マルチバースな俺
「ここは……どこだ……?」
気がつくと、俺は見知らぬ空間に横たわっていた。身を起こしながら、視界一面に広がる光景に思わず息を呑む。まるで巨大なプラネタリウム――いや、そんな生易しいものではない。はるかに鮮烈で、果てしなく深い星々の海だった。天井も壁も、境界すらなく、見つめているだけで引きずり込まれそうになる。
「寝ていたはずなのに……これは夢か?」
俺は呟きながら、ゆっくり立ち上がった。足元の床は黒く、星々の光を淡く反射している。何度か瞬きをして、周囲を見回した。すると、ぽつりぽつりと人影が浮かび上がってきた。目を凝らすと、顔と体がはっきりとしていく。
だが、そいつらは――
「やあ、こんにちは! 多元宇宙の僕たち! みんなに会えてうれしいよ!」
俺は驚いた。そこにいる連中は、全員どこか俺に似ていたのだ。顔の骨格、目つき、立ち方――妙な親近感と同時に、薄気味悪さを覚えた。
今喋ったのは、高校生くらいの俺だ。明るく弾む声で、無邪気な笑みを浮かべている。
「いったい、どうなってんだ……」
皆、不安そうな顔でざわめき始めた。筋肉隆々の俺、女の俺、猿の俺、デフォルメされた輪郭のアニメ調の俺、顔がぴたりとくっついた結合双生児の俺、腰の曲がった老人の俺、派手な化粧をしたオカマな俺、白黒映画から抜け出してきたような陰影の濃い俺、アンドロイドの俺、巨人の俺――まるで鏡の破片が散らばったように、大勢の『俺』がおそるおそる集まってきた。
「おい、どうなってんだよ」
「みなさん、マルチバースをご存じですか? この腕の装置で多元宇宙の扉を開いて、それぞれの世界から『僕』たちを
呼び集めたんです」
高校生の俺が、腕に装着した奇妙な装置を誇らしげに掲げた。腕時計に似ているが、見たこともない色の宝石がはめ込まれていた。
「なんだそれ。よく見せろ」
高校生の俺は続けて説明を始めたが、言葉は耳をかすめるだけで、意味がほとんど頭に入ってこない。他の俺たちも同じらしく、眉をひそめたり、腕を組んだりして、意図をつかみかねている様子だった。
「おい、どういうことなんだよ。もっとちゃんと説明しろ!」
「実は今、僕の世界は崩壊の危機にあるんだ。だから、みんなに力を貸してほしい。このままだと、他の世界にも影響が及ぶかもしれない……」
高校生の俺は、深刻な顔でそう言った。震える声には、焦りが滲んでいた。冗談でも芝居でもないのかもしれない。
だが、何をすればいいのか、なぜ俺たちが集められたのか、肝心な部分は相変わらず見えてこない。
俺はだんだんイライラしてきた。
「敬語使えよ。そもそも、なんでお前が仕切ってんだ」
「みんな……ありがとう」
高校生の俺は目を潤ませ、感極まったように頷いた。周囲の俺たちもなぜか頷き返し、やつの肩にそっと手を置いたり、励ましたりした。どうやら全員で何かをするつもりらしい。いったい何をするつもりなのかわからないが、俺は言った。
「さっきから無視しやがって。お前、ガキのくせに生意気だぞ!」
全員の視線が俺へと向けられた。だが誰も何も言わず、すぐに目線を外し、再び高校生の俺へと意識を戻した。
連中は俺から少し距離を取り、また何かを話し合いだした。全員が背中を向け、もう誰一人として俺に目を向けようとはしなかった。
ただあの視線は、子供や老人、男や女、ゴミ収集員、役所の人間――これまで俺に向けられてきたどんな目よりも、俺の胸を締めつけ、みじめな気分にさせたのだった。




