第十二話 夢と治療
ポンメル軍がウェールズ家の部隊を制圧するまではそれほど時間は掛からなかった。存外士気が低かったのも幸いしたのか、ウェールズはアッサリと陥ちた。
「この際だ。資料やら何やらは全部ひっくり返して押収しろ。あとはお偉いさん方の身柄の確保だ」
「あと、異世界人の方も気になるね。突然現れたのをスカウトしたのかどうなのか・・・ま、そっちの方は任せるよ」
「ええ。お任せを。しかしテッド殿、すっかり軍略家気取りですね」
「いやあ私にそこまでの才能はないよ、此度の件に対しても出しゃばりすぎて申し訳ないと思ってるくらいさ」
「軽口ですね。とりあえず貴族格は全員身柄確保しておきましょう」
「何かいい情報が聞けるといいね。フフフ・・・ご婦人相手に対しては久々に頑張っちゃおうかな~? それとも有無を言わさずヘンリー送りに処するかな~?」
「・・・あまりそこら辺は出しゃばると困りますのでご容赦してもらいたいところですな」
バチーン!
「ぎゃああああああああああああっ」
「どういうことですかぁ!?」
水間一行は一足先にポンメルへ戻ってきていた。そこの救護班に手当てをしてもらっている中、マフィがやってきていきなりこれである。
「わたし・・・わたし・・・すっごく心配してたんですよ。すっごく。なのに、こんなボロボロになって・・・もう!」
「悪かった悪かった。とりあえず治りかけの背中叩くのはやめてくれ。意識が飛ぶ」
「おーおー、惚気ちゃってるやん」
「あれは尻に敷かれるタイプだね~」
「そこ、後で覚えてろよ」
「そうですよ! 私そこまで水間さんのことは・・・」
バチーン!
「ぎゃあああああ! 照れ隠しで叩くな!」
「うぅ・・・でも無事で良かったですよ。まあ水間さんは無事じゃないけど。心配してないけどとにかく心配してたし・・・」
言ってることが滅茶苦茶である。
とりあえずマフィを心配させすぎるのはやめよう。水間は固くそう誓った。
「さて、聞かせてもらおうじゃないか。現ウェールズ家当主、ハドワード・ウェールズさん」
ポンメルの務所まで連行されてきた当主との会談が開かれた。周囲にはポンメル側のVIPな連中もいる。
「此度の所業は我々ポンメルに対する侵略行為だ。言いようによってはただではおきませんぞ。ただじゃなくてもおきませんぞ」
「隣村のバイセルに対する焼き討ち行為も重罪に値する。返答次第では即刻極刑にしますが、いかがですかな?」
「・・・・・・・・・・・・」
この状況、まさにお白州である。
ウェールズ家現当主、ハドワード・ウェールズは確かに野心家ではあったがここまで極端な行動に出るほど強欲ではない。
むしろ肝の小ささを隠すために軍勢を統制していたといっても過言ではないのだ。
そんな彼が、完全に追い詰められもはやこれまでという状況の中、やがてゆっくりと口を開き始めた。
「夢を・・・夢を見たのだ」
「夢・・・ですか」
「夢の中で一人の男が私にこう呟いた。ポンメルに在住している異世界人を殺れ。さもなくば永劫にわたってウェールズ家を呪い続ける、と」
「・・・・・・・・・・・・」
「勿論タダでとは言わない。こちらから異世界人を2人派遣してやろう。この力で全てを殺し、全てを焼き尽くせ、と」
随分と上手い冗談だ、と皆が言葉を飲み込んだ。
「目覚めたらそこに2人の男が立っていた。シルクハットの男に、頭を剃り上げた男だった。夢は・・・正夢だった。
後は私は取り付かれたかのように軍を動かした。そう、私は脅されていたのだ。私は悪くない! 悪く・・・ないのだ!」
ため息ひとつ、そこにいたポンメル側の人々が呆れたようにハドワードを虫を見る目で見据えていた。
「百歩譲って冗談ではないにしろ、あなたが此度起こした罪はしっかり償っていただきますからな」
「うむ。殺された者も多い。その全責任、あなたが被っていただきましょう」
「ま、待ってくれ! 私は脅されていただけだ。後生だ!」
「それでも罪の後には罰が来るものです。世の理としてね」
在席していたバンディが言う。まあおまえが言うなという事は重々分かっているが。
(しかし、そんな正夢があるなら黒幕がいるということになるじゃないか。しかも異世界人がターゲット? なぜそこまで知っている・・・?)
