小説家と目指す努力する凡人の俺と、ハイクオリティでこなす悪魔の彼女。裏で努力する彼女の姿を見て、人間としての弱さを知った専門学校最後の年
四月、長い雪の季節が終って、春の季節がやって来た。
専門学校3年生の俺、小林良平にとって、これから1年は、
学生の身分でいられる最後の年であり、社会人になるまでの制限時間だった。
『この一年は、自分の将来の為に使う!』
幼い頃に、勇者が活躍するファンタジー系の小説を読んでから、活字の面白さを知った。そして、漫画よりも小説を次から次へと読み、徐々に徐々に小説の泥沼にハマっていった。
小説を読み始めたから1年経過したあの日、小説を書く人、小説家という職業の存在を知り、『たくさんの人に読まれる小説を書きたい』と夢を見つけ、小説家を夢見るようになった。
それから数十年後、独学で勉強に勉強を重ね書き始め、コンテストに何万作品を書いて応募するが、1次審査を突破できたのはそのうちの1割で、その中から2次審査を突破できた作品は、3作。それ以上の結果を得ることはできなかった。
独学では無理だと判断した自分は、本格的に学べる専門学校に入学し、この三年間で賞をとれるまで頑張ると決めたのだが・・・。
『賞を取った人は、以下五名・・・』
俺が通う専門学校には小説科と漫画科の二つの学科がある。
コンテストなどの結果は、正面玄関の正面に広がる掲示板に掲載されていて、俺の名前を探してみたが、どこにも無かった・・・。いつもアイツの名前はあるのに・・・
『もしかしたら、俺、才能ないのかもな・・・』
つい、独り言が漏れる。
勝ったらうれしい。負けてうれしい人はいない。 負けたら悔しい。
なんて、思っていたのは、コンテストに初めて応募してから3年目ぐらいまでだった。それ以降は、『だよなぁ~』ぐらいの感覚。
それでも変わらないことがあった。コンテストがダメだった時はいつも、”1人”になりたかった・・・。
今日も誰にも話しかけられることなく、帰ろうとすると、いつも・・・
『先輩―! また、落選してましたね!!!』
悪魔がやってくる。
誰かといる時は、真面目で優しいため、あだ名が天使になった彼女だが、俺といるとは、態度が変わる。
『これで、何回目ですか?』
『しらねぇーよ。書いた小説の題名と内容は覚えていても、何回ダメだったかなんて、覚える必要ねぇーよ』
『そういうところがダメなんすよ。書いた作品(我が子)は覚えていても、小説は読まれる者です。なんじなんぷんどこにどのようにまで覚えてないと!』
俺が、悪魔に反論できない理由がある。それは、正しい理論で、彼女自身はそれを行動に移し、結果を残しているからだ。
『先輩のコンテストでとった一番いい結果、いつかいたなんて作品でどこまで行きました?』
『そりゃ、小3のころに書いた怪盗魔神で、三次審査だろ』
『コンテストの名前は?』
『小学生から未来の文豪を見つけようコンテスト』
『ふぅーん』
割れる直前の風船ぐらい膨らませた頬、喉の奥で鳴らしている笑い声を力強く閉めた唇で消音しているつもりの魔神。数秒も持たないうちに、口から空気が漏れ始め、両手で隠しては見たが、間に合わず、誰もいない帰り道、魔神の笑い声が広がった。
笑い続ける魔神を背景に、再び帰路を歩き続ける。
帰路を歩き始めたことに気づいた魔神は、後ろから『待ってー』と大声を上げたが、
『時間無いんだよ。 馬鹿野郎!!!』
と、後ろを振り向き、手持ちカバンを魔神にぶつけた。
確かに手ごたえのだが、カバンは誰も無い空中をしばらく飛んだ。その後、カバンに気を取られているうちに、背後回った悪魔の回し蹴りが俺の頬を蹴り飛ばした。
『まったく、女の子に暴力は駄目っすよ。 まぁ、先輩弱いから当たっても居たくないけど・・・。
次の日・・・
早朝、にわとりの『こけっこっこー』よりも先に、打撃音が部屋中に広がった。
『い、痛いっすよ!!! 先輩!!!』
『なんで、お前が俺と同じ布団に寝てるんだ!!!』
『そりゃ・・・』
回想シーン 初め
私の名前は安藤くるみ、漫画家を夢見る17歳です。
母から人に親切にしなさいと言われて育ったので、クラスメイトや地域の人が困っている時は積極的に手助けをする人間に育ちました。が、あの人の前だと、そんな自分ではいられなくなるのでした・・・。
3月が終わり、季節が4月に変わったある日、学校の正面玄関付近に設置された掲示板を見るあの人がいました。掲示板にはコンテストに入賞した人の名前が記載されているのですが、その子にあの人の名前はありませんでした。
私の名前は、傑作のところに書かれており、4回連続入賞することが出来ました。
『やっぱり、1人で帰ってる!!!』
