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マルチバースな俺

作者: 雉白書屋
掲載日:2026/01/03

「ここは……どこだ……?」


 気がつくと、俺は見知らぬ空間に横たわっていた。身を起こしながら、視界一面に広がる光景に思わず息を呑む。まるで巨大なプラネタリウム――いや、そんな生易しいものではない。はるかに鮮烈で、果てしなく深い星々の海だった。天井も壁も、境界すらなく、見つめているだけで引きずり込まれそうになる。


「寝ていたはずなのに……これは夢か?」


 俺は呟きながら、ゆっくり立ち上がった。足元の床は黒く、星々の光を淡く反射している。何度か瞬きをして、周囲を見回した。すると、ぽつりぽつりと人影が浮かび上がってきた。目を凝らすと、顔と体がはっきりとしていく。

 だが、そいつらは――


「やあ、こんにちは! 多元宇宙の僕たち! みんなに会えてうれしいよ!」


 俺は驚いた。そこにいる連中は、全員どこか俺に似ていたのだ。顔の骨格、目つき、立ち方――妙な親近感と同時に、薄気味悪さを覚えた。

 今喋ったのは、高校生くらいの俺だ。明るく弾む声で、無邪気な笑みを浮かべている。


「いったい、どうなってんだ……」


 皆、不安そうな顔でざわめき始めた。筋肉隆々の俺、女の俺、猿の俺、デフォルメされた輪郭のアニメ調の俺、顔がぴたりとくっついた結合双生児の俺、腰の曲がった老人の俺、派手な化粧をしたオカマな俺、白黒映画から抜け出してきたような陰影の濃い俺、アンドロイドの俺、巨人の俺――まるで鏡の破片が散らばったように、大勢の『俺』がおそるおそる集まってきた。


「おい、どうなってんだよ」


「みなさん、マルチバースをご存じですか? この腕の装置で多元宇宙の扉を開いて、それぞれの世界から『僕』たちを

呼び集めたんです」


 高校生の俺が、腕に装着した奇妙な装置を誇らしげに掲げた。腕時計に似ているが、見たこともない色の宝石がはめ込まれていた。


「なんだそれ。よく見せろ」


 高校生の俺は続けて説明を始めたが、言葉は耳をかすめるだけで、意味がほとんど頭に入ってこない。他の俺たちも同じらしく、眉をひそめたり、腕を組んだりして、意図をつかみかねている様子だった。


「おい、どういうことなんだよ。もっとちゃんと説明しろ!」


「実は今、僕の世界は崩壊の危機にあるんだ。だから、みんなに力を貸してほしい。このままだと、他の世界にも影響が及ぶかもしれない……」


 高校生の俺は、深刻な顔でそう言った。震える声には、焦りが滲んでいた。冗談でも芝居でもないのかもしれない。

 だが、何をすればいいのか、なぜ俺たちが集められたのか、肝心な部分は相変わらず見えてこない。

 俺はだんだんイライラしてきた。


「敬語使えよ。そもそも、なんでお前が仕切ってんだ」


「みんな……ありがとう」


 高校生の俺は目を潤ませ、感極まったように頷いた。周囲の俺たちもなぜか頷き返し、やつの肩にそっと手を置いたり、励ましたりした。どうやら全員で何かをするつもりらしい。いったい何をするつもりなのかわからないが、俺は言った。


「さっきから無視しやがって。お前、ガキのくせに生意気だぞ!」


 全員の視線が俺へと向けられた。だが誰も何も言わず、すぐに目線を外し、再び高校生の俺へと意識を戻した。

 連中は俺から少し距離を取り、また何かを話し合いだした。全員が背中を向け、もう誰一人として俺に目を向けようとはしなかった。

 ただあの視線は、子供や老人、男や女、ゴミ収集員、役所の人間――これまで俺に向けられてきたどんな目よりも、俺の胸を締めつけ、みじめな気分にさせたのだった。

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