(ターゲットは間違いなく水間君ご一行だろう。ということは私は標的をわざわざ戦場に送りこんだようなものじゃないか)
(そこまでこちらの動きを把握している奴が裏にいる・・・? これはそういうことなのか)
「申し訳ありませんが、一足先においとまします」
「あ、ああ・・・気をつけてな」
(お偉いさん方には申し訳ないが、この一件、水間君達に話しておくべきだろうな)
「それは本当か?」
「ああ。虚言でなければ真実だろうね。しかもターゲットは最初から君達だった」
未だ病院のベッドの上でマフィに薬を塗って貰っていた水間は事の大きさに複雑な心境であった。
水間ばかりではない。宅間もエドも、その話を聞いてイラッとしていた。
「ムカつく話やな」
「黒幕は・・・やっぱりボクらが追っていたスリーBなのかねぇ~?」
「しかも問題はこれが始まりに過ぎないかもしれないってことだ。今後、世界各国で同じような事が起きかねない・・・」
「同感だね。異世界人はポンメルにいるばかりじゃない、隣国にも在住しているという噂がある。下手をすれば群雄割拠の世界大戦の始まりだ」
空気が自然と張り詰める。事は水間たちが思っているより重大な一件になるかもしれない。
「でもね・・・私は正直怒っているのだよ」
バンディが言う。
「こっちの世界に来て、真面目に仕事を始めた。それなりのキャリアにも就いた。大好きな強姦殺人だって自重したし、街の為に尽くしてきたつもりだ。
それがこんな事になって、無理やり狙われて、怒り心頭だよ。しかも私は君達を危険に晒した側になったのだからね」
「強姦殺人さえなければ、おまえさんは天才だからな・・」
プライドの高さが災いしたのか失態だと思ってるわけか、水間はそう考えた。
「もしポンメルのお偉いさん方が君達のせいにしたら私は断固否定するよ。そして逆にこう答える。こっちが逆にやり返すべきだったから良し、とね。
私は君達の力を買っているし、信じてもいる。君達を守るためなら尽力するつもりだ。君達は必要なのだと」
「そこまで言うてくれると俺達も感動もんやな」
「だね~。味方がいるってのは心強いからね~」
「フフフ・・・こうなったら本格的に軍を補強すべきだなぁ。薬莢に弾丸と鉄砲を生産して重火器を揃え、素人でも軍属として従えるようにして・・・、
まさに産業革命でも起こしてやろうかな。ふっふっふ」
「・・・あまりこの世界を変えすぎるなよ」
「水間さん、鉄砲とか弾丸とかって何ですか?」
「素人でも簡単に人が殺せる兵器のことだよ。魔法と違って詠唱もいらないし、一般市民でも兵役が出来るようになる。まさに悪魔の兵器だな」
「うわぁ・・・確かにそんなものができたら戦いが一変しかねませんね」
「だが必要なときがくると判断すれば、私は容赦せずに武器の生産に取り掛かるよ。
とりあえずしばらくは傷を癒す事に専念してくれ。何かあったら情報を入れるから」
「・・・ああ、そっちの方は頼む」
(誰かは知らないが、こっちをなめたツケはきっちり払ってもらわないとな)
時計の針は着実に進んでいた。良きにしろ、悪きにしろ。
そして状況が動いたのは、丁度水間の傷が癒えた頃であった。