いつも通り1人で帰宅していた彼にバレないように、電柱や背の高い雑草に身を隠しながら、徐々に距離を行きました。しかし、急に立ち止まった彼の姿を見て、つい我慢が出来ず飛び出してしまい、それから、なんやかんやあって・・・
彼の不意打ちに察知した私は、彼がかばんに目線を集中させている間に、背後の視覚に回り込むことで体制を立て直し、振り向いた瞬間に自慢の長い右足の回し蹴りを彼の頬に当てることが出来ました。
蹴り一発で気絶した弱弱な彼を、自宅まで介助した結果、明朝の朝早い時間に、スマホで設定したアラームより先に打撃で起こされることとなりました。
回想パート 終わり
『まったく! ひどいです! 命の恩人にげんこつをするなんて! 知ってますか! 頭を叩くと何億って存在する細胞が死んでしまうんですよ! って、聞いてますか!』
どっかの悪魔さんから朝からうるさくて、説得に時間がかかり、初めて遅刻しそうになっていた。
『って、もう8時40分じゃねーか! このままだとまずい!』
母親から学校の先生まで、この数十年間口酸っぱく言われてきたこと、それは、
『普段の私生活の習慣が、はたいてても出るよ!』
遅刻が当たり前な学生は、社会に出ても遅刻する。
字が汚い学生は、社会に出ても字が汚い。
食べ方、話し方、注意の仕方など、全部が突然の場面で出てしまう。隠そうと、化けの皮をかぶっていたとしても、不測の出来事が起きた時に、簡単に出てしまう。
社会人になってから直すことはできる。ただ、時間がかかり、他の仕事に影響を及ぼす。ならば、時間のある学生の期間中に、社会に出ても問題ないようにするのが、当然だろ。
『悪いな! くるみ。 俺だけでも、遅刻せず、通常通りの登校されてもらう』
『あ! でたな、悪い顔の先輩!!!』
この世は弱肉強食、強くなるため、上手くなるためには、経験が必要なのだ。高い壁を登るためなら、何人もの弱い人の背中を踏み台にして乗り越えてやる。それが、学生と社会人が上に上がる唯一の方法なのだから。
『せんぱいーい!』と叫ぶ悪魔を無視して、全速力で学校までの道を走って見せる。
時刻は8時45分。始業まで、残り5分。残り、約500m。
『学校正面の信号が赤信号でない限り、俺が遅刻するはずが無いんだぁぁぁ!!!』
学校へつながる道を駆け抜け、最終目標の信号へと徐々に徐々に近づく。幸運なことに、車用の信号が青信号から赤色信号に変わろうとしている。
歩道の信号が青に変わる。
8時48分。小林良平は、遅刻を回避した。
『よしゃ、後は、校舎に向かうだけ』
『あれ? 君、小林君じゃないか。今日はどうしてここへ?』
体育担当の坂崎先生が不思議そうな瞳を俺を見つめている。
『どうしてって、今日は平日。学校の日じゃないですか・・・』
『もしかして、良平君。聞いてないのかい? 今年、新しく入学した漫画科の生徒たちのパーティーの日だから、小説科の人たちは全員休講って、メールを送ったはずなんだけど・・・』
先生から目線をスマホに移す。
俺が使ってるスマホは黒のiPhone。今、手元に持っているのは、赤と白のiPhoneで、背面に俺の写真が貼られている。そして、このスマホの持ち主を知っている。
これは、悪魔のスマホだ・・・。
『先生、つかぬ事をお聞きしますが、全校生徒の名前は全員知っていますか?』
『当たりまじゃないか。先生はこの学校に何十年も勤務しているわけだし、1期生から今の23期生まで全員の名前をわかっている。新しく入学した24期生の学生は、まだわからないけど・・・』
『じゃ、っじゃ、漫画科2年の安藤くるみっていう、女性の生徒は知っていますか・・・』
『もちろん、彼女は生徒や先生方、全員に優しいからね。でも、そんな彼女もついさっき、タクシーで登校していたからびっくりしちゃった。ハッハッハ!』
悪魔の話は、8時50分から12時15分まで、止まることなく続いた。
炎天下の下で長話を終えた彼の財布には数枚の百円玉と数十前の1円と5円玉しかなかった。熱中症手前の俺がとるべき行動は、ただ一つ。クーラーの効いている場所で、安いアイスを食べる事。幸い、それらを叶えられる物件を、俺がいる近所でただ一つ知っている。それが、ここだ。
『クーラーアイス作戦開始』
専門学校の校舎は4階建て。2階から4階は小説科と漫画科の1年から3年が授業で使用する教室となっている。1階には職員室や掲示板の他に、誰もが格安で使用できる食堂が存在していた。土日を除き、そこには優しい御年69歳のおばちゃんが働いていて、いつどんな時に行っても笑顔で接していた。俺を除いて・・・。
『おばちゃん、アイス頂戴』
『180』
お金を寄こせといわば仮に、手を『クイクイ』と動かしている。
数枚しかない百円玉を失うのは、心に痛い。でも、このままでは再び倒れるリスクが。
よく考えろ小林。この場所で買うアイスが本当に正しいのか?
