春風(文:奈月ねこ・イラスト:霜月透子)
「はっくしょん!」
「はっくしょん!」
私はティッシュで鼻をかんだ。私は花粉症なのだ。それも重度の。
外へ出掛ける時はゴーグルのような眼鏡をして、マスクをする。その前に薬を飲み、目薬も注しておく。それでも仕事には行かなければいけない。私の重装備に会社の人達は驚いていたが、今は慣れたようだ。
そんな春先のこと。春と言えば花見だ。うちの会社でも係ごとに花見へ行く。そして当然のことながら場所取りの人間が必要だ。係内で毎年順番に一人が指名される。そして今年は私が指名された。
花粉症なんですけど!?
私は出かかった言葉を飲み込んだ。皆やってきているのだ。自分だけがしない訳にもいかない。
花見当日。私は午前中から会社の許可を得て、花見の場所取りのために公園にやって来た。いつもは花粉症が酷くて周囲を見る余裕もなかったが、こうしてゆっくり見ると桜は綺麗だと改めて思った。
その日はうららかで気温もほどほどに暖かい。私は眠くなってしまった。しかしこんなところで寝る訳にはいかない。と思った矢先、私は眠りに落ちた。
(ふふふ。楽しんでいってね)
ふわりと風が舞った。春の風に頬を撫でられたような気がして、私ははっとして目が覚めた。今のは……夢?でも囁かれた声は鈴が鳴るように心地良かった。それにその「人」の姿が鮮やかに瞼に焼きついている。薄い藍色の衣を纏って、長い髪を結い上げ、軽やかにまるで天女のように空へ溶けてしまいそうだった。
私は夢の中で春の精に会ったのかもしれない。