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第二話 村娘と豚肉

「へえ、結構栄えてそうな村じゃないか」

水間が豚に教えられた道を歩く事数十分、高台から見下ろす先にはそれなりに大きな村があった。人口は1000人かそこそこ。少なくとも廃村でもなさそうだ。

「まあ簡単にはいかないだろうが、とりあえず行ってみるか」

坂を降り、街の入り口へ。しかし、いざ入ろうとすると門番らしき男二人に槍を突きつけられて止められた。

しかもぎゃあぎゃあとうるさそうに英語でもない珍妙な言葉で話しかけられてくる。

(まあ、そんな簡単にはいかないとは思っていたが、案の定だよ。・・・やれやれ)

かといってこの門番に罪はない。殺してしまうわけにもいかない。どうしたもんかと途方にくれていると、憲兵らしき男が一人の少女を連れてきた。

栗色の、ウェーブがかかったセミロングの髪に、またあどけない表情を残した村娘、第一印象はそんなところか。


「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・え、えっと、お、おはよう、ございます?」

おお何たる僥倖か。言葉が通じるではないか。水間は思わず微笑んだ。


「これは助かった。単なる木こりで済まそうとしたんだが、さすがに言葉が通じないのではどうにもならないからな」

「・・・私は、マフィと申します。学校で異世界語を専攻してまして、学校に行く前に呼び止められまして・・・」

「そうか、それは申し訳ないことをした。だが、頼れるのが現状君だけなのでもう少し付き合ってくれ」

「ああ、それでしたら先生に御札の類を作ってもらいますね。体のどこかに付ければ会話が通じるようになるはずです」

「何から何まで感謝する」

「では学校までご一緒してください」

警戒されているのか、笑みがぎこちないものになっているが、こればかりはしょうがない。

なにせ水間は着のみ着のままで返り血を少し浴びて斧を持っているという何とも危ない見た目であったからだ。


その後はマフィが教師に事情を話して貰い、放課後までに札は作っておくことを約束してくれた。

水間はお礼にと薪割りのボランティアで木をパコンパコンと割って時間を潰すことにした。

労働は刑務所内で色々やっていたので体力的には問題のない仕事だった。



そして放課後、手渡された札にはやはり見たこともないアラブの走り書きのような文字が並んだ紙切れがずらりと並んでいた。

それを丁寧に四枚折りにして懐にしまう。これで言語の問題は解決した。

「いやあ、本当に感謝する。ところで一つ尋ねたいのだが」

「何ですか?」

「・・・異世界語と言ってたが、この世界にはそんなに変人奇人がやってくるものなのか?」

「え、それは・・・まあ、時々、というかごく稀? 何ですが、総じてトラブルメーカーなので必要なものといいますか・・・」

「だろうな。文化が違えば考え方も違う。ましてや俺のような殺人鬼までやってくる可能性があるとなると・・・」

「・・・・・・え?」

マフィは思わず目を丸くする。

「今、なんて・・・?」

「ああ、元の世界では50人、こちらの世界では豚野朗を2体殺った」

「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください! それまずいですよ! それ、この村にとって大問題ですよ!」