『小林。さっさと小銭を出して、アイスを買え。コンビニやスーパーで買った方が、安いのはわかってるさ、でもな、ここで買わなきゃ、また気絶しちゃうかもな!』
俺の中の悪魔の一声。
『だよね、今買わなきゃ、損だもんな。体調管理も社会人の基本のキだよな』
悪魔の誘惑に負け、アイスを掴みそうになった瞬間、俺の中の天使が叫ぶ。
『ダメだよ! ここでお金を使ったら、この先、どうやって生きていくの? アイスを買わずとも、無料で冷たい水が飲めるし、冷蔵庫の氷を食べればいいじゃないか!』
アイスを掴むために伸ばした手を、反射的に俺の身体の方に引き寄せる。
危なかった。天使がいなければ、今頃俺は一瞬だけ冷たく感じるためにお金を使っていた。天使の意見を採用しつつ、ここではクーラーで体を冷やし、帰り道にある安売りのスーパーでアイスを買おう。
『おばちゃん、ごめん。やっぱり、アイスいらな・・・』
おばちゃんが持っていたアイスは、一瞬のうちに手から消えいていた。そして、周囲を見渡すと、左の方で人の動きがある。視界に映る情報から察するに、体型は女性で、俺が買おうとしていた棒型のアイスを嬉しそうに食べていやがる。
悔しいが、男が一度決めたことは撤回できない。だまって、クーラー近くの座席で移動するか・・・。
体はクーラーの近くの席に移動しようとしていたが、何歩進もうとしても後ろから協力な力で捕まえられていたため、動くことが出来なかった。
『アイス代 1本280円。支払い方法、現金、バーコード、クレカ、学生証どれ』
後で俺を掴んでいる怪物の正体は知っている。だけど、恐怖のあまり振り返る事が出来ず、言葉にも詰まる。
大きな声で言おうとした言葉は、喉の奥でつまり、小声となって発声された。
『つ、つけでお願いしますう・・・』
それが、怪物の怒りも買ってしまった。
『そんな、生徒にうる商品はどこにもネェ!!!』
野球のピッチャーが球を投げるフォームで、怪物は俺を力一杯投げた。その場から約15メートルの距離を、体重70キロの俺が時速140kmで投げられ、無傷でいられるわけもなく、また、数十分その場で気絶していたらしい。
目が覚めた俺の横に180円分の小銭がおいてあり、一件、見知らぬ女性からのラインが入っていた。
『他の友達のスマホからラインを繰ります。
アイス、ありがとうございました!!!
お昼休み終わるまで気絶しましたよ!
おばあちゃん、先輩に少し厳しいみたいですけど、
家では楽しそうに語っていますよw。
Ps.うちの孫を幸せにしないと、今度は永遠に気絶させてやる。By.安藤よしこ』
脅迫文を人生で初めて見た。全身から汗が滝のように流れ、しばらく止まることはなった。
『クーラーアイス作戦は、狂暴な怪物の乱入により失敗』
悪魔があれだけ動けるのは、祖母の遺伝子を濃厚に受けついているのかもしれない。
蛙の子はカエル。このことわざの意味を、実際に己の肉体で体験したのは、この世界で俺だけかもな。
帰り道、この数週間で起きた出来事について考えてみて、笑みがこぼれそうになるが、1つだけ、大切なことを忘れていた。
俺、小説家目指しているのに、1文字も小説書いてない。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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