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学校の七不思議、と魔女

作者: 柾童蒼志

神奈川県のとある高校。そこにはある不思議な怪談があった。

「いや聞いたことねーからんな話し」

谷代 夏伊<たにしろ かい>の突っ込みは、『魔女』にさらりと流された。


そもそもこの怪談話からして間違っている、と俺は思わなくない。俺は古びたメモを開き、そこに書かれている文字を読み返した。

『1、走の人体模型』

何だ、走って。普通は動く人体模型とか歩く人体模型とかというだろう。なのに走。

走るのだろうか。あの昭和生まれの人体模型、『三郎丸君』が。俺の父さん母さんと同じくらいの歳だろうに。

次の言葉を目で追う。そこにはこう書かれていた。

『2、三階の花』

古びたメモは所々文字が読めなくなっている。読めるところだけを読むと、『三階の花』になるのだ。

花子さん?三階のトイレの花子さんなのか?

他にもそのメモには数々の妙な言葉が書かれていた。どれもこれもありきたりな怪談ばかりなはずなのに、読めなくなっている部分が多過ぎて本当に普通の怪談話なのかどうか分からない。

というかそれ以前に、あの『魔女』が企画する肝試し大会にまともな七不思議があるとは思えなかった。なんたって魔女なのだから。

………けれど。

その『魔女』の誘いを断りきれず、土曜日の深夜から学校に来ている俺はなんなのだろう。昇降口の前に座り込んで、俺は考えた。

「おーい、夏伊!そんなところに座り込んで一人考え込んでいると柄にもなく風邪とか引くぞー。ただでさえ馬鹿なのに」

そんな失礼な言葉を大音量で真夜中の校舎に響かせる方こそ、馬鹿なのではないか。

そう言いたいのをぐっと堪えた。耐えろ俺。言っても良いことなんか一つもないぞ。むしろ事態は悪い方に転がっていく。

俺は大人しく立ち上がり、『魔女』のところへ───麻空 宮梨<まそら みやり>のところへ、向かった。


そもそも事の発端は、俺が麻空が魔法を使っているところを目撃しちまったことにある。といっても俺が見たいと思ったわけでも、麻空が見せたいと思ったわけでもない。麻空が何となく魔法を使った場に、俺が何となく居合わせただけのことだ。

麻空はとにかく妙だ。腰まである長い黒髪を大雑把に二つに結び、魔法の杖と称してハリセンを振り回す魔女。普通はいない。

だがその力だけは本物なのだ。厄介なことに。

おかげで俺は麻空にこき使われる毎日を送っている。別に脅されている、とか言うことはないのだが。

今日も麻空が突然『七不思議が気になる』とか言い出して親しい友人の何人かと俺に集合をかけたのだ。

いつも麻空と一緒にいる女子、樹川 美奈<きがわ みな>。樹川は明るい性格をしているが、オカルト少女だ。どうやら彼女も麻空に誘われたらしい。俺とは違ってとても乗り気だが。

麻空と樹川の隣には他にも女子が一人と男子が二人いる。三人とも麻空の知り合いらしいが、俺は会ったこともなかった。

「さてここで自己紹介でもしとこうか。私のものはいらないし、美奈は先程したからいいな。夏伊、キサマから自己紹介しろ!」

なぜ俺に対して命令口調なのか。というかキサマ呼ばわりなのか。

それら諸々のことに突っ込んでいるときりがないのでとりあえずは無視し、俺は名前が分からない三人に向き合った。

「えーと。俺は谷代夏伊です。1年F組です」

「よろしく夏伊君。僕は新神 津白<あらかみ つしろ>って言います。………実はただの付き添いなんだ」

付き添い。ってことはこの学校の人じゃないのか。

「俺は砂里 司郎<すなさと しろう>です。で、ここの三年生」

そうだろう。砂里先輩はきちんと制服を着ているのでそれは分かっていた。

で、最後の一人。新神さんを付き添いとして連れてきた女子は。

「俺は紫暮 未浜<しぐれ みはま>だ。………なんだクラス一緒じゃねーか」

え。

女子なのに一人称俺?いやそれは普通にありえるが、同じクラス?初対面なのに?

