暗黒の命日
夜が死ぬ日がやってきた。昼が戦争を仕掛け、夜がついに、全てから見放されてしまった。その、最期の日を今日迎えるのだ。
夜は、昼と唯一無二の兄弟のような存在なはずであった。しかし、ある日のこと。夜は昼に見限られ拒絶された。それが、夜が昼をこの目で見た最後の日であった。
太陽と月はそんな二人の仲介役だった。夜が太陽に頼みこみ、なんとかして世界が廻るようにさせたのだ。じゃないと、昼は自分の力を見誤り、愛子たちを殺してしまう。夜は昼のことが好きだったから、昼のために奔走することにした。たとえ、昼が夜のことを嫌いだとしても。
だが、月が死んでしまった日、それらは崩壊してしまったのだ。太陽は夜を詰った。月が死んだ理由は夜のせいではなかったが、太陽の陽がうまく月にあたらず冷たくなったのは、夜の頼みごとのせいで彼が向き合う時間が減ってしまったからである。
間接的に夜は太陽から月を奪ってしまったのだ。だから月は夜に溶け、二度と見ることができなくなった。
太陽だけでない、星たちも月の死を嘆いた。月の友人である彼らは月のことが一等すきで、会うたびにその話でもちきりであった。ときには太陽が妬いてしまうくらい、星たちはきゃらきゃらと笑って月の周りを走っていた。
でも、それももう何も見えない。
夜は、ひとりになった。元々友人が多いわけではなく、みなが好いているのは昼の方だった。潜在的に恐怖を感じてしまう夜に、或る者はひたすら震え、或る者は夜から背を向けた。その光景はなれっこだったが、それでもやはり悲しいことには違いない。
夜の心が傷つくたびに夜から誰かは離れていき、終には夜の元にはだあれもいなくなってしまった。
戦争は、知れずのうちに開戦し、夜が逃げて逃げて逃げて——もう、行き場がなくなってしまった最後の砦で、夜は逃げることをやめた。否、もうここ以外に逃げ場はなく、ここが夜の終点であったのだ。
昼は、世界の理を忘れてしまったのか、夜がいないと世界が崩壊するのに、夜を殺すらしい。自分事を他人事としか思えない夜は、戦争が始まったときにこの世界の終わりを知ってしまった。
「……ねえ、どうしてなのかな。僕は、あの日から考えても考えても、君の考えている事がわからなかった。何度も何度も思考を巡らせたのに、最期まで君の事がわからなかったんだ」
「…………」
「……ごめんね」
闇は死に、光が世界にあふれ、そうして人々は思い知る。強烈な光を目にして、眩しさに目を閉じようともその光は遮られる事なく、逆に痛みを増していた。夜は闇も連れ去って死んでしまったのだと。
光に耐えられなかった者たちは直ぐに絶命した。また、それに耐えた者でも、光を浴び続け見続けるうちに、弱り果てて生き絶えていった。
昼は、世界が壊れていく様を目に焼き付けていた。夜をこの手で殺し、それからの世界を身動きせずに見ていた。それは、世界が崩壊してしまうまで、ずっと同じ姿で。もうその場にはいない夜がいた場所を、ただひたすらに見つめていた。