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プロローグ

2010年4月22日

午後8時16分

アメリカ合衆国イリノイ州

シカゴ北部


民間軍事会社「FACTOR」本部

特務課所属

雨宮 護(あまみやまもる)




銃社会と呼ばれるほどに銃器が一般に広く普及しているアメリカ。

今となっては、一家に一挺は当たり前で、それ故に銃器を用いた犯罪は日常茶飯事だった。


今回の立てこもり事件もその一つだ。


………


………………


………………………




日も沈み、人通りも少なくなった郊外に、警官の怒号が響き渡った。


警官

「容疑者に告ぐ。人質を解放し、武器を捨てて出頭しろ!そうすれば身の安全は保障する!」

警官がメガホンで犯人に説得を試みていた。


立てこもりの現場は郊外にある通りに面した酒屋だ。

コンビニのように前面はガラス張りになっているが、ブラインドが掛けられていて中は見えない。



酒屋の反対側の路肩には、その様子を眺める黒塗りのSUVが二台停まっていた。


一台目には二人が乗っていた。

助手席にいる男が双眼鏡で様子を伺いながら口を開いた。


彼の名前はエイルマー・ボードン。

民間軍事会社「FACTOR」の社員だ。


エイルマー

「あんなことして、出てきたためしがあるのかねぇ」

メガホンで説得している警官を見ながら言った。


運転席の男は雨宮(あまみや) (まもる)

同じく「FACTOR」の社員だ。

雨宮が続けて口を開く。


雨宮

「一応やっとかなきゃならないんだろう。警告なしで射殺なんてしたら大問題だ」

雨宮は無表情で、淡々と答えた。


エイルマー

「ま、お巡りさんがどこまでやれるか見ものだな」

見下したような口ぶりで答えたあと、「あっ!」と声をあげた。


雨宮

「?」

エイルマー越しに酒屋を見る。


すると、ブラインドから拳銃の銃口が突き出ているのが見えた。



パァン!パァン!



