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第三話「家出したのは嫁じゃなくて、俺の方」

おじいさんに促されて、ついに発明家さんに直接質問をぶつけた少女。


「どうして私を助けてくれたんですか?」


これは本当に聞きたいことではない、とおじいさんは言った。

では、本当に聞きたいこととは……?


そして、発明家さんの答えは……。

 最初に浮かんだ光景は、村から逃げ出してきた日に見た、空から落ちてくる光でした。

 何故かどうしても気になって、光の落ちた場所へ走っていくと、そこには気を失った男の人が倒れていたのです。

 あの時私は、その人が誰なのか、どんな人なのか知らないのに、介抱したのでした。

 私が知っている全ての人が、私にとって怖い人たちだったのに。

 意識を取り戻した男の人が、私をいじめるかも知れなかったのに。

 でも、そんなことは少しも考えませんでした。理屈なんてありませんでした。私が醜いとか、無能だとか、そんな事も関係ありませんでした。

 それが、あの人との出会いだったのです。


 私の目から、涙がこぼれました。会いたい。あの人に、会いたい……。


「思い当たるフシ、ありって顔だな」


 発明家さんの言葉に、私は素直に頷いて、涙を拭きました。


「だろ? なのになんでそんな事聞くかなぁー」


 少しあきれ顔の発明家さん。そして、腕組みをして少し考えました。


「んー。なるほど、そう言う事か」


 何か納得したような顔で、私を見つめる発明家さん。

 どういう事だろう。何がわかったんだろう……?

 私の事なのに、私にもよくわかっていない事なのに……。

 でも、この発明家さんは、手探りでも私を理解してくれようとしている、それが私にも伝わってきました。


「んー、すまねえな、お嬢ちゃん。俺は女の子の扱い方ってのを知らねえ。色々抱えてそうな事情ってやつは、お嬢ちゃんが話したくなってから聞けばいいって思ってたんだ。だが…それが却って不安の原因になってたんだな」


 発明家さんは済まなそうに頭を掻きながらそう言いました。

 そっか。私は、不安だったんだ。あの人の事しか考えられなくて、気付かなかったけれど……。

 おじいさんが言っていた、私が本当に聞きたかった事。それは……。


「お嬢ちゃんの素性だのなんだのってのは、気にならねえと言えば嘘になる。だがそれは、迷惑がどうのこうのって話じゃねえ。なんかほら、もしかしたら手助けできることとか、あるかも知れねえだろ?」


 発明家さんは、少し照れくさそうで、少し言いづらそうでした。いつも明快に、ストレートに話す発明家さんらしくなかったけど、だからなおさら、素直に話してるんだなって伝わってくる気がしました。


