門出(作:葵生りん)
燦々と降り注ぐ光が一層色鮮やかに見せる芝生の絨毯。
小道の両脇を咲き乱れるのは赤やピンクの無数のチューリップ。
丘に続く坂には絨毯みたいにパンジーやポピーで作られた花時計が正午を指している。
小さな坂をのぼりきったところには、バラのアーチ。
それをくぐると、聖書を持った神父と誓約書の置かれた署名台。脇に控える聖歌隊。その手前で待っているのは、白い燕尾服を来た彼。
ここまで一緒に歩いてきた父が、手を離す。
二度と会えないわけでもないのに、それが無性に寂しい。
父は緊張しまくっている彼としっかりと握手を交わす。
ぐっと握られた手がほどかれると、彼は私に手を差し出す。
彼の手を取る。と、抱かれている赤子がむずがる。けれど泣き声はしない。彼女は生まれつき喉に傷害のある子で、産声も上げなかったから。
抱っこを代わってよしよしとあやす。
気を取り直して、彼とともに父に礼を。
誓いの言葉。宣誓書にサイン。
そしてキスは娘の頬に両側から。
振り返った時にようやく、参列してくれた人たちを見た。
両親、友人。
それに私の同僚や上司や同期。
就職したての彼の同僚はまだ名前と顔が一致しない人が多いけど。
あとはこの会場に遊びにきていた知らない人たちだって、おめでとうと声をかけフラワーシャワーをふりかける用意をして待っている。
たくさんの。
本当にたくさんの人に見守られて、踏み出す一歩。
歩き始める。一緒に。
苦労をかけたりかけられたりするけど、どんな苦労だってきっと大丈夫。乗り越えていける。
大切なことは、
今見えているこの景色を忘れずにいること。
※フラワーフェスタで結婚式やってますよね……という安直な発想です。ごめんなさい。