第十話 異世界人と異世界人
その日の朝は慌しかった。
テッドの変態が両脇に女を抱えて鬼気迫る形相で宿に駆けつけてきたからである。異常な光景と思って差し支えない。
「えらい事になったぞ。戦争が始まりそうだ!」
「はぁ?」
最初から説明してくれ、と水間の言にテッドは答える。
何でも二つ隣町のウェールズ家がポンメルに対して侵攻を開始。途中の村は焼き討ちにあったそうだ。
前々から自前で軍隊を設備するなど黒い噂が耐えないウェールズ家であったが、此度の所業は明らかに常軌を逸していると言っても過言ではない。
さらに、なんとか逃げ切ってきた村の人々からはこのような言葉があった。
明らかに異世界人と思わしき男が2人混じっていた、と。
「というわけだ。お前達も手を貸せ。いや、貸してくれ」
「いいぞ」
水間は即答した。
「この街はいい街だ。焼かれるには忍びない。それにな・・・楽しみなんだ。異世界人同士の殺し合いというのがな。エド、宅間、無論付いて来るよな?」
「勿論だねぇ~。楽しい一日になりそうだね」
「調子ぶっこいた異世界人か? あーしんどそうや。しんどそうで八つ裂きにしてしまいたいくらいや」
「よし、分かった。馬車を飛ばす。ああ、マフィちゃんは避難しててくれ。帰ってきたら結婚しよう」
「それは絶対に嫌です。とりあえず皆さん、ご武運をお祈りしています。生きて帰ってきてくださいね」
「無論だ。行くぞ!」
「応!」
学術が盛んなポンメルには魔術に長けたものが多い。しかしいくら強力な魔術といっても前衛が守らなければ意味がない。水間たちはそこに配置された。
「魔術って、手から火やら氷やら出すものと想像していいのか?」
「概ねその想像で問題ないね」
数ではこちらが若干有利、遠距離戦でも分がある。だが気になるのは異世界人だ。彼らが戦局を一変させかねない。
事実その異世界人は村の人々を八つ裂きにして回っていたそうだ。殺す事に何のためらいもない歪んだ性根の持ち主なのだろう。
「しかしおまえさん、軍権まで持ってるのか?」
「対異世界人対策として召集権を譲渡されただけだ。戦に関してはこちらの専門がやる。お前達は異世界人だけ狙ってくれ」
「・・・了解」
決戦は比較的高台に位置して敵を待った。小刻、敵の軍勢の先鋒隊が見えてきた。案外足が速い。
「盛大にぶちかますぞ。魔法隊、大型爆裂魔法詠唱、用意!」
軍師格が指示を出す。まず敵の鼻っ柱目掛けて魔法をぶち込み、相手を錯乱、浮き足立った所を前衛が叩くという目論見だ。
「通用するといいけどな」
「多分大丈夫だろ。本来なら楽な戦な筈だ。問題は・・・異世界人だな」
「詠唱完了!」
「ようし、放てぇ!」
紅き閃光が敵目掛けて放たれる。瞬間、盛大な爆発が起き、敵の前衛が大きく吹っ飛んだ。
「前衛部隊、行進開始ぃ!」
オオオオオオオオォォォォオオオオオオオ!
重装歩兵達が敵目掛けて突っ込む。しかし、様子がおかしい。いや、おかしくなった。
前方の爆炎で起きた土煙の中から2体の影が高速で突っ込んでくるのが見えた。
あいつらだ・・・異世界人だ。水間は瞬時に悟る。
「行くぞぉぉぉぉぉっ!」
超反応で丘を駆け下りる3人。水間は左の影へ、宅間とエドは右の影へ対峙する。
ギィン!
双方の刃物がぶつかり合い激しい音をたてた。
影の正体・・・それは戦場に似つかわしくない丸腰で、奇妙な出で立ちだった。
水間と対峙した方は黒いスーツにシルクハット、胸には折り畳んだポケットチーフというまるでパーティに出席するかのような出で立ち。
宅間と対峙した方は頭を剃り上げ鬼より怖い形相で筋骨隆々とした白い肌の大男。どちらも異世界人で間違いない。
「おやおや、せっかくのパーティを邪魔するとは無粋だね」
「ウォッカを強請る浮浪者かぁ?糞が」
「名を聞いておこうか・・・」
「聞くほうから名乗るものだよ。アジア人」
「ショウイチ・ミズマ・・・」
「マモル・タクマや」
「エドワード・セオドア・ゲインだよ。この戦場での出会いが一期一会になるけどしょうがないよね~」
ハッハッハッハッハ!
シルクハットの男が盛大に笑う。見る者聞く者全てを嘲笑うかのような嫌な笑いだ。
「では私も答えよう。私は・・・そうだね。生前は『ジャック・ザ・リッパー』と名乗られていた男さ」
「オレサマはアンドレイ・ロマノビッチ・チカチーロ。人読んで『ロストフの切り裂き魔』じゃ」
「こりゃまたVIPな奴らが現れたもんだぜ。楽しくなりそうだな」
「君達は我々の手で盛大に切り裂かれ絶命する。文句は言わせないよ」
「殺る前から勝った気でいると舌噛むでハナクソ」
「全てを憎んでそうな異世界人か。楽しくなりそうだね~」
5人は1度間を取り、懐から刃物を数本持ち出した。ただし水間に限ってはいつも通り大鉈一振りのみだ。
「宅間、エド、おまえはチカチーロを狙え。ジャックは俺が仕留める!」
「分かった。死ぬなよ。マフィちゃん悲しむかんな」
「生きるために殺すか・・・俺達に相応しい生き様だな。さあ、死に損ないの延長戦、精々楽しませてもらおうか」
「そうだよ~。やるからには楽しまないとね~」
戦の横で戦局を左右する一戦が始まろうとしていた。
なお、その頃街にいたマフィは水垢離をして水間達の勝利を祈願していたらしい。