拳銃の乾いた銃声が響く。

弾はどうやら先ほどメガホンで説得していた警官のパトカーに撃ちこまれたらしかった。


警官たちがあわてて頭を引っ込める。



エイルマー

「説得は無駄だったな」

雨宮はシートを倒し、横になった。


雨宮

「やる前からわかってることだ」

あきれたようなため息をついた。






通りに停まっている警察のバンでも、先ほどの銃声で警官はやや驚いた様子だった。

警官を指揮する現場責任者がこの膠着した状況に頭を抱えていた。


かれこれ1時間にらみ合ったままだ。


犯人の要求は一つ。

逃走用車両の手配だ。


人質は幸いにも閉店間際だったため、店主一人だけだった。


犯人は二人組で、黒ずくめの服装、手には拳銃という格好のようだ。



警官

「さきほどの発砲による負傷者はいません」

警官が現場責任者に報告した。


現場責任者

「わかった…。ビル、どう思う?」

現場責任者の隣りにいるビルという男が口を開いた。


現場責任者と同じくらいの50歳前後の白人男性で、体つきはがっちりしており、顔や手には縫合の跡が目立つ。


ビル

「私なら、いま外のSUVで待機している者たちに任せますが」


現場責任者は路肩に停まっている黒塗りのSUVを見た。

それは雨宮たちの乗るSUVだった。




現場責任者

「しかし……。万が一失敗したら……」


ビル

「我々には万が一でも失敗する可能性は皆無です」

強く、誇らしげに言った。


現場責任者はしばらく黙りこみ、うつむいた。


しばらくして顔をあげ、口を開く。


現場責任者

「ビル……頼んだぞ」

ビルという男はうなずくと、無線を取りだした。


ビル

「こちらアルファ。ギリー、アローヘッド、応答しろ」




SUVに乗っていたコードネーム[ギリー]こと雨宮、[アローヘッド]ことエイルマーは、[アルファ]であるビルからの無線を聞いた。


雨宮

「こちらギリー、アローヘッドも聞いています。どうぞ」


ビル

≪責任者から依頼が来た。ゴーだ。ターゲットの要求は逃走用車両の手配だ。出てきたところを仕留めろ。ターゲットの詳細はPDAに送る。見取り図もだ。いいか。殺すなよ≫


すぐに雨宮たちの持つPDAに情報が送信されてきた。


雨宮

「了解」

画面には、犯人の容姿、武装、人質の詳細、そして酒屋の見取り図があった。


雨宮

「よし」

雨宮が後部座席に移り、トランクからライフルを取り出す。


雨宮が使用するのは M14 EBR。

7.62mmNATO弾を使用するライフルだ。


続いて近代化カスタムされたAK47をエイルマーに手渡す。


エイルマー

「念のためだな」

エイルマーは弾倉に実弾が入っていることを確認し、薬室に弾を送った。


エイルマーたちのSUVの後ろにいる2号車には、4名が乗りこんでいる。

ビルから命令を受け、2号車はエイルマーたちのSUVの横をすり抜けて酒屋の裏へと回っていった。


雨宮が犯人の武装を無力化後、2号車の社員4名が確保する。


雨宮はウィンドウを全開にし、カーテンを閉めて、カーテンから銃口とスコープだけを出して射撃姿勢を作った。


雨宮

「準備よし」


エイルマー

「待ってろ」

エイルマーがダッシュボードからレーザー測距機付きの単眼鏡を取り出して覗いた。


エイルマー

「射距離、120m。横風はない。どうだ?」


雨宮のスコープに店の入口が写った。


雨宮

「射線確保。いつでも撃てる」


エイルマー

「よし」



エイルマーはもう一度距離、風を観測し、正確な値を出してスコープを修正する必要がないことを確認した。



エイルマー

「修正はいらん。好きにやれ」


一般的にこういった人質がいる場面での狙撃を行う際には、射手と観測手のお互いが考えてることを一致させるために、撃つ場所などを入念に話し合う。

しかし、この二人にはそんなことは不要だった。

なにしろ、言葉を発さずともこの二人は互いになにを考えてるかがわかる。

これまで二人で戦ってきた時間こそが、ここまで結束を強くさせたのだった。




二号車のチーム4名が、入口からは死角の位置についた。



ビル

《二号車のチームが位置についた。始めるぞ》


雨宮はM14 EBRに、弾薬を装填した。


エイルマー

「来たぞ」

エイルマーはドアミラーから、警察の用意した逃走用車両が来たのを確認した。



逃走用車両が店の前で止まった。



警官がメガホンを取り出す。


警官

「逃走用車両は用意した。店先に止めてある!」


呼び掛けた直後は反応がなかったが、しばらくして、犯人二人が店から出てきた。

一人は人質にピッタリ張り付き、頭に銃を向けていた。


犯人

「銃を捨てろ!銃を捨てて両手を上げてろ!」


警官たちにむけて怒鳴った。

犯人の目を見開いて怒鳴る様子を見ると、かなり興奮していることがわかる。


警官

「銃をその場に置け!両手を上げるんだ!」

包囲していた警官たちは素直に従った。



エイルマー

「射距離変わらず。風も変化なし。いつでも撃て」


雨宮は全神経を指先に集中させた。

意外とリラックスしている自分にちょっと驚いていた。



スコープの照準線がターゲットに重なる。





パキシュッ!




引き金を絞った。

いつも通りのマイルドな反動だ。

サプレッサーを付けていたため、発射音はあまり大きくはなかった。




雨宮の放った弾はまず、人質を銃を向けている犯人の足先に命中。

犯人は三本の指を失った。



パキシュッ!



命中を待たずに、すかさず二発目が放たれた。


二発目は犯人の銃に命中した。

ギュッと握りしめていたらしく、弾の衝撃をまともに受けた手首は、曲がってはならない方向に曲がり、犯人は倒れた。


もう一人の犯人は片方が倒れてからようやく状況を把握し、警官たちに銃を向けた。



パキシュッ!



そこで三発目。

弾は犯人の手の指の付け根付近に命中し、犯人は指二本を失った。


犯人は痛みにもがき苦しみながら倒れた。


痛みで銃はすでに手放している。



倒れた犯人はもう片方の手で落ちた拳銃を掴んだが、誰かが拳銃を踏みつけた。


踏みつけたのは二号車の社員たちだった。


社員

「残念だったな」


犯人はあきらめたのか、ガクッと顔を伏せ、手を頭の後ろへ置いた。


警官たちがすばやく犯人たちに駆け寄り、手錠をかける。



エイルマー

「全弾命中。ナイスショットだ」


犯人たちは痛みに苦しむ表情をしながらパトカーで連行されて行った。


雨宮

「ふぅ……」


緊張の糸を解き、大きく息をつく。

無線にはビルからの激励の言葉が入った。




この依頼に参加した社員は、すべて「FACTOR」本部、特務課の社員たちだ。

「FACTOR」内から、厳しい審査に基づく選抜によって選び抜かれた。

驚異の依頼成功率を誇る精鋭たちだ。


一仕事終えた彼らは安堵の表情を見せていたが、これはこれから起こる数々の事件の小さな小さな一つに過ぎなかった。




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