「あ、ああいや、もちろん話せって言ってるわけじゃねえ。話したくねえ事とかもあるだろうからな」


 発明家さんの優しさが染み込んでくるようでした。でも、それを信じていいのか、私にはわかりませんでした。


 そう、今まで理屈なんかなく私に優しくしてくれたのは、あの人だけでした。あの人の周りにいる人たちだけでした。

 他に私に優しくしてくれる人なんかいるわけがない。このままここに閉じ込められて、もうあの人に会えなくなってしまうかもしれない。

 いえ、私にはあの人のそばに戻る資格はないのかも知れない……。

 そんな沢山の気持ちがごちゃごちゃになって、大きな不安になっていたのです。


 この発明家さん達が、私を助けてくれながら、私に全く関心を持っていない事。それが私の中の不安を大きく膨らませていたのでした。

 その不安が噴き出すように、私の口を開かせました


「でも、でもどうして、そんなに良くしてくださるんですか? 私なんて何もできない、何の役にも立たない……」


「……実は俺にも娘がいてな」


 発明家さんの言葉は静かだったけれど、私の言葉を押しとどめる力がありました。


「生きてりゃちょうどお嬢ちゃんくらいの年だ。……だからな。ほっとけねえんだよ」


 私は、その言葉を受け止めきれず、発明家さんの顔をじっと見つめる事しかできませんでした。

 発明家さんは、そんな私の顔を優しい目で見つめながら、むしろ吹っ切れた表情でそう言ったのです。


「そう……だったんですか……」


 私にはお父さんもお母さんもいない。だから親子の愛情がどんなものか、本当にはわからないのかも知れないけど……。

 でも、発明家さんがお子さんを本当に大切に思っていたことは、私にも想像することができました。

 そうか、だから発明家さんは……。


「……なんて話でもできりゃあお嬢ちゃんも安心させられんのになぁ。残念ながら、俺は娘も息子もいた事がねえんだよな」


「え!? 嘘だったんですか?」


 予想外のタネ明かしに思わず声が出てしまう私。発明家さんは申し訳なさそうな顔でしたが、その目はいたずらっぽく笑っていました。


「そりゃあ俺にも嫁はいるが、見ての通り家出中なんでな。子どもなんかできっこねえよ」


 ちょっと照れくさそうに頭を掻きながら発明家さんは言いました。そう言えばこの家には発明家さんとおじいさんしかいません。だから私は、この人が結婚しているという事も知りませんでした。


「そうなんですか……。奥様はなんで家出なんて……」


「ああいや、家出したのは嫁じゃなくて、俺の方。特にケンカしたとかってわけでもねえんだが、あそこはどうも性に合わなくてなぁ」


 またまた予想外の告白。でもケンカしたわけでもないのになんで家出なんかしたんでしょう。


「奥様、寂しいんじゃないですか……?」


「んー、まぁなぁ。だから帰りづれえってのも、ある」


「え、どうしてですか?」


 もしかしたら、何か事情があるのかもしれない。帰りたくても帰れない事情……。

 私がその理由を知りたがったのは、私の状況と似ていると思ったからなのかも知れません。


「あいつ気が強えぇからなぁ。なんかうまいタイミングがあれば、顔くらい出しておきてえところだけど。……帰ったらすんげえお仕置きが待ってるかもしれねえって思うとなー」


 すっかりしょげ込んでしまった発明家さん。いつもの強くて自信たっぷりな感じとのギャップが激しくて……。


「ふふっ、お仕置きが怖いんですか?」


 ちょっとこの発明家さんを、可愛いって思ってしまいました。


「お、初めて笑ったな。この三日、ずっとその笑顔が見たかったんだよなぁ」


 発明家さんはそう言って、本当に嬉しそうな笑顔を私に向けました。 


「……でも、良かったです。亡くなった娘さんなんて、いなかったんですよね」


 私は少しホッとしていました。本当に、娘さんの話が嘘でよかった……。


「ん-。まぁ、そんなわけだから、好きなだけここで休んどきな。お嬢ちゃんの事だ。どうせいつか立ち上がって前に進むんだろ。だからそれまではゆっくり休んどけ」


「……はい」


 発明家さんの言葉が、私の心に影を落としていました。


 どうせいつか立ち上がる。前に進む。

 やっぱり発明家さんは、私の事を見間違えている。

 私はそう感じていました。

 発明家さんの言葉は、私の不安を軽くしてくれました。それは間違いないんです。多分、私が笑えたのも、そのためだったんだと思います。でも……。


 私は自分の事は何も話せませんでした。発明家さんは話してくれたのに。

 発明家さんは私の事を考えていてくれていました。でも、私には立ち上がる力なんてない。


 やっぱり、私なんかがこれ以上お世話になってはいけないんです。

 私はここにいるべきではないんです。ここは、発明家さんの場所だから……。


 あとはどうやってここから出て行けばいいのか、それが大きな問題でした。






 その答えは、意外と早く見つかりました。

 二日後のお昼過ぎ。窓から見える、いつもと同じ光景の中に、いつもと違う動きがあったんです。

 

 この浮遊島には、発明品を保管している倉庫がいくつもあるんだそうで、私が寝起きしている部屋の窓からもいくつか見えました。

 いつも閉じられていて、近寄る者もない倉庫。

 でも今、その中の一つ、私がいる部屋の窓から一番近い倉庫の前で、おじいさんがその扉を開けようとしていたのです。


 もしかしたら私がここを出ていく方法があるかも知れない。そう思った時、私は家を飛び出していました。

 発明家さんに拾ってもらってから、私がこの家の外に出たのは初めての事でした。

第3話をお読みいただきありがとうございます。


不器用に、少女の心を包み込む発明家さん。

しかし彼女は、この家からの脱出計画を開始する。


次話では、脱出計画の中で、事件が起こります。


◆ 本編「TakeitAll!」連載中 → https://ncode.syosetu.com/n2695eu/

サヤとカイの出会いから読めます。

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