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第五話「でも、それはもう埋め合わせしたんだろ?」

仕事を与えられた少女。

最初は何もわからない。何度も聞きに行く。失敗する。


必死で頑張る少女に、ある変化が……。

 初めて任された貨物チェックの仕事はとても複雑で、覚えるどころか理解する事もなかなかできませんでした。

 運搬装置の仕組みも複雑で、操作も全くわかりませんでしたし、積み下ろし用の倉庫も二か所あって、それぞれ用意する荷物も違うので、一から手探りで進めるしかなかったのです。

 私は、何度も何度もおじいさんや発明家さんに聞きに行かなければなりませんでした。

 迷惑をかけてしまっているのに、その上何度も同じ事を聞きに行って邪魔をしてしまう。私が無能なばっかりに……。

 わからないままできるだけ仕事を進め、どうにもならなくなってからやっと決心して、おそるおそる聞きに行く、そんな事を繰り返していました。

 数時間がたっても、一向にめどはつきませんでした。その頃から私はもう、わからない時はすぐに聞きに行くようになっていました。わからないまま間違えて進めてしまうと、教えてもらった後、元に戻してやり直すことになってしまうからです。ただでさえ足りない時間を、私の罪悪感と遠慮で無駄にするわけにはいきませんでした。

 すぐ質問に行くようになってから、かえって質問に行く回数は減っていきました。遠慮とか余計な事を考えなくなると、仕事をどんどん理解できるようになってきたんです。

 日が落ちて仕事の目途が付いた時、私は起き上がれないおじいさんの代わりに、夕食の準備をさせてくださいと申し出ました。

 私は明日の取引までに準備をすませればいい。発明家さんとおじいさんには、できるだけいつもと同じペースで過ごしてもらいたいって思ったんです。

 発明家さん達の口に合うかわからないけど、少しでも美味しく食べてもらえるように、お二人が笑顔になれるように……。

 時間はかけられませんでしたが、心を込めた夕食を用意して発明家さんを呼び、おじいさんの分をお部屋に運びました。

 私なんかの作る料理を嬉しそうに食べてくれたあの人の顔を思い出しながら……。


 夕食の後片付けが終わると、仕事の再開です。

 今回取引に行くのは大きな施設なのですが、用意された二か所の荷下ろし倉庫のうち、一つは地面の下にある特別な倉庫でした。

 地上の倉庫には発明家さんが「値段は張るがくだらねーもの」と言う荷物を運びます。これらは壊れやすいものが多くて、気を付けて運ばなければなりません。

 地下の倉庫へは「金にはならねーが人を助けるもの」を運びます。これらは丈夫に作られていますが、いろんな種類があって、たくさんの品物を運ばなければなりませんでした。

 私は必死に働きました。余計な事を考えている暇なんてありません。

 そして、全ての仕事が終わったのは、随分遅い時間になってからでした。

 私はくたくたになって、倒れるように眠りにつきました。




 そして翌日。キッチンで朝食の後片付けをしながら、私はようやく少しホッとしていました。

 取引はお昼ご飯の後。お昼ご飯の用意を始めるまで、ようやくゆっくりできる時間です。あ、その前にお洗濯しなきゃ。

 おじいさんが起き上がれない今、朝食やお昼の準備も、お洗濯も、自然に私の役目になっていました。

 昨夜は寝るのがかなり遅くなってしまったので、早起きした私はまだ少し眠かったのですが、もう一度顔を洗ってしゃっきりと目を覚ましてキッチンを出ました。


「昨日はご苦労だったな」


 まだ食卓に着いたままの発明家さんは、少し眠そうでした。私のせいで仕事が終わるのが遅くなってしまったせいです。


「じいやが言ってたぞ。お嬢ちゃんは仕事の覚えがいいって。それに、夕飯もさっきの朝食も、じいやの料理よりうまかったしな」


 発明家さんは私を労ってくれましたが、私には労ってもらう資格なんかありませんでした。全ては、私のせいだから。


「でも……それは私がご迷惑をかけたから……」


 そう。取引の準備に時間がかかったのは私のせい。発明家さんが遅くまで仕事をしなければならなかったのも私のせいなのです。夕食や朝食を準備する事くらいは、私がやるのは当然の事でした。


