第四話「謝ってるヒマがあるんなら、やる事があんじゃねえのか?」
少女の脱出計画がはじまった。
搬出される荷物に隠れて脱出しようとする彼女。
しかし、そこで事件が……。
物語が、動き始めます。
「おじいさん、何をしているんですか?」
大きな扉を開こうとしているおじいさんの背中に声をかけると、おじいさんは少し驚いた顔で振り向きました。
私が家の外に出る事も、私からおじいさんに声をかける事も初めてだったから、びっくりしたのでしょう。
「ほっほっほっ、興味がおありですかな? いえ、明日はちと大きな取引がありましてな。そのため、荷物のチェックをしておかねばならんのですよ。ほっほっ」
おじいさんはすぐに、いつものように笑いましたが、私は少し緊張していました。私の真意ーーここから逃げ出すつもりだって事、気付かれないようにしなきゃ。
「それじゃあ、ここにあるものは、明日外に運び出されるんですね。ちょっと見せてもらってもいいですか?」
少し焦って、早口になっちゃった。怪しまれたかも……。
私はおじいさんの反応を見るのが怖くて、返事も聞かずに慌てて倉庫の中に入りました。
倉庫の中には、いろいろな大きさの木箱が積み上げられていました。
どれが何なのか全くわかりませんが、この荷物が、この浮遊島の外に運び出されるのです。
「あぁお嬢さん、ちょっとお待ちなさい。奥は運搬用の機械があってあぶのうございますぞ!」
おじいさんの声が私の背中を追いかけてきましたが、私は無視して倉庫の中を観察し続けました。急いで私がここを出ていくために使える箱を探さなきゃ。
まず、おじいさんの言う運搬用の機械を探そうと私は考えました。その機械のそばにある木箱なら、外に運び出される可能性が高いと思ったのです。
倉庫の真ん中に、大きな機械がありました。そしてそのそばに大きな木箱が並んでいます。どれか、私が入れる大きさの箱があれば、中に忍び込んで外に出られると思い、私は急いで木箱を見て回りました。
私を呼び戻そうとするおじいさんの声はまだ続いていましたが、私にはその声に応えることはできませんでした。
「お嬢さん、戻りなさい。そちらはあぶのう……ぐぁっ!!」
おじいさんの声が途切れ、くぐもったうめき声と、人が倒れる音が響いてきました。
おじいさんに何かが起きた……! そう思うより早く、私は走り出していました。
「おじいさん……!」
倉庫の入り口に駆け戻ると、おじいさんは扉のそばに倒れていました。意識を失っているのか、目を閉じていて、全く動きません。
どこか怪我をしているのでしょうか。
「大丈夫ですか!? おじいさん! おじいさんっ!!」
必死で声をかけながら、おじいさんの身体をゆすっていると、おじいさんはゆっくりと目を開きました。
「あぁ、お嬢さん。だいじょうぶですよ。足を少々ひねってしまったようですな。年甲斐もなく走ろうとしたせいでしょう……ほっ、ほっ……」
おじいさんは笑いました。でもこんなの無理してるに決まってます。
全部私のせいでした。私がおじいさんの言う事を聞かずに倉庫の奥に入ったりしなければ、こんな事にはならなかったんです。
また、私は迷惑をかけてしまいました。おじいさんに怪我をさせてしまいました。取り返しのつかないことを……。
「……ごめんなさい、私のせいで……」
精一杯絞り出した声。そして精一杯絞り出した言葉。でも、これだけ。これだけしか出ない……。
私は何も言えないくらい、何も考えられないくらい、混乱してしまっていました。
「なぁに、たいしたことはないでしょう。しかし、ちょっと立つのは無理のようですな。すみませんが、ぼっちゃまを呼んでくださらんか」
「は……はい!」
私はすぐに発明家さんを呼びに走りました。
全部私のせいでした。おじいさんを苦しめてしまったのも、そして、発明家さんにとって大切な人に怪我を負わせてしまったのも。
私は、私を拾ってくれた二人に、大変な迷惑をかけてしまった……。
大きな罪の意識に押しつぶされそうになりながら、私は発明家さんの部屋へ走りました。一刻も早く、おじいさんを助けてもらうために。
おじいさんは発明家さんに背負われて、お部屋のベッドに運ばれました。その間も、私は何もできずにただうろうろしていただけでした。
私はここでも、ただ有害な、何の役にも立たない存在だったのです。
