涙のあとに
読者の方に大いに想像しながら読んでもらうため、かなり描写を減らしています(そのためかなり短いです、スイマセン)。
何故こうなったのか、これからどうなっていくのか、またシーン毎にどんな会話や心情が繰り広げられていたのかを考えて頂ければ幸いです。
小高い丘の上に少年が一人。頭はうな垂れ、その身体は小刻みに震えている。
少年の足元には石と花が二輪。いずれも盛られた土の上に置かれていた。
その少年の下へ駆け寄る人影がひとつ。少女は少年の頭を撫で、声をかける。
碑(いしぶみ)を背にして歩いていく二人。しばらくも経たないうちに町に着いた。二人は家には真っ直ぐ帰らず、町のさまざまな場所を見てまわっていた。
たくさんの人で賑わう大通り、多くの食料や綺麗な花々、色彩豊かな織物、見るも不思議な骨董品などが立ち並ぶ繁華街、いい匂いのする住宅街、まだ小さい自分たちには少し怖い裏通り、街外れにある夕日のよく見える展望台。
ここまでを二人はそれぞれどんな風に見え、どのように感じたのだろう。例えば、夕日。それはきれいだったのか、それは儚かったのか、それとも・・・
夕日が沈み、夜の暗さが視界を埋め尽くすころ、二人は家の玄関の前にいた。少年はドアノブに手をかけドアを開いた。
***
瞬間、眩しくて視界がぼやけた気がした。もちろん照明の光度のせいでもライトを直接あてられたわけでもなかった。眩しく見えたのはこの空間。一ヶ所に固められたテーブルの上にあるたくさんの料理。近所の人も含めた多くの人々。今日が何かの記念日であったのかと錯覚してしまう。実際のところ、今日は記念日でも何かの前夜祭でもなかった。ただみんなで楽しく過ごしたかっただけのようである。全員がそろったところで盛大な夕食が始まった。それぞれが思い思いに時を過ごし、現在(いま)を興じていた。この終ることのない談笑と尽きることのない美味に僕の心も少しづつ和らいでいった。
宴もたけなわにさしかかってきた頃、父さんがやってきてこう言った。
「どうだ、楽しいか?そうか、なら良かった。あれ以来ずっと塞ぎこみがちになっていたからな。いつまでも泣いてばかりじゃ、あの子もうかばれないもんな」
返事も聞かずに僕の表情だけを見て父さんは元の場所へと戻っていった。
***
その日の夜、少年は一人丘の上にいた。碑の横に腰を下ろし、星空を見上げていた。
少年は一人語る。出会った時のこと、いろいろな場所で遊んだこと、その中でも此処が一番のお気に入りだったこと、いなくなって必死に探した時のこと、そしてあの朝のこと。
どのくらい話した頃だろうか。ポツリ、ポツリと落ちる雫。少年は零す。
「やっぱり悲しい」
数秒の沈黙。腫らしたまま顔をあげ、碑のほうを向いて少年はこう言った。
「でも、それじゃダメだって分ったんだ。こんな僕を心配してくれる人がいる。僕のことを気にかけて見てくれている人がいるって感じたんだ。その人たちのためにもこの悲しみを乗り越えて前に進まなくちゃって思ったんだ。悲しみは消えないけど、そのおかげで君を忘れずにすむ」
輝く夜空の中で少年はまた一人語る。これからのこと、将来の夢、そしてこんな自分を見守っていて欲しいということ。
いつに間にか白んできた空に少年は驚きを隠せずにいた。そして一言。
「早く帰らないと怒られる」
またね、と告げ、少年は駆け出す。その瞳には虹色の太陽がうつっていた。
初めての別れというものは色々と想いを馳せることがあると思います。それはペットの死だったり、引っ越しだったり、卒業だったりと様々ではありますが。今回はそんなことをテーマに書かせて頂きました。前書きにも書いた通り、読者の主観で物語を読んでほしかったので、どうしても入れたいセリフ、描写以外は省いております。この作品は皆さん一人ひとり固有の物語を紡いでいってもらえたなら嬉しいです。ここまで読んでくださった読者に感謝を申し上げます。よかったら活動日誌のほうも見ていってください。