Turnover(作:美汐)
その朝、運命のいたずらが三人の人生を大きく変えた。
「ああもうっ! あたしの馬鹿! こんな日に寝坊するなんて一生の不覚! 和臣くん待っててね」
一人はうら若き女子高生。道を急いでいるのは、最近できたばかりの彼氏とのデートの待ち合わせに遅れないためだ。
「うわ~っ。早く行かないと、みんなにまたどんくさいとかいろいろ言われちゃうよ~。本当は野球なんてやりたくないのに~」
もう一人はおとなしそうな少年。少年野球の練習に向かう途中のようだ。慌てた様子で道路を走っている。
「儂の遺産を受け継ぐのは、いったい誰がふさわしいのか……」
そう言いながら下を向いて歩いているのは、仕立てのいいスーツを着た白髪の老人である。手に購入したばかりと思われる真新しい便せんの用紙を持って、なにやら考え事にふけっていた。
そんな三人は、それぞれ自分のことを考えるのに忙しく、前方にまるで注意を払っていなかった。
そして、まったくの時を同じくしてそこに向かっていたのである。
どっしーん!
道路の辻の真ん中で、三人は突如現れたお互いの存在に対処する暇もなく、そのまま正面からぶつかっていった。
その衝撃は、彼らの脳をしたたかに襲い、しばらく三人とも身動きできずに倒れ伏していた。
そうしてしばしのときが過ぎたころ、そろそろと彼らは身を起こし始めた。
「いったぁ~」
「いっててて」
「と、年寄りになんてことを……」
と、三人が目を開いた瞬間、互いが互いの顔を見て、驚愕の声をあげていた。
「ええええええ!?」
彼らは互いの顔を見て叫び声をあげたかと思うと、今度は自分の顔や体をそれぞれ確かめるように見回したり、触ったりしていた。
「嘘! なんで? あたしの体がなんでそこに? それにこの体なに? ちっちゃくなっちゃってるんですけど!」
そう叫ぶのは、小学生の少年の姿となってしまった女子高生。周りをきょろきょろとしたり、己の体を落ち着きなく見回している。
「うわあああ!? なにこの体! すんごく重いし、皺だらけ。それになんでぼくがそこにい
るの!?」
こちらは老人の体になってしまった少年。激しく目を瞬かせると、頭を抱えてしまった。
「ス、スカート!? なんという破廉恥な……。しかも、む、胸まである。わ、儂はいったいどうしてしまったのか……」
そして老人だった男は今、ぴちぴちの女子高生の姿へと変わってしまっていた。
「ねえ! どういうこと? なんであたしたち入れ替わっちゃってるの!?」
「わかんないよ~。こんなおじいちゃんぼく嫌だよ~」
「こ、困る! 儂はこれから大事な遺言書を書くところだったのに、こんな姿じゃ家にも帰れんじゃないか!」
道の真ん中で、三人とも泣いたり叫んだり怒ったり、大混乱を起こしていたのである。
〈To be continued〉




