恋愛相談
俺の家は剣術を教えている。現在進行形で。親父も、お袋も剣術をやっていた。相当の腕前だ。今では、同等に渡り合えるが昔はぼこすこにやられた。その他、柔道、空手、合気道などの色んなことをやった。だが、一番体に馴染んだのは剣術だった。俺は一刀流と二刀流の使い手だ。普段は幼馴染みの3人と夏樹の親友2人以外は知らないことだ。
俺の日常の1つが剣術であり、1つが本を読むことである。そんな俺にとって恋愛と接点は何一つない。皆無と言ってもおかしくない。そんな俺に恋愛相談をする幼馴染みは馬鹿なのか?それとも、ただの天然?それか間抜けか?さぁ~どれなのだろうか。そんなことはこの際置いといて俺の幼馴染み伊座凪信也はどうなのだろう。彼は幼馴染みである橘夏樹に恋愛感情を抱いている。彼は人には悟られずに行動することが出来るため、この気持ちに気付かれたことはないと本人は言っているが、俺にはバレバレなんだけどとしか言いようがない。決して、凄く分かりやすいわけではない。多分、俺の勘が冴えているのだろう。信也はここ最近、寂しそうな顔をするようになったからだ。これが俺が気が付いた原因なんだが。
最近、クラスの間でとある噂が話題になった。それが橘夏樹には好きな人がいるというものだった。これを知った信也は呆然とするようになり、元気を失っている。他人にはそんなように見えなくても俺たち幼馴染みには分かる。まさか、夏樹の好きな相手が信也なんて言えない俺は信也の愚痴を毎日聞いた。本を読みながら。だが、夏樹も分かりやす過ぎる。夏樹は信也と話していると特に楽しそうに振る舞うのだ。これを見て、他に誰がいるのだ。正直、言葉も出ない。早くコクれば終わることなのに。
「お前さ、やっぱり俺じゃなくて亮に相談すれば良いだろう。俺は恋愛に興味ないし、したこともないんだぞ。」
「いや、晃が一番話しやすい。亮も色々忙しいみたいだし。晃は暇だろ?」
「勝手に暇人と決めつけるな。俺は小説も読まないといかんし、小説を書かんといかんし。」
言い忘れていたが、俺は現役の小説家でもある。今年で3年目だ。ライトノベルを中心に出しているラノベ作家ではあるが、この夏に恋愛ものを書いてみないかと言われて俺はそれを受けて今取り組んでいる。俺が現在出しているラノベは異世界バトルものとSFのロボット系の2つ。これを2ヶ月に1つの作品を出すことをペースに書いている。これに恋愛の小説が加われば、少し忙しくはなる。信也たちと遊ぶことも難しくなるだろう。
「はぁ…俺に恋愛相談を聞かれても困る。俺はそういうのに興味はないんだ。」
「でも、恋愛小説書くんだろ。それだったら、参考ついでに聞いてくれよ。頼む。」
「どうせ、夏樹のことだろ。今更なんだ。早くコクれよ。度胸がないな…」
「よ、流石。てか、うるせぇわ。度胸がないなというか、夏樹に好きな男がいるって言われて、少し言いにくくなった。もしかして、駄目なんじゃないのかって。そうしたら、口に出せなくて…」
「そんなのやってみなくちゃ分からないだろう。それとも、お前はそんなに自信がないのか?」
信也は力を込めて首を振る。それはそうだろう。幼い頃からの付き合いだ。知らないこともないようなものだ。自信があることは決して、悪くない。信也は自信が足りなすぎる。もっと自分に自覚を持った方が良いと俺は思う。誰かを好きなることは俺にとって分からないことなんだよ…
「そ、そんなことはない。だって、幼い頃からいつも一緒にいたんだから。だけど、不意に好きな人が出来るのは当たり前だよな…」
「はぁ…お前も自分に自信を持て。夏樹と話してる時、お前は凄く楽しそうだぞ。その時のようにリラックスして。何か頼まれたら、必ずやること。分かったか?」
「分かった。だけど、告白する気にはまだなれないんだ。自分の踏ん切りがついてから。それじゃ駄目か?」
「別に良いが。頑張れよ。告白するときは言えよ。見に行くから。」
「後さ、晃。俺、少し期待してるんだ。もしかしたら、夏樹の好きな男って俺じゃないかって。まあ、分からないけど。」
「そうか。じゃあな。俺はまだ残るから奢るよ。じゃあな。」
「ああ。」
信也はゆっくりとファミレスから出ていく。これで少しは小説に集中できる。俺はペンを進めていく。原稿が話していたときとは書いている人が別人なぐらい早く埋まっていく。次から次へとことが出てくる。まるで汽車が走り続けているように次から次へと手が止まらない。神業。この言葉が合っているほどの凄さだった。
俺は小説を書きながら、信也のことを考えていた。信也と夏樹は幼い頃から俺らの中でも仲が良かった。夏樹が信也に着いていく。そして、夏樹が信也の世話をする。これが幼い頃の日常だった。当たり前の日々。今もそれは同じだ。昼休みに寝ている信也を叩き起こす夏樹。まるで夫婦のような絶妙なコンビネーション。これを見れば、2人が両思いなのは丸分かりだと思うが。本人たちは気付いていないらしい。全く、世話を掛ける奴らだ。2人には仲の良いままで居て欲しいからな。
信也だけじゃない。亮も好きな人がいる。それが園村雪野。夏樹の親友の1人だ。俺ら、男とは面識は少ないが、夏樹とは小学校からの付き合いらしい。亮はそれを横目で見ていたのだ。でも、高校に入り一緒に帰るようになった。どうやって近づいたかは不明だが、2人の距離感はだいぶ縮まっていると思う。それなのに中々告白することに至らない。理由は単純に亮に勇気がないだけだ。告白すれば、必ず付き合えると俺は思うのだが。亮は凄く心配性でもしフラれたらその後どう接すれば良いか分からないと嘆いている。こっちからして見れば、それは絶対にないと思うのだが。そんな状況になる確率はない。勇気を出して告白すれば良いことを。勿体無い。どうにかした方が良いのか…
「全く、恋愛するのは良いけど、けじめをつけろよな。告白するならちゃちゃっとすれば良いのによ。2人とも慎重すぎるんだよな…」
俺は溜め息を吐きながら、ペンを進めた。