「はあ・・・?」

やはり元殺人鬼では、と言いたいところだが、どうもマフィが反応しているのは豚殺しのところらしい。

「おーい、大変だ! オークがやってきた! しかも先遣隊だ! まずいぞ!」

「ああ、やっぱり!」

「・・・行くぞ。村の入り口でいいんだな」

2人は走り出す。

「はぁ・・・はぁ・・・わ、わたし、走るのは、ちょっと、苦手で」

「だったら無理して喋らないほうがいい。体力の消耗が激しくなるだけだ」

「でも、あなたには伝えておかなきゃいけない事でして・・・はぁ・・・。この村、近くに根城を作られたオーク族に度々襲われたりしているんです。

 あいつら、人を襲ったり、女性を攫ったり、ほんと酷いことをしてて・・・」

「呆れた連中だな。だが安心しろ」

「何でですか・・・はぁ・・・」

「俺が全員殺る」


『聞け!人間共!昨日の夜、我らの同士がやられた!』

村の入り口に来てみると、それなりに大柄な豚野朗とその部下が計10体ほどわざわざ来ていた。

『これは我々に対する宣戦布告とみなす。女を30人差し出すか、男を50人ほど生贄に出すか、それとも村そのものを焼かれるか、好きなものを選べ!』

騒ぎに集まっていた村人達が騒ぐ。どれも受け入れ難い、否、わざと受け入れるはずのない要求で揺さぶりをかけているのだ。

『選べ人間共!己の無力を嘆きながら・・・』

「ぎゃあぎゃあ五月蝿いぞ豚共、おまえらこそ今のうちに念仏の一つでも唱えておいたほうがいいんじゃないか?」

一人の男が何それ関係ねぇとばかりに前に出る。

己の力を誇示し、見せしめに数名殺すつもりで現れた豚の部隊(洒落に非ず)。だが彼らには唯一の誤算があった。

誰よりも徹底して空気を読まず、誰よりも冷静で、そして誰よりも非道な男が混ざっていた事を。

『誰だ貴様? 何処ぞのおのぼりさんか?』

「俺は水間将一。通りすがりの異世界人だ。お前らが言ってた豚殺して食ったのは俺だよ」

『難だと貴様! 許さん! 今すぐ死んで償・・・』


ずばっ!


間合い詰める事僅か1秒、1体の首が中を舞い、1体の体が横薙ぎに分断された。

「・・・あー、やっぱ、木を割ってたからか、少し切れ味が落ちてるな。おい、そこの門番、腰の剣、投げてよこせ」

何が起きたか気が動転していたが、とりあえず言われるままに剣を投げて渡す門番、柄からスラリと抜かれた剣は夜の喧騒と松明の火に照らされ、ギラリと輝いていた。

『くっ・・・、ものどもかかれぃ!」

隊長格の豚野郎の号令で部下達が一斉に襲い掛かる。しかしそれは、あまりにも、あまりにも無謀な命令だった。


ずばっ! ずばっ! ずばっ! ぼきっ!


豚たちは水間の手によって飴のように引き裂かれていく、無論、背後からの攻撃にも最大限の警戒をし、カウンターの首捻りで迎え撃つ。

その度に背後から村人達の歓声が上がる。気の弱い一部の人間が過激で凄惨な場の空気に推され失神してしまったのはご愛嬌だろうか。


『な、何だ、何なんだこいつは!?』

気付けば豚の先遣隊はあっという間に隊長格一匹になっていた。


「・・・さっきの言葉、そのまま返すぞ、己の無力を嘆いて死ね」

水間が間合いを詰める。

『ひっ・・・!』

豚が呻く。水間が駆ける。既にこの時点で、勝敗は決した。戦意を失った化け物に、人は恐怖を抱かない。

化け物は化け物らしくなければいけないのに、こいつはそれを放棄した。


「ちぇぇぇい!」


水間の連撃がデカ豚の四肢を捉える。腕を落とされ、足を捥がれ、首を撥ねられ、まるでその姿は達磨も同然だった。


「・・・ふぅ、いい汗かいた。これを達磨斬りと名付けよう」

水間はどこまでもマイペースだった。

「おう、おまえら、今日は豚肉パーティだぞ、チャーシュー作るぞ、豚骨ラーメン作るぞ、トンカツもいいな」

全てが終わった時、村人が歓声を上げた。危機は去った。自分達は何もしてないが、俺達は勝った、勝ったのだと確信した。


(といっても、昨日の今日ですぐここに来るとなると、こいつらの根城はそれほど遠くじゃないな。こりゃ総力戦があるぞ)

「マフィ! いるか?」

「・・・え? あ、はい。ここにいます」

「村長を紹介してくれ。それと、この村の武装状況が知りたい」

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