はじめの一歩(作:奈月ねこ)
僕は少年サッカーチームに入ってる。フォワードで攻撃の要だ。サッカーは楽しい。練習はキツい時もあるけど、試合で勝った時の嬉しさは言葉に出来ない。
そんな僕だけど、最近なんだかやる気がしない。
「琢磨!なんだそれは!そんなボール運びで相手をかわせると思っているのか!?」
コーチの声が飛ぶ。僕のやる気のなさがコーチにも伝わっているようだ。
「琢磨!やる気がないなら帰れ!皆の練習の邪魔だ!」
「あ、あのコーチ、うちの子も頑張ってると……」
練習を見に来ていたお母さんがコーチに詰め寄る。
「お母さん、琢磨君は少しサッカーから離れた方がいいかもしれませんよ」
「そ、そんな……」
僕もコーチと同じように思った。
「お母さん、いいよ。うちに帰る」
「琢磨!?」
やる気になれないんだから仕方がないよね。お母さんは納得してないようだけど。
僕は家でゲームをすることにした。サッカー以外で何かに夢中になりたかったんだ。でもゲームをしていても、いまいち集中出来ない。
「琢磨、ゲームばかりしてないで外にでも遊びに行きなさいよ」
「うるさいなあ。ほっといてよ」
「琢磨!」
僕は自分の部屋に駆け込んだ。そしてベッドにダイブした。
何かしたい。でもそれが何かわからない。僕はもんもんとした日々を過ごしていた。ただ小学校に行ってそのまま家に帰る。放課後が長く感じる。
そんなときクラスで目立たない女子が本を読んでいるのが目に入った。
「それ面白い?」
僕が話しかけたことにその女子は驚いたようだ。
「面白いよ。北野君は本を読まないの?」
「うん。つまんないと思ってるよ。それよりは外で遊んでた方が楽しいよ」
「本も楽しいよ?」
「ふーん」
外で遊んでた方が楽しいはずだった。でも最近は外で遊びもしない。僕は学校の図書館へ行くことにした。あの女子に言われたからじゃないけど、「本」が気になったんだ。何となく今まで行ったこともないところへ行くから、こっそりと誰にも見られないように向かった。
僕は図書館の扉を開けた。古びた匂いがする。かといって嫌な匂いじゃない。僕はぶらぶらと図書館の中を歩いた。その日は図書館の先生が一人いるだけで、誰もいなかった。
とそのとき、一冊の本が目に入った。背表紙には何も書かれていない。だけど昔からそこに陣取っているような存在感を放っている。僕はその本に近づいた。とても分厚い本。
「よいしょ」
分厚い本は、ずしっとした重さがあった。僕はその本を図書館の机のところへ持っていった。
ドサッ
本を机の上に置いた音が静かな図書館に響く。何故だろう。とてもワクワクする。どんな話が書かれてるんだろう。
僕はそっと本の一頁目を捲った。