第1話 悪役令嬢登場!!
【1事件15話毎回完結 / 痛快ポリスコメディ】
婚約破棄された悪役令嬢が、なぜか日本の警察で犯人を追い詰めていくお話です。
1話2〜3分×1事件15話で読めるショートドラマ感覚でお付き合いいただければ幸いです!
華やかな舞踏会の広間を包み込むように、不穏なざわめきが静かに広がっている。
着飾った貴族たちが互いに顔を見合わせる中、その緊張を切り裂くように、一人の男の怒声が広間いっぱいに響き渡った。
「西園寺エリザベート麗華!そなたとの婚約を解消し、追放に処す! 我が客人たる貴婦人と私の仲を邪魔し、あげくは愚かにも嫉妬から彼女を殺害せんと企てた罪、断じて許すことはできぬ!」
伯爵家出身のその女が王女の座を狙い、仕掛けた自作自演の罠とも言える嘘言。
それにまんまと踊らされた太子が、数々の陰湿な罪を一方的にでっち上げ、大勢の貴族たちの前で見せしめとして糾弾しているのだ。
大勢の蔑みの視線と非難が集中する中、指をさされた彼女は、言い訳などという見苦しい真似は一切しない。
その女のあざとい自作自演も、それに騙される太子の愚かさも、すべて見抜いた上で一蹴する。
彼女はその美しい瞳で、見下す価値すらない下等生物を見るような冷ややかな視線を送ると、周囲の貴族たちの視線など意に介する様子もなく、ただ静かに口元へ優雅な笑みを浮かべた。
その表情には、微塵の動揺も見られなかった。
「我が身に何一つ恥じることなどございませんが……ここに来て無様な姿を晒すことこそが、わたくしにとって恥。殿下がそこまで私をお厭いでいらっしゃるとは、いっそ誉でございましょう」
「 えっ、そんなに簡単に諦めちゃうの………ちょっ、ち、違う! 麗華ちゃん、ちょっと待って! ! いや、そういう意味で言ったんじゃないよ ! 話を聞いてくれ、麗華ちゃん!! 」
思いがけぬ返答にうろたえる王子を歯牙にもかけず、彼女は、その舞踏会に集まった軽薄な貴族たちを見渡し、堂々とした態度のまま裾を翻して優雅に一礼した。
「皆様! おさらばにございます! フッ……やはりこの、わたくし西園寺エリザベート麗華には、刑事しかないようですわね。こんな場所に長居する理由など、もうございませんわ! オホホホホホ! ホーッホッホッホ! 」
その高笑いを残し、エリザベートは集まった貴族たちの視線を一身に浴びながら、最後まで一切の未練を見せることなく、堂々たる足取りで舞踏会の広間を後にするのであった。
◇ ◇ ◇ ◇
――場面は代わり、ここは東京銀座。日本屈指の高級ショールームが立ち並ぶ銀座の一等地。
老舗高級宝飾店である、ルミエール銀座の店内は、早朝から鑑識官や警察官たちの怒号に包まれていた。
盗まれたのは、店舗の展示の目玉であり、数億円の価値を誇るダイヤモンド。
夜間の防犯システムは完璧に稼働しており、窓やドアが破られた形跡は一切ない。
さらに奇妙なことに、事件発生時の防犯カメラのデータだけが跡形もなく消去されていた。
単なる機器の誤作動や物理破壊ではなく、知識を持つ人物が内部からシステムにアクセスし、意図的にデータを該当時刻のみ消し去った形跡が残されていたのである。
警視庁捜査一課の叩き上げ刑事、熱海剛警部補は、無精髭の残る険しい顔に深い皺を刻み、くたびれたスーツ姿のまま、現場で煙草の箱を握りつぶしそうになりながら舌打ちを漏らした。
「チッ、内部の人間か、相当手慣れた人間の仕業だな。現場に痕跡をほとんど残してねえ。地道に聞き込みとアリバイ崩しをやるぞ。こういう事件は、俺たち叩き上げの刑事が足で調べるしかねぇからな」
隣に立つ部下の細身の若い刑事、田中一平巡査も引き締まった表情で頷くが、現場の鑑識作業は難航し、有力な手がかりが得られないまま時間だけが過ぎていった。
捜査本部が設置された所轄の警察署へと戻り、本格的な捜査会議に入ろうとしたその時、署内にいた刑事たちの耳に異様な物音が響き、警察署の正面玄関前が突然騒然となった。
アスファルトを激しく蹴るけたたましい馬の蹄の音。警察署の敷地に鳴り響く警笛と、パトカーを押し退けるようにして進んできた巨大な物体に、署内の警察官たちが窓際に駆け寄る。
現れたのは、黒塗りのボディに金装飾が施された、ピカピカに磨かれた西洋高級馬車であった。