紫暮はニヤリと笑ってみせた。ああこいつ麻空の同類だ。

「俺は天下無敵の不登校児なんだ。入学してから一回も学校来てないからな………そりゃあ会わないだろ」

まず入学式にすら行ってない、なんて言われたら、とりあえず絶句してみるしかないだろうと思う。

隣に立つ新神さんは少し困ったように笑い、砂里先輩は尊敬のまなざしを紫暮に送っている。いや違うでしょう砂里先輩。そこは多分呆れるとこだ。

「………不登校児なのに、夜は来るのか………?」

「ああ。だって宮梨に呼ばれちまったからな。来るしかないだろう」

「そういうわけだ。私だって未浜に呼ばれれば行くしかないのだからな。当たり前だ」

この二人、何か常識でははかれない絆があるらしい。深く突っ込むのは命取りだぞ俺。そこはさらりと受け流せ俺!

とまあ必死の努力のかいあって、なんとか俺はその二人の謎な会話を受け流すことに成功した。

「……で、だ麻空。どの七不思議から回るんだ?」

「こういうのは一番から順々に回ると決まっている。まずは『走の人体模型』だ」

ってことは理科室か。俺たちはぞろぞろと理科室に向けて歩き出した。

「走ってなんなんでしょうね」

「さあ。でも面白そうだね」

「逆走の走だったりしたらウケるよな」

俺は少し怖がりながら、新神さんはのほほんと、砂里先輩は楽しそうに、それぞれ話しながら歩いていた。

人体模型が逆走してたらウケるより先に心臓止まりますってば。

女子三人組は樹川一人がはしゃいでる。麻空と紫暮は恐がりもしていないしはしゃいでもいない。………ところで、麻空がハリセンを持っているような気がするのは気のせいだろうか?

気のせいだろう。気のせいだと思いたい。気のせいだったら良いな。

だんだん弱気になっていくが、これも麻空という『魔女』相手にするなら当たり前のことだ。麻空の前では俺なんて、ただの突っ込み野郎でしかない。

理科室の前に来た。なぜだか俺が一番前にいる。

………どうしてだ?

「よし行け夏伊!」

「いやお前が行けよこの言い出しっぺ!」

「言い出しっぺは関係ない!私はわがままなんだぞ知らなかったのか?」

大いに知ってます。

だがだからといって思い通りになるわけにもいかない。というかなんでこれだけ奇妙な面々がそろっていてどうして俺が先頭に?

麻空は魔女だし樹川も紫暮も怖がってはいないし新神さんは平気そうな顔してるし砂里先輩は面白がっているし。

しょうがなく俺は扉に手をかけた。この薄情な面々は扉を開ける役目を絶対に代わってくれないに違いない。

がらがらと、やけくそ気味に扉を開く。今更鍵が開いてることなどに疑問を持ったりするものか。

理科室の中はしんとしていた。相変わらず薬品くさい。だがこれが無かったらきっと理科室を理科室と認められないだろうことは明白だ。理科室は薬品くさくあってこそ理科室なのだー………などとしょうもないことを主張して現実逃避を試みた。

人体模型の三郎丸君は、先生が使う大きな机のすぐ側に置いてあった。大人しく。普通に。

何だ動いてないじゃないか。

「………おい、麻空……って!」

麻空達はまだ中に入っていなかった。ちょっと待てお前らそれはさすがに卑怯だぞ!

「頑張って、谷代君!」

「調べ尽くせ。私はそういう作業が恐ろしく苦手だ」

「頑張れよ谷代。大丈夫、骨はきっかりがっちり拾ってやる」

「ちょっと未浜、それはさすがに言い過ぎ。谷代君、大丈夫。ちょっとやそっとの非常事態じゃ驚かないし何ともならないだろうから。明日の朝日はきっと拝めるよ」

「俺は恐い話しは平気だけど、人体模型なんていう生々しいもんは駄目だわ」

みんな無責任な。俺だって平気なわけじゃないのに。

だがここで怖いだのなんだのといってもきっとこいつらは聞き入れてくれないだろう。さっさと異常がないことを確認して、次の所へ行こう。

その時。

ぎ………こ。

なんか変な音がした。

音の発生源はもちろん─────三郎丸君。

「……嘘だろ?」

ぎこ……ぎぎぎぎぎ。

嘘ではなかった。冗談でも目の錯覚でもなかった。

動いているのはまぎれもなく三郎丸君だ。ぎこぎこと、錆び付いた間接を鳴らしているのは三郎丸君だ。

「う、うわっ!」

三郎丸君が、こっちを向いた。

なんか獲物を見つけたハンターの眼をしてた。

「夏伊!走れ!」

麻空がなんか楽しそうに、しかし鋭く命令する。俺は条件反射でそれに従った。

ダダダダダ、と夜の校舎に六人+人体模型の足音がこだまする。

麻空は運動が苦手な割にそれなりに早く、俺はその隣に並んで声もでないほど慌てふためき、樹川は俺に負けず劣らず慌てて走る。こいつ怖いの苦手なのに大好きなのだ。怖いもの見たさというものらしい。

