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第六話「っつーことはだ。俺も忙しくなるって事だな」

最終話です。


おじいさんの怪我と持病。その真相が明かされます。

そして、発明家さんと少女が、初めて本当のことを話す夜。


ここまで、読んでいただきありがとうございます。

最後まで、彼女を見守ってやってください。

「お、おじいさん……!?」


 私は思わず声をあげていました。おじいさんは私のせいで足を怪我していて、それから持病も出てしまっていて、まだとても起き上がれる状態じゃないはずです。


「あ、あのっ、足はもう大丈夫なんですか?」


 昨日あんなに痛そうだったのに、苦しそうだったのに。私を心配して、無理をして出てきてくれたのでしょうか……。


「あ、足。……足!? あ、あぁあああ、いた、いたたたた……」


 おじいさんはかがみこんで右足首をさすって……あれ?


「あれ? ねん挫したのは確か左足……」


「おや、そうでしたかな。すっかりもう治ってしまったようで、忘れておりましたよ。ほっほっほっ」


 ……えっ? どういう……こと?


「……おいじいや」


 ぎろりとおじいさんを睨む発明家さん。


「あーさて、年寄りはお茶でも淹れてまいりますかな。ほっほっほっ。お嬢さん、今朝の朝食も、なかなかのお味でしたぞ。ほっほっ」


 おじいさんはおすまし顔でキッチンに消えていきました。


「……逃げたな」


 発明家さんはあきれ顔です。私は思わず、くすっと笑ってしまいました。おじいさんのねん挫が大したことなかったみたいで、ほっとしたからかも知れません。

 

「……お嬢ちゃん、どうやら差し引きはマイナスじゃなくて大幅にプラスだったようだな。あんな事くれえでねん挫ってのもおかしいと思ってたんだ。……ったく、お嬢ちゃん使ってサボりやがって……」


 え、もしかして、ねん挫したというのも、嘘……?


「で、でも、持病も出てらしたみたいですし……」


「あーあれか。冷たい物を口に入れると、歯がしみるんだと。年のせいだ。年のせい。大げさに騒ぎやがって」


 歯がしみるのは痛そうだけど……。持病って言うから、もっと大きい病気の事だと思っていました。


「そうなんですか? もぅ、いっぱい心配したのに……。でも良かった、大きな病気じゃなくて……」


 ほっとして、つい声を出して笑ってしまいました。


「……だからな。ここで世話になんのが心苦しかったら、その分手伝いでも何でもして働いてくれりゃあいい。……いつか、ここを出て行くにしても、できる事を増やしてからでいいだろ」


 いつか、ここを出ていくにしても。

 発明家さんの優しさと思いやりが、まっすぐに私の心に届きました。

 本当に私の事を考えてくれている。私が迷惑かけるとか、何もできないとか、そんな事、この発明家さん達は全く気にしていないんだって事が、心に染み込んでくるようでした。

 それは……あの人が私にくれた優しさと、とても似ていました。


「はい、発明家さん」


 私は素直に答えました。

 そう。ここの人たちに恩返しするためにも、できる事を増やしていかなきゃ。

 ……あの人のところに、戻るためにも。

 でも、発明家さんは、ちょっと困った顔になって、頭を掻きました。


「発明家さん、かぁ。その呼び方、なんかこう……しっくりこねえんだよなぁ」


 なんか言い辛そうな、ちょっと照れくさそうな発明家さん。

 ……ちょっと可愛いかも。


「あ、えっとあの……、なんてお呼びしたらいいですか……?」


「んー、そうだなぁ……。ま、そのうちなんかいい感じの呼び方が見つかんだろ」



 その日、初めてお手伝いした取引は、新鮮な体験でいっぱいでした。おじいさんのお手伝いを通して発明家さんのお仕事に触れる事は、私の世界を大きく広げてくれたのです。

 働いていると、焦る気持ちを忘れられるというのもあったかも知れません。

 発明家さんと執事のおじいさん。二人は、自然に私に役割を与えてくれました。この人たちは私を受け入れてくれている、それは私の中で、すでにもう実感になっていました。




 その夜、私は今までの事を全部、発明家さんにお話ししました。

 私がずっと、廃棄物として扱われ、忌み嫌われていたこと。そして、初めて信頼できる大切な人と巡り合ったこと。そして大切な友達もできたこと。

 なのに迷惑ばかりかけて、何もできなかったこと。その大切な人たちとはぐれてしまったこと。そして今も心配をかけ続けてしまっていること……。

 上手には話せませんでした。あっちこっち話が飛んでしまったり、思い出して泣きだしそうになったり……。

 でも発明家さんは何も言わず、話し終わるまで黙って聞いていてくれました。

 話し終わった時には、私は笑顔になっていました。

 発明家さんは立ち上がって、私の頭をわしゃわしゃと撫でました。発明家さんがこんなことするのは初めてだったのでちょっとびっくりしたけど、発明家さんの大きな手は、私を安心させてくれました。


「そっか。じゃあ、これから忙しくなるな」


 発明家さんはニヤッと笑って言いました。


「はい! 私、できる事をどんどん増やして、安心してみんなのもとに戻れるように頑張ります!」


 そう言ってから気付きました。私は、自分が役に立てない事で、不安になっていたんだ。あの人のそばにいる時も。あの人は「そばにいてくれればいい」って言ってくれたけど……。

 だから私は、安心してあの人のそばにいられるように、できる事をいっぱい増やさなきゃ。


「おう、その意気だ。っつーことはだ。俺も忙しくなるって事だな」


 そう言った発明家さんは、子供みたいにはワクワクしている顔でした。


「お嬢ちゃんが仲間を探したり、できる事を増やしたりするっての、手伝ってやんなきゃだろ」


 なんか、楽しそうな顔の発明家さん。いっぱいお世話になっちゃうけど、その分いっぱいお手伝いして、ご恩返ししなきゃ。


 あ、そう言えば……私、大事な事、言ってなかった……!


 今夜は、まだまだ話すこと、いっぱいありそうです。






 新しい朝。窓から差し込む光がまぶしい!

 うん、今日もいい天気。


 朝日を浴びながらお洗濯すると、朝の匂いと綺麗になった洗濯物の匂いが混ざってとてもいい気分。

 洗濯物を干して、三人分の朝食を作って。

 早起きするってほんとに気持ちいい。


「おう、サヤ、おはよう! お、今日の飯もうまそうだな!」


 テーブルに朝食を並べる私にかけられる、いつもの大きな声。

 今日もいっぱい教えてもらおう。練習しよう。経験しよう。さぁ忙しくなるぞ。


「あっ! おはようございます! おじさま!」

最後までお読みいただき、ありがとうございました。


この外伝は、本編「TakeitAll!」の中の出来事を描いたものです。

本編では、甲斐次郎という冴えない営業マンが異世界に転生し、

サヤをはじめとした様々な人たちと旅をする物語が描かれています。


本編は全202話完結。コメディあり、感動あり、恋愛ありの「イケヘタレの英雄譚」です。


外伝でサヤのことが気になった方は、ぜひ本編からサヤとカイの出会いを読んでみてください。


この外伝ののち、本編第107話へ続きます。

本編では、サヤがこの数日間で得たものを

少しずつ発揮していく場面が描かれています。

外伝を読んだ後に本編を読むと、サヤの言動の意味が変わって見えるかもしれません。


◆ 本編はこちら → https://ncode.syosetu.com/n2695eu/


もし本作を気に入っていただけたなら、

評価・ブックマーク・レビューをいただけると大変励みになります。

引き続き、本編もよろしくお願いします!

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