御者台にはシルクハットをかぶった老御者が佇み、見事な毛並みの白馬二頭の手綱を握っている。
2階の会議室からその光景を見下ろした熱海と田中はニ人そろって絶句した。
あまりにも場違いで現実離れしたその光景を前に、二人はしばらく言葉を失ったまま立ち尽くしていた。
「おい田中、あれは俺の目の錯覚か? ……あのバカな漫画みたいな乗り物はなんだよ? 警察署の前に、あんなド派手な馬車で乗りつける奴がいるなんて、俺は聞いたことがねえぞ……」
「熱海さん、あれって……まさか……上層部がねじ込んできたって噂になってる特派警部って、あの人のことですか……! まさか本当に、あんな格好で来るとは思いませんでしたよ……」
御者が恭しく馬車の扉を開けると、そこから降り立ったのは、警察の制服を上品なドレス風に特注カスタマイズした衣装をまとう、一人の美しい気品あふれる女性だった。
見事な金髪の縦ロールを揺らし、レースのついた高級シルクのハンカチでそっと鼻を覆いながら、彼女はいかにも不機嫌そうな表情を浮かべ、警察署の敷地にゆっくりと足を踏み入れる。
「まあ、何か臭くありませんこと……どうして日本の警察署というのは、このようにホコリっぽくて野蛮な匂いがいたしますの? わたくしのドレスに埃がついてしまいますわ。最低ですわね」
圧倒的な高飛車オーラと美貌に、出迎えた警察官たちは圧倒され、誰も声をかけることができない。
そう……彼女の名は、西園寺エリザベート麗華。
英国貴族の血を引く父と旧華族である日本人の母を持つ生粋のお嬢様であり、現・警視総監である西園寺鉄之助が、目に入れても痛くない最愛の孫娘であった。
彼女は手にした扇子をパチンと優雅に閉じると、集まった刑事たちを汚いものでも見下ろすように冷ややかな笑みを浮かべた。
「庶民の皆様、ご苦労さまですわ。警視総監のお祖父様の言いつけにより、本日より、この銀座宝石強盗事件の捜査指揮および最高責任者を務めさせていただきます。悪役令嬢の西園寺エリザベート麗華と申します。エリザベート警部とお呼び下さいませ」
令嬢姿で警部の階級を持つ異様な女の登場に、捜査本部の全員が静まり返る。
そんな空気の中、熱海は彼女をじっと見つめながら、「悪役令嬢……エリザベート……警部ってあいつ、ふざけてんのか……」とボソリと呟いた。
「あら、わたくし何か聞こえたようですわ。そちらの庶民の下品な、お顔立ちの貴方の階級は何かしら? 何か文句でもおありですの? わたくし、警部ですのよ……ケ、イ、ブ! 」
威光と権力を隠そうともせず、圧倒的な上から目線で言い放つエリザベートの姿に、現場叩き上げの熱海は呆れ果てたように天を仰ぎ、両手で額を押さえながら深く頭を抱え込んだ。
これから始まる捜査の行方を思うだけで、頭が痛くなってくる。
「冗談じゃねえぞ。こんな世間の常識も知らないお嬢様に捜査指揮が務まるわけねえだろ! 俺たちの現場捜査は一体どうなっちまうんだ……! こんな奴に振り回されるなんて、俺は御免だからな!」
熱海の絶望的な叫びもどこ吹く風、エリザベートは周囲の冷たい視線などまるで気にする様子もなく、自分が注目を浴びていることをむしろ喜ぶように、満足げに呟く。
「まあ、皆様わたくしの魅力の虜になっていらっしゃるようですわね。これほどまでに注目を集めるなんて、わたくしも罪な女ですわ。オホホホホホ! ホーッホッホッホ!」
満足気に笑うエリザベートの高笑いだけが、静まり返った捜査本部に響き渡るのであった……。
誰もが先行きに不安を覚える中、当の本人だけは自信満々に胸を張っている。
こうして、現場の刑事たちにとっては波乱に満ちた、エリザベートにとっては華麗なる捜査の幕が、今まさに上がったのである。
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【本作は、1事件15話で楽しめるコメディ刑事ドラマ型の小説です。
すでに幾つかの事件を作成済みで、一つの事件が書き上がるたびに《《1事件15話ワンセットで予約投稿》》していきますので、事件の途中で話が途切れることはありません。
エリザベートたちの活躍を、最後まで安心してお楽しみください!】
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