「そう。それはそうだな。確かにお嬢ちゃんは迷惑をかけた」


 発明家さんは深くうなずきながらそう言って、不意に私の目を見つめました。


「でも、それはもう埋め合わせしたんだろ?」


「え……っ?」 


 一瞬、発明家さんが言った意味が分かりませんでした。

 埋め合わせ。埋め合わせなんて。

 私が全然役に立たなくて、普段の何杯も時間かかってしまったでしょうし、だからむしろ迷惑をかけてしまったのに……。


「まぁ、差し引きすればマイナスなんだろうがな。それでも仕事に支障が出ないってとこまでは埋め合わせてもらった。つまりだ。お嬢ちゃんは役に立ったってことだ。マイナスをゼロに近づけるくらいにはな」


 マイナスを、ゼロに近づける……。それで、役に立ったって言えるのでしょうか。それが役に立つって言う事なんでしょうか。少しゼロに近づいたといっても、マイナスのままなのに……。


「私……本当に役に立てたんでしょうか……」


 私はぽつりとつぶやきました。発明家さんが何を言おうとしているのかわかりませんでした。この人は私に何を言おうとしているんだろう……。そう思った時、私はまた口を開いていました。


「私は、あの……、ここから追い出されるって思ってたんです。本当はもっと前から、出て行こうと思ってたんです。いっぱいご迷惑をおかけしちゃったから……」


「まぁ、そんなこったろうと思ってたよ。お嬢ちゃんはいつもあやまってたからな」


 発明家さんは軽くため息を一つついて、ばりばりと頭を掻きながら立ち上がりました。


「……でもな、人間ってのは、どっかしらで他人に迷惑をかけてるもんだ。人に迷惑をかけずに生きてく事なんか俺にだってできやしねえ。当たり前の事なんだよ」


 迷惑をかけるのが当たり前……? そんなこと、私は考えた事もありませんでした。

 迷惑っていうのは、「私が周りにいる人にかけるもの」であって、私以外の人が他人に迷惑かけたりするなんて想像した事もなかったのです。


「迷惑をかけずに生きてくなんてできねえって事だ。だったら、人の役に立つことをして埋め合わせればいい。まぁ良くてトントンくらいだろうけどな。みんなそんなもんだ」


 そうか……。みんなは、人の役に立つことをして埋め合わせているんだ。だから居場所があるんだ……。

 私にそれが出来たなら、生きていく事も許されたのでしょうか。


「でも、私には何もできないです……」


「やったじゃないか」


 発明家さんは、当たり前のように言いました。


「そう……でしょうか……」


「やっただろ? じいやの代わりに仕事をこなした。うまい飯も作ってくれた。それで足りなきゃこれからできる事を増やせばいい」


 明解すぎる発明家さんの言葉。本当に私が役に立てたとは思えないけど、何も言い返すことが出来ないのも事実でした。


「できる事を……増やす……」


 そんな事が出来るのでしょうか。自信なんか全然ないけれど……。

 もし私ができることを増やす事ができれば、少しは発明家さん達の役に立てるのでしょうか。そして……あの人の役に立てる存在になれるのでしょうか。


「まぁ、お嬢ちゃんはまだ足りねえと思ってるみてえだし、今日の取引にはお嬢ちゃんにも来てもらうとするかな」


 発明家さんがニヤッと笑ってそう言った時……。


「そうですな。まずは、この年寄りの助手からなさるのがよろしいかと。ほっほっ」


 突然、おじいさんの声が響きました。

第5話をお読みいただきありがとうございます。


「遠慮とか余計な事を考えなくなると、仕事をどんどん理解できるようになってきた」


少女の中で、確実に何かが変わり、

発明家さんの言葉を素直に受け止められるようになってきました。


次話は、いよいよ最終回。

意外な事実とともに、彼女はついに立ち上がります。


◆ 本編「TakeitAll!」連載中 → https://ncode.syosetu.com/n2695eu/

サヤとカイの出会いから読めます。

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