紫暮は余裕で先頭を走り、それの数歩後ろに新神さんがいる。この二人は怖がるそぶりが全く感じられない。それに運動神経にもとても恵まれているようだった。

砂里先輩は俺の居た位置からでは見えない、後ろにいた。怖がっているのか楽しんでいるのかは全く窺えない。

廊下を全力疾走。階段を降り、昇りひたすらに走る。

しばらくして、紫暮がスピードを落とし始めた。

「もういねえ。止まっていいぞ」

いわれて背後を見てみる。確かに三郎丸君はいなかった。

「どうやらあいつは理科室からあんま離れられねえようだな」

「そのようだ」

紫暮がいい、麻空が同意した。しかし紫暮と新神さん、これだけ走ったのに息一つ切らしてない。

「あんたら………タフだな」

そういったら、紫暮は笑った。

「俺がタフなんじゃない。お前らが体力ないんでもない。まあ麻空はないが………お前らが疲れてんのは、人体模型に追われているっていう精神的なもんがあったからだ。普通に走ってたらこれくらいの距離で疲れたりしねえよ」

いわれて初めて気付く。ここは職員室前だ。確かに全然走っていない。せいぜい三十メートルちょっとくらいだろう。

砂里先輩も平気な顔をしていた。新神さんは先程までと全く同じ柔らかな微笑みを浮かべている。樹川は早くも立ち直ったらしく麻空を質問攻めにしている。麻空は日頃の運動不足と天性の運動音痴のせいでまだ息が切れているらしかった。

「…………にしても、意外だったな」

「何がだよ」

ようやく普通に喋れるくらいまでに回復した麻空。意外だったとは何のことだ?

「あの人体模型のことだ。走がなんなのか、わからなかったのだが………まさかああいう意味だったとは」

ああいう意味?どういう意味だ?

「一つ目の怪談、『走の人体模型』は……『全力疾走の人体模型』だったらしい」

「はあっ!?」

全力疾走の人体模型?

「いやそんなある意味逆走よりも怖いことが………っていうかすげえ遅かったような気がしたんだが………それ以前になんで全力疾走ってわかるんだ?」

「お前はあの人体模型の必死な表情を見なかったのか」

見てません。人体模型の表情なんてわかりません。

「なんせ昭和生まれだからなー。相当な歳だからなー。どんなに頑張ったって高校生には敵わねえんだって」

あっけらかんと笑う砂里先輩。そこ、笑う所ではありません。

「まあ良い。なんにせよ一つ目の怪談はわかった。次いくぞ、次!」

魔女の一声によって、俺たちはまたゾロゾロと動き出した。

そこから先は………なんというか、非常に常識外れなもんだった。怪談も人間も。

もっとも、こいつらに常識なんて求める方がおかしいのだろうが。


『2、三階の花』

「あわわわ、すんませんすんませんすんません」

「いや………そんな怖がらなくてもいいから」

『三階の花』は『三階の厠の花田君』だった。トイレではなくカワヤですか。

しかも花田君はとんでもなく臆病だった。

「花田君、僕らは別に君を怖がらせに来たわけじゃないんだよ。ただ何となくふらっと来ただけなんだ」

なんですか新神さんそのふらっとって。ものすごく怪しいんですけども。

ところが花田君は納得してしまった。

「あ………そうなんですか」

いいのかそれで!ってな状況で二つ目の怪談も無事確かめた。

ちなみに花田君がいたのは当然のごとく男子トイレだったので、麻空達は外で留守番というか待ちぼうけ。戻ってそうそう俺は『遅い!』と八つ当たりされた。ハリセンのくせに妙に頭が痛むのはいつものことだ。


