転生したら親がいわゆるマッドサイエンティストだった
ご無沙汰しております。
はい皆様ご一緒に。
生きとったんかワレェ!
どうぞお楽しみください。
……いたい……。いたいよ……。
『ふふふ……。リッチの魔力、ドラゴンの身体能力、エルフの不老長寿、スライムの再生力……。全てがアステの中で混ざり合い、新たな力へと昇華していく……』
……おとうさん、やめて……。
いたいの、やめて……。
『!? ……何だこの合成反応は……!? いや、いいぞ! 素晴らしい! これでこの研究の成果は確たるものになるはずだ……!』
……からだじゅうが、いたい……。
まるでトラックにはねられた時のような……。
……トラック……?
……わたし、いや俺は……!
「はっ!」
目を開けると、刺すような光!
思わず目を閉じると、
「もう目覚めたのかい!? 僕の想定より一時間近く早い! やはりアステは素晴らしいよ!」
中年男の嬉しそうな声が響く!
誰だアステって!
俺は蓮堂歩!
特徴がないのが特徴の、どこにでもいるジャパニーズビジネスマン!
目を覚ましただけでおっさんからキャーキャー言われる筋合いは……!
「……な、なんじゃあこりゃあああぁぁぁ!」
再度目を開いた俺は、そう叫ぶしかなかった!
目の前にかざした手ぇちっちゃ!
腕ほっそ!
そして白くてつやつや!
慌てて身を起こす!
全体的に縮んでる……!
そして頬にかかる、見慣れない銀色の長髪……!
シーツみたいな布をめくると、起伏のないすべすべの身体……!
ビールっ腹はどこへやら……。
そしてあるべきものが、ない!
毎日トイレと風呂で顔を合わせていた相棒!
もう一つの役割には一度も使ってやれなかった相棒!
それが、ない!
……これは、夢か……?
「うっ……!」
身体の芯から痛みが……!
くそっ……! 夢じゃないのか……!
「アステ! 身体の中のスライムの力を使うんだ! そうすれば痛みはすぐ消える!」
「何……?」
ヒョロガリな中年男がそう叫ぶ。
何を言ってるのかちょっとわからないが、この痛みを何とかできるなら……。
ん!? 何だ!? 頭の中に、選択肢が……!?
『ドラゴン』
『リッチ』
『エルフ』
『スライム』
スライムってこれか……?
意識を向けると、項目が増えた!
『スライム』┳粘液
┣超回復
┣部位再生
┗軟化
この『超回復』ってやつか……?
意識を向けると、な、何だ!?
身体を緑色の光が包み込む!
……痛みが、消えた……!
「やったやった! さすがはアステ! 僕の娘だ! これでひとまずの危機は脱した!」
「……」
俺は寝かされていた台を降りると、高笑いしながら小躍りしているヒョロガリの襟首を掴む。
「おい」
「うぐえっ!? あ、アステ……? ど、どうしたん、だい……?」
「黙れ。お前、この子に何をした?」
「う、こ、この、こ……?」
『超回復』で痛みが消え、意識がはっきりしてくるにつれて、記憶が蘇ってきた。
この身体の持ち主、アステ・スミックの記憶が。
途切れ途切れではあったが、最近の記憶は痛みと苦しみに満ちていた。
こいつがその元凶……!
「この子がどれだけ『やめて』と言っても苦痛を与え続けた……! 何のためにそんな事を……!」
「うぐ……! き、君は一体……?」
釣り上げてやりたいが、この身長ではそれは無理だ。
頭の中の選択肢で『ドラゴン』の項目の『剛力』を選び、引き倒して仰向けにして、馬乗りになる。
「答えろ! 何のためにこの子を苦しめた!」
「う……! あ、アステを、ま、もる、ため……!」
「あんな苦痛を与えておいて、何が守るだ!」
拳を握り、顔面に狙いを定めた。
思い切り振り下ろしたら、こいつの頭は砕ける。
そんな確信が、『剛力』で握った拳の中にあった。
人の命を奪う、その事実が一瞬頭をよぎる。
だがどうでもいい。
こいつに罰を……!
(やめて!)
「!?」
な、何だ!?
頭の中に、声が……!?
(おとうさんをいじめないで!)
「……っ」
子どもらしい甲高い声が、必死に俺を止めようとする……!
これは、この身体の持ち主の声……!?
何でこんな父親を庇うんだ……!?
あんなに酷い目に遭わされていたのに……!
(おとうさんをいじめちゃだめ!)
「……くそっ」
……この子が望まないなら仕方がない……。
話を聞こう……。
でも、やっぱりダメ親だったとわかった時には……!