「お嬢ちゃん。じいやに水を一杯、くんできてやってくんねえかな」
発明家さんは、おじいさんの手当てをしながら、振り返りもせずに言いました。
「……はい」
最低だ……。
頭の中で、そんな言葉がぐるぐる回っていました。
役に立たないどころか、害にしかなってない……。勝手に出ていこうとして、わがままでおじいさんに怪我をさせて……。
私に水を持ってくるように言いつけた、発明家さんの背中。
言葉は柔らかかったけど、心の内は怒りに打ち震えていたに違いありません。
私は打ちのめされたまま、コップに水を汲んで部屋に戻りました。
自己嫌悪が私を支配していました。それは、おじいさんに怪我をさせてしまったことだけではなく……。
もしかしたら、これで追い出してもらえるかも……。
自己嫌悪の中でさえそんな事を考えてしまう、自分自身の卑怯さ。
やっぱり私は、救いようのない人間なのでした。
「おじいさん、お水です」
「おお、ありがとうございます」
発明家さんに抱き起こされたおじいさんは、私が差し出したコップを受け取り、すぐに水を一口含みました。
……すると。
「……んっ、んむぐはっ!」
おじいさんは突然口を押えてうめき声を出しました。その顔はとても苦しそうです。私は慌ててコップを受け取って、おじいさんの背中をさすりながら声をかけました。
「おじいさん! おじいさん! だいじょうぶですか?」
ゆっくりと私に笑顔を向けたおじいさん。でもその笑顔はとても苦しそうです。
「あ、あぁ……大丈夫、ですよ。ちょっと持病がでただけ……ですからな。ほっ……ほっ……」
持病……? いつも元気そうだったおじいさんが……?
全然気付きもしませんでした。もう何日も、毎日一緒にいたのに……。
「おじいさん、病気……だったんですか……?」
これは質問じゃなく、認めたくない事実の、確認でしかありませんでした。
「あぁ、まいったな。こんな時にケガと病気が出るなんてな。明日の取引で薬なんかは手に入れられるんだが、取引の準備が何もできてねえ……」
発明家さんは本当に困った顔で頭を搔きました。
どうしよう……。私のせいで、大事なお仕事にまで……。
「ごめんなさい、私のせい……」
「謝ってるヒマがあるんなら、やる事があんじゃねえのか?」
謝る私の言葉を遮って、発明家さんが言いました。
「え……っ?」
「え? じゃねえ。自分のせいでこうなったと思うんなら、その埋め合わせをしてもらわなきゃな」
発明家さんは、私に顔を向ける事もなく、立ち上がりました。
埋め合わせなんて……。この人は、私に何をやらせるつもりなんだろう。何もできない私に……。
「じいや、この子に荷物のチェック、教えてやってくれ。お嬢ちゃん、倉庫内の設備については俺が教えるから、じいやから仕事のやり方を教わったら研究室に来い。明日までにはきっちり終わらせなきゃなんねえんだから、急げよ」
発明家さんは厳しい口調でそう言うと、自分の部屋に戻っていきました。私は小さく「はい」と返事する事しかできませんでした。
大変な事をしてしまった……。私はそんな気持ちに押しつぶされそうになりながら、言いつけられた仕事を始めました。
明日の朝までに、今回出荷する荷物を全てチェックして、積み下ろしするための倉庫に整理して積んでおかなければなりません。
荷物のリストを握りしめて、たくさんある倉庫を走り回って、荷物の運搬設備を操作して……。
どうやったらこの作業を終わらせられるのか、全くわかりませんでした。終わるなんて信じられませんでした。
でも、こうなったのは全て私のせいなのです。間に合わなくても、できる限りの事はしなければなりませんでした。ううん、「間に合わなくても」ではだめなのです。私は絶対に、間に合わせなければならないのでした。
第4話をお読みいただきありがとうございます。
おじいさんが怪我をしてしまった。
「私のせいだ」という自責に押しつぶされる少女に発明家さんは言う。
「謝ってるヒマがあるんなら、やる事があんじゃねえのか?」
これは冷たい言葉ではなく、発明家さんが少女に「役割」を渡した瞬間です。
次話では、少女の夜通しの仕事が始まります。
◆ 本編「TakeitAll!」連載中 → https://ncode.syosetu.com/n2695eu/
サヤとカイの出会いから読めます。