『3、勝手になるピアノ』

タタララチャチャチャ、と確かにピアノは勝手に、ひとりでに鳴っていた。だが明らかに選曲ミスだ。

「………どうしておもちゃのチャチャチャなの?」

「俺が知るかよ。にしても………」

俺たちは多分、同じことを思っただろう。

すなわち、ヘタクソ。

三回に一回は間違えてやがる。

とうとう麻空がキレた。

「ええい、この幽霊どもここに直れ!」

………俺の眼には幽霊なんて映ってないんだが。

まあそこは麻空だから、で片付けるとして。

麻空はそれから延々と説教して、その結果といっていいのかはともかく、幽霊達は無事『運命』をマスターした。

どうでもいいけど『運命』なんてどっから出てきたんだ?なんていう月並みな俺のツッコミは、本当にどうでもいいこととされて黙殺された。


『4、十二時に映る霊』

一階の大きな鏡。それはとても曰く付きな代物らしいが、そんなものはハリセン持った魔女である麻空には関係ない。

その鏡の前には幽霊なんていなかった。だが麻空と紫暮にいわせれば『何かいる気配はする』らしい。

砂里先輩の情報によれば、砂里先輩と同じ学年の生徒も何人かここで幽霊を見ているそうだ。

業を煮やした麻空は、とんでもない暴挙に出た。

なんとハリセンで鏡をぶっ叩いたのだ。

「出てこい!いるのはわかってる!」

刑事ドラマかよ、と思わないでもなかったが、呆れるのに忙しくて突っ込めなかった。

そんな方法で出てくるわけねえだろ。

──────と思った俺が、甘かったらしい。

「は〜い。なんですか〜?」

眠そうな目をした、白い少女の幽霊が出てきた。

樹川は悲鳴すら凍り付かせ俺にしがみつく。だが俺も驚いているので声が出せない。先程の三郎丸君の時よりはよっぽどましな状態だったが。

「なぜ、出てこない?」

「だって〜今は十二時じゃないじゃないですかぁ〜」

俺は時計を見た。十一時五十九分。時間に正確な幽霊なのだろうか。喋り方からはとてもそうは思えないが。

「わたし〜夜は眠くて眠くて〜。お昼に出ることにしてるんです〜。十二時に出るんですよ〜」

ずるっ、っと。あまりのことに俺と樹川と麻空がこけかけた。紫暮は『ま、そういうこともあるだろ』などと笑っているし、新神さんや砂里先輩は『ああだから十二時』と納得している。確かに夜の十二時は零時ともいうから、十二時という時はだいたい昼を指すのだというその言分もわからなくもないが、幽霊なのだから昼間に出るのはちょっとどうかと思う。

「…………そうか」

麻空はなんか悟ったような表情でそれだけいうと、その場を後にした。

なんかちらりと睨まれたような気がするのは気のせいだろうか、と思いつつ、依然として離れようとしない樹川をなだめ、一行の後ろの方についた。

また八つ当たりされるのだろうか?


『5、一段増えている階段』

元の数は十二段だという、その階段。だが真夜中に数えてみると一段増えているらしい。

俺たちは右足から踏み出して足が階段についた時点で一段、踊り場についた時のものは数えないと決めた上で、調べだした。

1、2、3、と数えながら昇っていく。よし12。どうやらこの怪談は冗談か何かだったらしい。一つくらいこういうものがあってくれてもいいだろう。

だが隣の麻空は『13だ』といった。

「一段増えている」

「俺も13。津白は?」

「僕12。元の通りだよ」

「私も12。砂里先輩は?」

「俺?俺は17」

一人だけなんだか大きくかけ離れている。砂里先輩、今は年齢を聞いてるんじゃないんです。

「………馬鹿夏伊だけならまだしも、美奈と新神が12で私と未浜が13だというのは奇妙な話しだ」

馬鹿とはなんだ馬鹿とは。文句の一つでもいってやろうかと思ったが何故か今の麻空は非常に機嫌が悪い。俺はため息をつくだけにとどめた。

「よし、もう一回調べてみよう」

俺たちはまたばたばたと降りて、再び昇り始めた。

1、2、3………あれ?今度は13ある。

「………私は14なのだが………」

「俺も。ってことは津白、谷代、美奈の三人は13だな?」

二人が頷いた。ということはこの怪談は………。

「どうやら、数えるごとに一段ずつ増えていくらしいな」

「んな馬鹿な!じゃあその内五十段とかなっちまうじゃねえか」

思わず突っ込んだ俺に、麻空が冷たい視線を向けた。

「だから馬鹿だというのだキサマは。それなら数えずにこの階段を昇ればいい。いちいち段数を増やしていく気なのか?それにこの階段は、おそらく明日になれば自動的にリセットされる」

