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第三話 槍と豚殺し

水間が散々に暴れまわった日の夜、村長の家の大部屋で緊急会議が開かれた。

ヒゲ面の村長に、門番の部隊長、その他村の代表格に付き添いできたマフィ、そして当の本人。

「・・・えらいことになったな」

話を切り出したのは門番を率いていた隊長格だった。


「これでこの村は完全に狙われることになる。どちらかが根絶やしになるまで終わることはないだろう」

「し、しかし、それは異世界人の独断という事にすればよいのではないか!?」

「無理だ! そんなもので奴らは収まらない。だがこちらは迎え撃とうにも戦力が足りなさ過ぎる。戦える人間すらかき集めて30名が限度だ」

「いや実際にはもっと少ないぞ。20名集まればいいほうだ」


口々に罵りあうかのように言葉を交わす住民達。終いにはそれもこれも異世界人のせいだ責任を取れという話にまで移行する。


「・・・・・・・・・・・・あのさぁ、率直に言って、おまえら人として恥ずかしくないの?」

「なっ・・・!」

「話の内容を聞いていたが、どうやら随分とたかられてきたようだが、それを赤っ恥だと思わないかと聞いてるんだよ。ご先祖様も草葉の陰で泣いてるぞ」

「ちょ、水間さん、いくらなんでもそこまで言う事は・・・」


「・・・異世界の人よ」

椅子から立ち上がり殴りかかろうとする男の剣幕を諌めたのは、これまで沈黙を保ってきた村長だった。


「あなたの言うとおりだ。我々は人として恥ずかしいことをしてきた。それほど力がなかった。だが、頼む。この村を救うため力を貸してほしい。何卒、何卒・・・」

「村長、そんな頭を下げることは・・・」

「くっ・・・その言葉を待っていた。この村の最高権力者の願い出をな。相手の戦力は幾らと推測してるんだ?」

「この村に現れだした頃は100といったところだが、奴らは繁殖力が高い。今や膨れ上がって500は越えているはずだ」

「だが戦って分かったが錬度は高くない。まともに戦えるのはその半分だろう。こちらは急造の槍兵が増員できる。数なら五分だな」

「え、この村ってそんなに槍なんかありましたっけ?」

「長い棒切れの端に包丁の類を括り付ければあっという間に槍が出来上がる。女子供でも戦場で豚を相手できる」

「・・・水間さんって女子供を何だと思ってるんですか。殺しをやらせるには度胸と言うか気合と言うか」

「そんなものは追い詰められればどうにでもなる。負けたら死ぬんだからどうにかしろ。小便は済ませておけと伝えるだけで『兵』の完成だ」


補足しておくが、水間に軍師の才はない。ただ殺しの才はズバ抜けている。ならばどうするか、どうやればいいのかは考えれば頭の中から沸いて出てくるだけだ。

「やれやれ、お前さんの言葉を聞いてると本当に何とか出来そうな感じがしてくるわい」

「もうやるしかないのだな、なあに、どうせ老い先短い身だ。一匹でも多く蹴散らしてくれるわ」


「そうそう、その意気。その意気。というわけで皆様方、村人達に伝令よろしく」

「うむ、じゃあワシは皆の説得に行ってくるとしよう!」

「ワシは材料集めだな。刃物を片っ端から家から持って来いと伝えてくる」

「えーと私は・・・帰っていいですか?」

「ダメだ。マフィ、おまえさんには別の仕事をしてもらう」

「ああ、やっぱり・・・(結局巻き添えにされちゃってるよぅ)」

「火のついていない松明を作ってくれ。20本ほど」

「それだけでいいんですか?」

「いやいや、この作戦の肝はそれだよ」



本格的な豚狩りの準備が始まった。

村人達は全員水間が狩った豚共を食材にして粥を作りそれで腹ごしらえしつつ、家から持ち出してきた包丁やらノコギリやらを木の棒に括り付け始めた。

村長は皆を奮い立たせるべく熱い弁舌を行う。戦おう。頼りになるあの御方がいる今こそ、と。

兵士達は村人全てを守る覚悟でやると隊長から伝えられ、大きな声を上げた。

そして当の本人は、木工で簡単な柵を作るよう伝えながら見回りを行っていた。これで豚を足止めしつつ、槍で突けと指示する。


こうしてほぼ全ての作業が完了し、村人達は仮眠を取るべく帰路についた。決戦の日は明日―。



オーク族の根城は既に使われていない炭鉱だった。廃村の周りは岩で囲まれており、出入り口は一つだけ。そう、一つだけである。

ボスクラスは入り組んだ炭鉱の先の大坑道の広間におり、捕らえられた人々は生きていれば村外れの塔の中だろうと推測されている。


『あーまったくつまらねえよな。ていうか先遣隊帰ってこないじゃねーか』

『ブヒ、せっかく今日は捕らえた女共を孕ませてやろうと思ってたのに』

『そうそう、あれはたまらねえよな。人間の女の膣ってぬるぬるして温かくて最高だぜ』

下卑た異種姦談議に花を咲かせるオーク2体。しかしそれが天罰か因果応報かは知らないが、それが彼らの最期の言葉になることを、当人はまだ知らない。


「ふーん、よかったね」

『へ?』


水間の一閃が豚2体を切り裂いた。

そりゃね、女を攫ったらやることは犯ることなのだろうが、もう少し言い方というものがある。後ろで聞いてた人間達の怒りが水間の背中にしかと伝わってきた。

「さあ、始めるぞ! 門を占拠して、柵を立てろ! 急げ! 時間との勝負だ!」

「オォォォォォォォォォウ!!」

門の開閉係りを瞬時に槍で刺殺し、門の周りに柵を立て、木槌で叩いて埋める。これで準備は整った。

「そーら、よっと!」

水間がオークの体を木造の住居目掛けてブン投げる。そして背中に背負った大量の松明を一本取り出し、火を点け、オークの方に火を点ける。

瞬時、建造物と共にオークの体がぼうぼうと燃え上がる。なにせ相手は豚だ。言わばラードの塊だ。そこに火を点ければどれほどの火力になるか、効果は推して知るべしである。

水間の狙いはこうだ。

廃墟の中に突入し、オークをぶち殺す。複数ある筈の井戸にオークをぶち込み、松明を投げ入れる。

水で消火できなくなれば豚共は出入り口目指して逃げるしかない、だが着いた先は、柵と大量の槍兵だ。

「それじゃあ、行って来るぜ」

「おう、死ぬなよ若いの!」

「水間さん、ご無事を祈ってますからねー」


「さあ、豚共、殺しあおうぜ。盛大に、華々しくな・・・」

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