第二十六話 決戦・その3
水間とバナリスの頂上決戦はまもなく2時間半を超えようとしていた。
相変わらず大魔法を連発するバナリスに、肉弾戦のみで肉薄する水間。
この構図はこのまま延々と続くかと思っていたが・・・、ここに来て変化が生じていた。
「・・・バナリスが、圧され始めてきたね」
「ホンマやな。何が起こってこうなったんや?」
「そりゃ単純に体力的な問題でしょう。不老不死なんていったって元人間だもの。あれほど連発かませば体がもたないよ」
その推測は的中していた。高度な魔法であればあるほど詠唱には時間が掛かる。それをバナリスは高速詠唱で圧倒してきたのだが、
喉は枯れ、唇には血が滲み、口を開けるのが辛くなってきたのだ。
だがそれ以上に恐ろしいのはそこまでバナリスを消耗させる水間の粘りである。彼が近接戦闘を続けなければここまでバナリスは追い詰められてはいなかった。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」
「遂に、捕らえたぞ・・・バナリス。お前の背中が見えるところまでな」
「ふ・・・ふふ・・・予想外だね。いや、予想以上・・・はぁ・・・っ!」
水間の手にした大鉈も切れ味が鈍りナマクラと化していたがそれでも斬撃を続けられたのは彼が培ってきた殺しの技術によるもの。
すなわち「経験」であった。
元の世界で50人を殺し、こっちの世界では豚に始まり人間を何人殺してきたか分からないほど殺してきた。
その狂気性は一段と鋭さを増し、バナリスを追い詰めるところまできていたのだ・・・!
「はぁ・・・はぁ・・・」
「死が怖いか? バナリス。 死が恐ろしいか? バナリス。そんな覚悟も無しに「戦い」に勝てるほど甘くはないんだよ」
「まさか・・・むしろ楽しいくらいだよ。覚悟はあるつもりだ」
「つもりじゃダメなんだよ。それじゃ、ただの殺し屋無勢と変わらないねぇ」
「・・・・・・」
「人は簡単に死ぬ。だから今を生きる。その隙間を延ばし続けた男に、覚悟は決して芽生えない。
終わりにしてやるよ。おまえに最期を与える事でな!」
「ぬかすなあっ!」
バナリスが火球を放つ。しかしその攻撃は、水間にとってもはや見慣れた技に過ぎなかった。
水間が火球を切り裂き、間合いを詰める。狙うはバナリスの首一つ・・・。
「はあああああああああっ!」
ザンッ!
捉えた。水間の斬撃が、遂にバナリスの首を撥ね飛ばした。
ボトリと地に落ちるバナリスの首。それと同時に、バナリスの胴体が崩壊を始めた。再生力が尽きたのだ。
「あっ・・・・・・ああ・・・・・・」
首だけになったバナリスが呻き声を上げる。
「俺の勝ちだ・・・バナリス」
「ふふ・・・・・・そうだね。君の勝ちだ」
首はまだ動いていたが、やがて「死」に至るだろう。
「人間の可能性は不老不死を超える・・・それを体感できるとはね。おめでとう。君は最高の相手だった」
「・・・・・・そうだな。死なない人間なんていないさ」
「そ・・・・・・げ・・・・・・いた・・・・・・・・・・・・さ・・・」
最期はもう、言葉になっていなかった。
ここに、最終決戦は幕を閉じたのである。
「やったな、水間」
「お見事だねぇ~」
「オジサン感動したよ」
「おめでとう、水間君」
「さすが水間さんですね」
「感動しましたよ!」
仲間たちが水間の元へ駆け寄ってくる。
「ん・・・ああ、久々に、どっと疲れたな・・・」
そう言うなり、水間は地べたに大の字になって寝てしまった。
その傍らにはバナリスの首があった。
一行がバナリス邸を出ると、そこにはフェルテの使いの者がいた。
「あ、終わったんですか? バナリスはどうなりました?」
「ん、ほれ」
宅間がバナリスの生首を投げてよこす
「ひっ・・・!」
「おまえらが欲しかったのはそれやろ? 戦いは終わった。こっちの勝ちや。大将は寝てしもうたがな」
「それでなんだけどね、これを期にポンメルとフェルテで和平条約を結びたいんだけど、いいかな?」
テッドがにっこり笑顔で話しかける。一応名目上は親善大使だ。これ以上波風立てたくないのが本音であろう。
「わ、わかりました。これを持って軍上層部に掛け合ってみます」
「話が早くて助かるよ」
使いの者はバナリスの生首を袋に詰め、去っていった。
袋の中のバナリスは、驚く程、幸せそうな表情を浮かべていた。