なんか麻空が冷たい。今までも十分冷たかったが、今日はいつにもまして冷たい。というか先程から冷たい。

「………次、行くぞ」

麻空はさっさと歩き出した。


『6、いつの間にか増えている人数』

「……麻空」

「なんだ」

返答は、思った通り冷たかった。だが無視されないだけよしとする。

「早くいえ馬鹿者。何の用だ」

「あ、いや、な……」

ただ呼んだだけ、などとはいえなさそうな雰囲気。

「な、なんでいきなり七不思議を調べようという気になったんだ?」

麻空は思い切り不審そうな目をこちらに向ける。当然だろう。何も考えていなかったことはばれていると見ていい。

だが麻空はそんな俺の不審な態度はとりあえず横に置いてくれたらしい。樹川と紫暮が、『そういえば』などという表情で、麻空を見ている。どうやらこの二人も知らなかったらしい。

「………この学校は、変だからな。妙に不思議なことの発生率────運命率が、高い」

「運命率?」

それの説明は紫暮が買って出た。

「ここは良くも悪くも珍しいことが起こりやすいってことだ。今回のこの場合は『幽霊がぞろぞろ出る』っていうのがそれに当たる。普通の学校じゃこうはいかねえだろ」

確かに。というか『魔女』が入学している時点でこの学校は奇妙なものといえる。

「そこへ今回の七不思議だ。普通ならもっとパターンがあっていいものなのだが、何故かこの学校はこんな際立って妙なものしかなく、しかも今の所全て本当だった」

「けど麻空。お前誰からこの話し聞いたんだよ」

「ここら一帯に住んでいる人や、卒業生からだ。在校生や教師からも話しを聞いたが、みんな知らないか知っていてもメモに書かれていたような穴だらけの七不思議だった。

普通の学校にありがちな同じ話しの別パターンというのもない」

トイレの花子さん、三階の女子トイレに出る幽霊、三階のトイレの花子さん、などという同じことでも別の呼び方で呼ばれている七不思議というものはある。だがこの学校に限っては誰に聞いても『三階の花』なのだそうだ。そう指摘されてみればおかしいかもしれない。

「だから一度調べてみようと思ったのだ。それでわかったことが一つある」

「この学校はまぎれもなく本物の怪奇現象スポットだ、って事だろ?」

紫暮が笑いながら、麻空の言葉の続きを奪った。そんなこと笑っていうもんじゃねえよ。

樹川が横で目を輝かす。お前怖がりだろうが。

「んなことは後でもいいじゃねえか、谷代。とりあえず今は6番目の謎だろ?6番目はなんだったっけ」

「いつの間にか一人増えている人数、だ」

これはすぐわかる。一人ずつ人数を数えていけばいいのだ。

確か最初の人数は六人。

俺、麻空、紫暮、新神さん、樹川…………。

あれ?

「俺、麻空、紫暮、新神さん、樹川………あと一人、誰だっけ?」

思い出せない。隣では樹川も頭をひねっている。

人体模型の走が、逆走の走だったりしたらウケるといったのは誰だったっけ?同じ学年に鏡の幽霊を見た奴がいるといったのは誰だ?階段の所で自分の歳をいったちょっとずれた人は誰だった?

いくら考えても思い出せなかった。

ここへ来て、俺は初めて怪談らしい怪談を体験したのだった。


『7、知ったものは死ぬ』

「………さて残るは七番目の謎だな」

「ってマテマテマテ麻空!人が一人減ってんだぞ!増えてんじゃなくて!」

「何を騒いでる。この怪談は一番最初に一人増えていたのだと考えればつじつまは合うだろう」

最初に一人。確かにそう考えれば………って、違う。もっと根本的なものが違う。

「そうじゃなくて、その消えた幽霊が誰だったのかってのが問題なんだろうが!」

「そんなこと」

麻空が何でもなさそうに、本当になんでもないことかのように、あっさりと言い放った。

「砂里司郎だ。お前ら、こんな簡単な記憶操作術にかかったのか?」

その名前を聞いた瞬間、さっきまでどうしても思い出せなかった砂里先輩の顔が急に鮮明に思い出された。

「あ〜あ。いっちゃ駄目じゃねえか。せっかく仕事を終えて一段落してたのに」

頭上から、声が聞こえた。

聞き覚えのある声。これは先程まで一緒にいた幽霊の声だ。

「砂里先輩」

「バレちまったな。いやー、麻空と紫暮にはバレると思ってたけど、君ら二人だったらなんとかいけると思ってたんだが。新神は問題外だし」

麻空がいわなければ絶対に思い出せなかっただろう。

砂里先輩の姿は半分透けてた。空中にふわふわと浮いて、俺らを見おろしている。

「幽霊だったんですか………」

「んー、まあな。幽霊っていったら幽霊だし、そうじゃないっていったらそうじゃないんだが。実は俺一年前に交通事故に遭ってそのまま寝たきりなんだよ。生きてんだけど半分死にかけっていうか」

