道では武器は扱いづらいがそれは十八番の首捻りで凌ぐ。豚達は成す術なく首を回され絶命していった。

走る事数分、ついに最深部の扉が見えた。躊躇なく、その扉を蹴破り、両脇で不意を突こうとした豚2体を撫で斬りにすると、眼前を睨み付ける。

そこには身の丈は実に4mを越す大豚がいた。人間とは違う圧倒的な体格差。されど水間に怯えはない。

「あんたかい? ここのボスとやらは」

『そうだ。本当にやってくれたな人間共。素直に我々に従っていれば良かったものを・・・』

「そうすりゃいずれあの村は廃村だ。あんな所でも俺を一時的に受け入れてくれた恩もあるんでね」

『見たところ異世界人か・・・うちにも一人捕らえているが、貴様らの常識の外れ方はおかしいわ』

(へえ・・・異世界人ね。誰だろ)


『いくぞ・・・!』

大豚が猛然と間合いを詰める。大広間とはいえ、この体格ではいささか狭く感じる。

どうやら奴さんは攻めて攻めて逃げ道を失わせながらこちらを仕留める算段のようだ。

「お、結構早いじゃん」

対して水間はまずは交わすことに専念する。敵が手にした大斧はかすっただけでも致命傷になりかねない。

『ぬぅん! ふぅん! どうした人間! そんなものか』

「狭い空間で叫ばれると耳に来るから止めてほしいんだがな」

そして戦い始める事数分、焦った大豚が大上段を空振りし、隙が生まれた。

(よし、ここだ!)

背中から最後の一本になった松明に火を点け、絶命していたオークの体に点火する。たちまちのうちに火は燃え、焼き豚が出来上がる。

「こいつを喰らえってんだ」

火の塊になった豚をブン投げる。

『ぐおっ・・・!』

大豚からすれば熱した鉄板をぶつけられたようなものだ。思わずたじろぎ、体勢を崩す。その瞬間を、水間は見逃さなかった。

膝を突いた大豚の体を駆け上がり、最上段に飛ぶ。狙いは無論、大豚の脳天だ。

『しまっ・・・!』

「死んどけ。デカ豚・・・」

水間の手にした剣先が大豚の脳天に深々と突き刺さった。

『グアアァァアアァッ・・・!』

頭から地と脳漿と肉片を飛び散らせながら、大豚は苦しみ、もがき、そしてドスンと音を立て地面に倒れ伏した。


「おまえみたいなのを異世界じゃ何て呼ぶか知ってるか。ウドの大木だ」



「ここが村人たちが捕らえられている塔か。石造りだからか、ここだけ燃えてないな」

「周りに木造建築物もなさそうでしたしね。多分生存者がいると思います。いや、いて欲しいです」

全てが終わった後、村人達は黒焦げになったオーク族を蹴飛ばしながら、町外れの塔にいた。

「生きていて欲しいんですけどね・・・」

「死人がいたら死体を埋めて手を合わせてやれ。生きていれば助けてやれ。それが生存している側の責務だ」

扉を開け、中に侵入する。幸か不幸か、生存者は意外と多かった。男は散々働かされた挙句死に、女は散々に犯されていた者も多かったが、無事な事だけは救いだった。

(そういえば、あの大豚が異世界人がいるとか言ってたが、どこにいるんだ)


「おぉぉぉぉぉぉぉい! こっちも助けてくれよ!」

独特の訛った声が鳴り響く。どうやらお目当ての男はこの先の牢獄に囚われていたようだ。


しかしそこにいた男、いや、正確に言えばその光景に、その場にいた連中は全員目を疑い、吐き、失神した。


人骨のインテリアに骨の食器、腐った臓器が入った頭蓋骨、人皮で作ったランプシェードに、人皮をパンツ代わりに履き、上半身は裸だった。

水間はめったなことでは驚く事はなかったが、さすがにこれには多少ビビった。

「・・・・・・・・・・・・おまえ、名は?」

この場で殺したほうが良さげな感じではあったが、まずは名を名乗らせる事から始めて見た。

「エド。エドワード・セオドア・ゲインだよお兄さん」

「・・・嘘をつくな! 全米最凶のサイコ野郎じゃねえか! なんでここにいる。ていうかおまえさん若いぞ! 20代に見える」

「うーん、俺もよく分からないんだよねぇ。気がついたらこの辺りにいてさ、ピッグマン達に捕まって以降ここだよ。ま、あんまりきにしてないんだけどねー」

「・・・・・・どうやら俺はこの『異世界』とやらを甘くみていたようだ。異世界人は多分全員犯罪者だ・・・」

「まあこれも何かの縁だ。仲良くしようよお兄さん。村人達は殺さないし、コレクション増やしたりしないからさ」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


結局、水間はエドを助けた。まだこの世界がどういうものかを知らなければならない以上、情報源を殺すわけにはいかなかった。

その後は村人達総出で、まだつかえそうな豚肉をリアカーで運び、火が通ったものは食肉用として各自が持ち帰る事にした。

夜の宴会で、エドは豚皮のマスクを被り歌ったり踊ったりして村人達をドン引きさせたという。


ひとまず村は救われた。水間は村の英雄として持て囃され、酒を次々に勧められた。水と交互に飲みながら、また夜空を見上げ物思いにふける。

「流石に疲れたな。・・・村長の家にでも潜り込んで眠らせてもらうか」

水間はぽつりと呟いた。

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