プロローグ 殺しと思い出
このお話は読めたものではないので読んではいけません
一人の男がいた。名を『水間 将一』。死刑囚として余生を送り、やがて処刑された男だ。
彼が収容されるまでに殺した数、実に50名。シリアルキラーとしては上々の数字である。現に彼が生きていた頃は日本中が恐怖し、そして狂喜乱舞した。
これほど鮮やかに、証拠も殆ど残す事もなく、まるで怪盗のように現れては人を殺す手際は新聞雑誌で長らく取り上げられた。
時として無差別に、あるいは何者かの復讐の手伝いのために、またある時は国内有数のVIPを。
実際、最後の50人目は大不正を行った時の内閣総理大臣だった。
街中で狂人が刃物を振り回してもたかだか数名殺るのが精一杯のこのご時勢において、
この数字は今後決して破られる事のない不滅の大記録と言っても過言ではない。
得意技は首捻り。一瞬で首を360度回転させ、絶命させる荒業だ。刃物を使うよりこっちの方が得意だから。彼は収容中の週刊誌の取材で悪びれる事もなくそう答えた。
実際のところ、彼は冷静過ぎた。感情はあるのだがそれを容易にコントロールできる。これほど人格が破綻していない殺人鬼も珍しいと評される事も少なくなかった。
死体に射精するような趣味もなく、強姦殺人を繰り返すわけでもない。人も食わないし、尊敬するシリアルキラーもいない。
そう言われても自分はそうだとしか言えないよ。彼はそう答えるしかなかった。
淡々と日々を過ごし、外の天気を見ながら物思いにふけ、裁判でも毅然とした態度で言葉を残し、やがて彼は処刑された。享年24歳。
彼が最後に望んだものは一杯の日本酒だけだったという。
水間将一。殺人鬼になるがために生まれてきた男である。
もはや家族構成や生い立ちなど、彼には心底どうでもいいことであった。
そんな彼が唯一茶目っ気を残した言葉がこれである。
「そうだな。もし次に生まれ変わったら、今度はこの殺しの力を正しい方向に使いたいな、復讐を望むもののために、格安でね」
津山30人殺しのレコードを超えた男が最後に望んだもの、それは「殺し」の正当化ではなく、「殺し」の仕事人になることだったという。
だがその願いが適う事はないことぐらい彼は知っていた。
しかし思うだけならタダである。事実、彼は処刑でありながら最期は笑顔であったという。
人は生まれ変わらない。淡々と生きて淡々と死ぬだけ。メルヘンやファンタジーでもあるまいし、そんなことはありえない。
そう、ありえない・・・筈だった。




