第六話 可憐な婆さま(笑)
むかしむかし――
と、語り始めようとした瞬間だった。
婆「あ゛ん゛!???だれが(笑)だこら?」
ドゴォォォォォン!!
空気が震えた。
いや。
地面は割れていない。
だが。
割れた気がした。
モタロウ「ひーすいません!!」
ラタロウ「謝るの早すぎない!?♡」
そこにいたのは――
婆だった。
背は少し曲がっている。
杖をついている。
見た目は普通の老婆。
だが。
普通ではない。
目が。
異様に鋭かった。
◇
……可憐な婆さまは。
モタロウたちを止めた爺さまを見て。
昔を思い出していた。
遠くを見るような目。
どこか懐かしそうな顔。
婆「……あん人を見るとなぁ」
婆「思い出すんだぁ……」
ぽつり。
静かに。
語り始める。
婆「わだじに……」
婆「すぎだってぇー」
婆「夫婦になってけれぇってぇ……」
婆「すべでを敵にしても」
婆「わだじを守るってぇ……」
昔の婆さまは。
かなり訛っていた。
いや――
今も十分訛っていた。
婆「あのひどときだら……」
婆「とぎのみがど(帝)にまで」
婆「喧嘩うるさぁーひど(人)だったんだぁ」
村人A「出たべ……」
村人B「はじまったべ……」
村人たちは小声でささやき合う。
だが。
止める者はいない。
誰もが知っている。
この話は――
村の伝説だからだ。
婆「だからなぁ……」
婆「言ってやったのさぁ」
指を折りながら。
一つずつ。
婆「『仏の御石の鉢』」
婆「『蓬莱の玉の枝』」
婆「『火鼠の皮衣』」
婆「『龍の首の五色の玉』」
婆「『燕の子安貝』」
婆「どれかもっでごいってー」
婆「言ってやったのさぁ」
モタロウ「どれかって言ったよな?」
ラタロウ「どれかよね♡」
婆「そしたらあんの爺さま……」
少し間があった。
そして。
ゆっくり。
誇らしげに。
言った。
婆「ぜーんぶ」
婆「もっでぎでやんの」
沈黙。
完全な沈黙。
モタロウ「……は?」
ラタロウ「全部?」
村人C「全部」
村人D「ぜーんぶ」
村人E「ガチで」
モタロウ「バカじゃねぇの!?」
ラタロウ「バカなのね♡」
婆「花を咲かせるのは」
婆「伊達じゃねーってさぁ……」
婆は笑った。
懐かしそうに。
誇らしそうに。
婆「もーこのひど(人)しか」
婆「いねぇど思っだねぇ……」
少しだけ。
顔が柔らいだ。
そして。
さらに続けた。
婆「しがもなぁ……」
婆「むがえ(迎え)にぎだ」
婆「月の使者だぢまで」
婆「おいがえしてしまうんだもの」
モタロウ「月!?」
ラタロウ「スケールでかすぎない!?♡」
村人A「来たんだべ……」
村人B「ほんとに来たんだべ……」
婆「ありゃぁ……」
婆「こどわったりしだら」
婆「なにされるが」
婆「わがんねーべさ……」
その声は。
少しだけ。
震えていた。
そんなこんなで。
二人は一緒に暮らすようになった。
あいにく。
子供はできなかった。
だが。
二人は幸せだった。
本当に。
幸せだった。
◇
村人A「あのナイスジジィも」
村人A「ロリコンジジィに改名したかと思ったけど」
村人B「んだ」
村人B「だけど村のピンチは助けてくれるんだもの」
村人C「あぁ」
村人C「やっぱりナイスジジィだべ」
遠くで。
爺が静かに茶をすすっていた。
何も言わず。
ただ。
穏やかに。
◇
モタロウ「……よし」
拳を握る。
モタロウ「爺様になら」
モタロウ「俺たちの祭り魂」
モタロウ「ぶつけれる!」
ラタロウ「いいじゃない♡」
ラタロウ「受け止めてもらいましょう♡」
そのときだった。
別の声が。
空を裂いた。
マタロウ「海が泣いてる!!!」
全員が振り返った。
モタロウ「何ぃ!?」
ラタロウ「急に詩人!?♡」
マタロウ「違う!!」
マタロウ「本当に!!」
マタロウ「泣いてる!!」
◇
村の外。
海岸沿い。
まだ遠い。
だが。
確かに――
それはあった。
黒い影。
巨大な影。
村人A「あれは……」
村人B「帆……?」
村人C「いや……」
村人D「船だ……」
風が吹いた。
帆が大きく広がる。
それは。
海賊船のような帆。
そして――
船体。
そこに並ぶ。
無数の穴。
砲門。
巨大な砲門。
モタロウ「……なんだあれ」
ラタロウ「いやな予感しかしないわね♡」
空気が止まった。
村が凍りついた。
そして。
誰かが叫んだ。
村人「黒船襲来だああああ!!!」
ドゴォォォォォン!!
遠くで。
雷のような音が響いた。
だが。
それは雷ではない。
砲撃だった。
黒煙が上がる。
空が。
黒く染まる。
戦いが――
始まる。
【第六話 完】