「そんな状態ならさっさと本体の方に帰って復活して下さい!」

本当に死んだらどうするつもりなんだ。目覚めが悪過ぎる。

「でも戻る道筋がわからねえんだ」

「気合いでなんとかしてくださいってそれくらい。もしくは麻空に頼むとか」

「あ、そっか。そういう手もあったか」

気付いてくださいお願いだから。

「…………送るだけなら確かに出来るが、どうする?」

「じゃあ頼んじゃおうかな」

麻空のハリセンが、軽く砂里先輩に触れた。

さぁ、と砂里先輩の姿が消えていく。本体に戻ったのだろうか。

麻空を見ると、彼女はいつものように自信満々に笑ってみせた。傲岸不遜なあの笑みだ。

砂里先輩は心配いらないだろう。麻空がここまで自信満々なのだから。

「あとは最後の怪談だね」

久しぶりに、新神さんが発言した。その言葉で俺たちは、最後の怪談の内容を思い出す。

『知ったものは死ぬ』。そんなの知らない方がいいんじゃないか?

「………どうする。最後の謎を、解きにいくか?」

「俺は反対だ。俺や宮梨、津白はいいとして、樹川と谷代の安全は保証しかねる」

「僕も嫌だな。ここには何かあるから」

「私は………出来ることなら知りたいけど、それで死ぬのもなあ」

「俺はどうでもいいぞ。でも危ないことなら関わりたくねえな」

そういった経緯で、この謎だけは謎のまま保留されることになった。七つもあるんだから一つくらいわからないものがあってもいいだろう。

俺たちはそれから少し世間話などをしながら、校門の辺りまで歩いていった。そこで各方向に別れて、それぞれの家路につく。

「七不思議、か………死ぬのは嫌だが、最後の謎はちょっと気になるな」

「そんなに知りたければいくらでも方法はあるが、どうする?」

帰りの方向が一緒だった麻空が、人の悪い笑みを浮かべてそうささやく。さながら悪魔の誘惑だ。

「別に。気になるって程度だし。死んでまで知りたくねえよ」

「死なずに知る方法ももちろんあるだろうが………私の目的も達成されたし、わざわざめんどくさい方法を考えるのも億劫だ。お前がそういうのなら私も何もしない」

「目的?」

七不思議を調べることではなかったのか?それなら七つ目を知れなかったのだから、達成されていないことになると思うのだが。

「私が知りたかったのは、この学校がどこまで変なのかという具体的な例だ。あれだけいろいろとあったんだ。深く考えるまでもなく変なのだと、確信が持てた」

「そりゃあ変だろうな」

具体的な例、なんて麻空が入学して紫暮が入学した時点で十分そろっていると思うのだが。何たって魔女が入学したのだから、とてつもなく変だろう。

そう思っていたら麻空に睨まれた。なんか今夜は麻空に睨まれたり睨まれたり睨まれたりしている。

「………お前は考えがすぐに出るな」

「それは単純って意味か?」

「それ以外にあるというのなら、そう受け取ってくれても構わないが」

馬鹿にされた。が、自分でもそれは認めている所なのでしょうがない。

「なんか一気に疲れた………」

「明日は休みだ。思う存分寝ろ」

「宿題とかいろいろあるだろうが。ってそういや紫暮、学校来なくていいのかよ」

「来週から来るといっていた。この学校が変だとわかったからには来ないわけにはいかないらしい。あいつは面白いことが好きだからな」

「………ああ、それっぽいな」

今日見た幽霊の話しをして、学校の話しをして、魔法の話しをしてから、その日は別れた。

明日もこんな調子で続いていくのだろう。

俺は一人歩きながら、ぼんやりとそんなことを思った。

………一応コメディー。ですがファンタジーも入ってるつもりです。恋愛は………?とりあえず読んでくださってありがとうございました。

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