第十八話 神きどりとお誘い
バーン!
フェルテ帝国最深部の某一室がけたたましく開かれた。そこには飄々とした態度で水晶を見つめるバナリスの姿があった。
「どういうつもりだバナリス!? あんなキチガイじみた連中を呼び寄せるなど!」
「どうもこうも、私は関係ないですよ。ただ彼らの方が一枚上手だった、それだけですよ」
「くっ・・・しかしこれでは帝国の立場がないではないか!」
「あなた方の立場など知ったことではありません。それに彼らの標的はあくまで私です。帝国は無関係です。傷も付きません」
「そんな言い分が通るものか! 我々にも面子というものがあるのだぞ!」
「それも知ったことではありませんね。これは高尚なゲームです。フェルテVS異世界人ではなく、私と彼らの対決ですから。
用は私が勝てばそれで済む問題です。国民だって傷つかないし、軍も動かす手間も必要ない。どうぞ自由に通してやってください。
帝国の名を持つといっても今や没落貴族の身、瓦礫を崩したくなければまともにやりあわないでくださいね」
「・・・・・・そこまで言うからには勝つのだろうな?」
「無論です。秘術によって不老不死を手に入れた私に敵などおりません故・・・」
バナリスはどこまでも淡々としていた。天才ゆえの驕りと傲慢、それを分かった上で迎え撃つと豪語した。
彼はどこまでも水間達をなめていた。果たしてその首に太刀を浴びせる事は出来るのか・・・それは水間一行次第である。
「ああもうまったく! どうして君達は・・・」
馬車内でテッドが騒いでいた。さすがにあれはやりすぎだとかフェルテが全軍で来たらどうするつもりだとか。
「・・・問題ない」
水間の返答はそっけないものだった。
「フェルテからすればバナリス一人生贄に捧げれば事が済む問題だ。無理して軍を動かす事はない。今更面子に拘る様なら潰すがな」
「バナリスって奴はフェルテでも厄介者扱いなんやろ? せやったらケツ拭いて来い言うわな」
「それに先日フェルテの軍と戦ったが、明らかに錬度不足を感じた。まともに戦おうとは思わないだろう」
「楽な戦やでホンマ」
「君達って、つくづく頭のネジが何本も飛んで別なもの入ってるよね」
「でも正論でもあるんだよね~」
エドが話しに入りたいとウズウズしていたので割って入っていた。
「静かな繁栄を望むか、玉砕の破滅を望むか、ってとこですね」とコリス。
「とりあえず今は休もう。結論を出すのは向こうだ・・・」
夜は静かにふけていく・・・。
早朝、向こうの方からアクションがあった。
「自分はバナリス殿に指名された使者であります。これを・・・」
「はいはい、手紙ね・・・」
『君達の為に面白い余興の場を用意した。フェルテ国内の別荘で待つ』
「・・・生意気な書き方だな」
「よし、殺そう」
「殺そうね」
「意義なーし」
「じゃあその別荘とやらに案内してくれ。ああ、おまえも乗っていいぞ」
「中は盗賊狩りした時のエドのコレクションも多いが気にしないでくれ」
「は、はあ・・・・・・」
「ここがフェルテ帝国内か・・・」
「中々引き締まった街ですね。ポンメルとはやっぱり違うって感じがします」
頭上から弓矢の雨でも降ってきてもおかしくはないのだが、一向は平穏無事に国内で馬車を走らせる。
「昔は侵略戦争だ。他国蹂躙だで色々血気盛んな街だったみたいだが、今は同盟国も複数作って大人しくしているそうだよ」
横からテッドが話しかけてくる。
「あんな真似しておいて何だけど、出来れば和平条約でも結びたいところだね。さもないと報復が怖い。ポンメルを敵視することはないと思うけど、
売られた喧嘩を買いたがる人物は上層部に随分いるだろう。仮にも「帝国」を名乗る以上はね」
「なら俺達は邪魔なバナリスを叩き潰して露払いをしておこうか・・・寂しかったのかねぇ、バナリスという男は。
神気取りといっても邪険にされるわ色眼鏡で見られるわ、何かこう・・・哀愁を感じさせるんだがな」
「ま、会ってみれば分かる話やん」
「神なんていそうでいない生き物なんだよね~」
「ここです。ここがバナリス氏の別宅です」
「・・・見た目は普通だな」
大型の別宅には窓は一切なく、扉だけはやたら頑丈そうで、庭木もない偏屈そうな場所だった。
「ご苦労だった。帰っていいぞ」
「は、はい・・・」
一行が近づくとドアノブがない扉はひとりでに、ゆっくりと開かれた。
「どうぞ、いらっしゃいませってとこやな」
「ならば行こうじゃないか・・・神になり損ねた凡人の面を拝みに・・・」
水間達は暗いドアの先へと入っていった。そして扉はまたひとりでに閉まったのだった。




