第一話 桃から落ちた問題児
天界は今日も騒がしかった。
理由はひとつ。
『ドンブラコッコォォォ!! 祭りじゃぁぁぁ!!』
雲海の上、神殿の屋根を足場にして酒樽を抱え、踊り狂う男がいた。
金色の髪を風になびかせ、雷雲を足蹴にし、神酒をラッパ飲み。
その名は――モ・モタロウ。
『神酒を持てぇぇ!! 舞え! 歌え! 人生は宴だァ!!』
天界の神々は頭を抱えていた。
『三日三晩だぞ……』
『雷雲をDJ卓にするなとあれほど……』
『女神を神輿にするな……』
モタロウは強かった。
天界でも五指に入る戦闘力。
鬼神を素手で投げ、
雷を蹴り飛ばし、
流星をバット代わりに打ち返す。
だが。
人格が終わっていた。
『反省? それって美味いのか?』
そしてついに。
『モ・モタロウ!』
雷鳴とともに、空が割れた。
現れたのは雷神。
『度重なる宴会騒乱、神器無断使用、女神ナンパ未遂三十七件! 貴様を封印する!』
『え、三十七? そんなに?』
空間が歪む。
巨大な桃が顕現した。
『封印刑、執行』
『ちょ、待――ドンブラコッコォォォ!?』
ゴンッ。
モタロウは桃の中へ叩き込まれた。
そして。
ドンブラコッコ。
天界最強の問題児は、
地上へと流刑となった。
◇
むかーしむかし。
日本なのかアメリカなのかロシアなのか中国なのか。
地球なのか火星なのか、とりあえずそこらへんに。
お爺さん(七十六)とお婆さん(四十五)が住んでいた。
……若くない?
このロリコンジジイが。
お爺さんは山へ芝刈りに行った。
『はぁ……膝いてぇ……腰いてぇ……山って高くねぇ?』
お婆さんは川へ洗濯に行った。
『冷たくっても負けない! あたしのハートは燃えているんだもの!!』
その時だった。
『ドンブラコッコ♪ ドンブラコッコ♪』
川上から、巨大な桃が流れてきた。
『まぁ! なんて大きな桃でしょう!』
直径三メートル。
発光。
回転。
自己主張強め。
『これは売れるわね』
持ち上げようとする。
『……無理』
重すぎた。
『え?』
桃の中から声がした。
『今“無理”って言った!?』
婆は真顔だった。
『無理なものは無理』
ドンブラコッコ。
そのまま流れていった。
桃の中。
『嘘だろ……天界より扱い雑じゃねぇか……』
夕方。
『ただいま〜芝刈ってきたぞ〜』
『おかえり〜。川からテンション高い桃が流れてきたわよ』
『拾わんかったの?』
『無理』
『だよな』
その瞬間。
『まてやこらぁぁぁ!!』
ドゴォォォン!!
屋根が吹き飛んだ。
桃、着弾。
『ひぇぇぇ!?』
『この俺様を“無理”で済ませるたぁどういう了見だァ!?』
桃が割れる。
煙。
逆光。
無駄にキラキラ。
『やぁやぁやぁ! 我こそは桃より生まれし英雄、モ・モタロウ!』
沈黙。
『マルカジリ』
『ちょ待て!?』
包丁が光る。
『今切るわね』
『誕生シーンだよね!?感動枠だよね!?』
数分後。
『すみませんでした(土下座)』
史上最速で謝罪する英雄。
それがモ・モタロウである。
その夜。
囲炉裏を囲む三人。
『で、なんで封印されたの?』
『宴会がちょっと盛り上がりすぎて』
『具体的に』
『神殿半壊』
婆は包丁を研ぎ始めた。
『冗談だって! 七割だって!』
『変わらんわ』
その時だった。
遠くから悲鳴が上がる。
『鬼だぁぁぁ!!』
空が赤く染まる。
山の向こうで炎が上がった。
『鬼ヶ島の連中か……』
爺が呟く。
『最近活発でな。村を襲う』
モタロウは立ち上がる。
『鬼?』
封印の紋様が胸に浮かぶ。
ゾクン。
血が騒いだ。
『……祭りの匂いがする』
『行くの?』
婆の問いに、モタロウは笑う。
『当然だろ』
夜風が吹く。
『俺は問題児だがな――鬼退治は得意分野だ』
屋根へ跳ぶ。
『ドンブラコッコは戦いの合図だ』
そして彼は、炎の方へと走った。
その背に、封印が淡く光る。
――だがまだ、この時は誰も知らない。
鬼ヶ島の王が目覚め始めていることを。
モタロウの封印が完全には解けていないことを。
そしてこの出会いが、
世界を巻き込む戦いの始まりになることを。
夜空に響く。
『ドンブラコッコォォォ!!』
鬼が振り向く。
英雄(問題児)参上。
――第一話 完




