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第一話 異世界と豚

「ん・・・・・・」

それは長い夢から覚めたような開放感だった。といっても、夢の内容まではまったく覚えていない。

舗装されていない土の上に大の字になって寝っ転がっているというのは分かった。

上空を見上げれば星空が綺麗に夜空を彩っている。

「地獄にしては随分綺麗だな・・・」

重たい体を起こしてみる。指先も動くし、頭の回転も問題ない。体を勢いよく回すと、ポキポキと小気味良い音がした。

何処だここは。様子がおかしい。地獄ではなさそうだが、天国でもない。

本当に何処かに放ったらかしにされたような状況である。

それとも今ここにいること事態が夢なのかと考えてみたが、それにしては意識がはっきりし過ぎている。


「プギャ!プギャギャ!」

ふと背後から聞いた事のない声がした。振り向くと、流石に目を疑った。

二足歩行の豚が2体。両者とも胸当てと皮のパンツで装着し、片方は重たそうな斧、もう片方は松明を持っている。

「プギャギャ!プギャ!プギャ!」

「・・・プギャプギャうるさいぞおまえら。偏頭痛にでもなったらどうする」

どうせこちらの言葉なんぞ分からないと悟って、あえて悪態をついてみる。

すると2体の豚は今度はグルルル・・・と唸り声を上げ、斧を持った方が明らかな敵意を持って斧を構えてきた。

大の男が得物抱えて丸腰の男を殺ろうとはなんとも無粋な奴らだな、とため息一つついてみる。


瞬時、この状況を考える。敵は2体で武装は斧。炎は松明があるし、肉を裂けばラードと糞がたっぷり詰まった肉が待っている。

食えるかどうかは微妙だし、下手をすればこちらが肉にされるがリスクをすれば見返りは充分。


(鴨ネギならぬ豚ネギだな。これは)


「プギャー!」

豚が斧を大上段に構えて襲ってきた。案の定、単純な構えに単調な攻めだ。ろくすっぽ訓練もしていないのが丸分かりだ。

この世界にどんな武装があるかは知らない。魔法があるかどうかも分からない。だが水間はこれだけは確信した。負ける要素はない、と。


「・・・・・・!」

豚が斧を振り下ろす。しかし狙った相手はそこにはいない。敵は最短距離で背後に回りこみ、首に腕を巻きつけてきた。

「死ね。豚野郎」


ぼきん!


首が瞬時に曲がってはいけない方向まで曲がった。人型であったが故の相性の悪さか、豚一匹はあっけなく絶命した。

からんと音がした斧を拾い上げ、水間がもう一体に向けて走る。松明を持っていた豚の顔色が、炎に照らされ変わったのが見えたが、もう遅い。

しかし水間はどこまでも冷静だった。斧を持ち、圧倒的な速さで間合いを詰めようと、やることは違う。違うのだ。

「何処だ!? お前らの根城は!? 村はあるか!? 言え!」

首根っこを捕まえ、鬼の形相で水間が叫ぶ。言葉は分からない。だが何を言ってるかは分からないが何を言いたいかは分かる。人外同士の対話でもその辺は変わらないことを水間は「分かっていた」。

「プギ・・・・・・!ギャ・・・ギャギャ・・・」

豚野朗の股間からちょろちょろと水が漏れるのが分かった。恐怖のあまり失禁してしまったらしい。

そして震える指先で、一つの方向を指した。道の向こう側・・・。

「そうか。そこがおまえらの根城か、人の住む村か。間違ってたら恨んでやる。そして、これは謝礼だ」

水間が改めて斧を握りなおす。それが臆病な豚が見た最後の光景だった。

「豚は死ね!」

豚は首を撥ねられた。


その日の遅めの夕食は、豚肉の丸焼きだった。塩も胡椒もないため、味は大した事はなかったが、とりあえず飢えを凌ぐ事はできた。

炎が消えないよう焚き火を慎重に扱いながら、水間は草むらで一夜を過ごし、日が昇り目を覚ますと豚が指した方向へ歩き始めた。

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