「……? あ、アステ……?」
「……話せ。何でこの子にあんな辛い思いをさせたのか……」
「アステ、ではないのか……? 君は誰なんだ……?」
「……蓮堂歩。いわゆる異世界で死んで、この身体に転生したみたいだ……」
「異世界からの転生!? それは是非とも研きゅ……、いや、だからか……。未完成な状態にも関わらず魂の移し替えが成功したのは……」
「どういう事だ?」
「……アステは、魔族の攻撃で瀕死の重傷を負った……」
「!?」
……確かにアステの記憶に、いや、俺の最初の記憶に、激しい痛みと共にヒョロガリの泣き顔がある……。
俺がトラックに轢かれた時に思った『痛い!』と『死にたくない!』が、同じように思ったアステの感情によって、魂が引き寄せられたのか……?
「私は以前からこの地下の研究室で人造人間と魂の研究をしていた。魔族からアステを守るために。しかし魔族の攻撃で、研究完成前にアステは瀕死に……」
「……」
「アステを守るために、僕は未完成の人造人間にアステの魂を移した……。本来は必要な強化を施してから行う予定だったんだが……」
「その時だろうな……。俺の魂が混ざったのは……」
「混ざった!? あ、アステの魂は、今、一体……!?」
動揺したヒョロガリが身体の下で暴れる。
体重差はかなりありそうだが、『剛力』のおかげかびくともしない。
だがこのままだとまたアステが辛そうな声を上げるだろう。
「大丈夫だ。ちゃんと意識があって、『おとうさんをいじめないで』だとよ」
「そ、そうか……。良かった……」
こうして安堵する姿を見ると、こいつも悪い奴じゃないのかもしれない。
しかしアステに苦痛を与え続けた事は、簡単には許せない。
「んで? 何でアステに苦痛を与えるような真似をしたんだ?」
「そ、それは、魂を守るため仕方がなかった……。未強化の人造人間では、簡単に破壊されてしまうから……。強化の際に苦痛があるのはわかっていたが……」
「それがこの、『リッチ』『ドラゴン』『エルフ』『スライム』の四つの力って訳か……」
子を守りたい親心ってやつか……。
独善的な感じもするけど、一度失いかけたらそうなるのかもしれないな。
「この後、グランドタートルの防御力と、ファイアイーグルの耐火能力と、アイスタイガーの耐寒能力と、スカイサーペントの飛翔能力を追加する予定で」
「やりすぎだろ! どんだけオーバースペックにするつもりだ!」
「えぇ!? でも今のままだとまだ不安で……!」
過保護なのか!?
それとも研究を深めたいだけなのか!?
何にしてもこれ以上の苦痛をアステに与えるわけには……。
「!? 何だ!? 爆発音!?」
「……来たか、魔族……。思ったより早かったな……」
「何!?」
激しい振動と爆発音に天井を見上げると、ヒョロガリが絞り出すように言った。
「……奴らは人間を奴隷にしたいようでね。各地を散発的に攻撃しているのだ。『降伏しなければ攻撃が続くぞ』とね」
「何だと!?」
「だが国王は、降伏した後の地獄を理解している。だからこの町は度々攻撃され続けるのさ」
「そのせいで、アステは死にかけたのか……!」
「あの日、僕が買い物なんか頼まなければ……!」
俺は前世、別に正義に燃える熱血漢ではなかった。
どっちかと言えば、自分に害が及ばないなら、見て見ぬ振りをする事の方が多かった。
だが今、俺の中にアステの記憶がある。
傷付けられた痛み。
自分の生まれ育った町が火に包まれ、壊れていく光景。
そして大切な存在である父親の絶望。
こんなの、許しちゃおけねぇだろ……!
「なら俺がぶっ飛ばしてくる!」
「や、やめてくれ! その改造は魔族と戦うためのものじゃない! あくまでアステを守るためなんだ!」
「!? こんだけ力を積んでるのに、魔族には勝てないってのか!?」
「……あぁ、高位魔族の力には、おそらく及ばない可能性が……」
「くっ……」
「ここにいれば安全だ! 万が一魔族がここを見つけた時でも、不意打ちで一撃入れて裏口へ行けば逃げられる可能性が高い……!」
「……」
……この地下の研究所では地響きしか感じられなくても、町ではきっと大きな被害が出ているんだろう……。
それを見過ごすなんて……!
でもこの身体はアステのものだ……。
それを危険にさらすのも……。
(おにいちゃん! いって!)
「!?」
アステ!?
(おとうさんを、まちのひとをいじめるまぞくをやっつけて!)
「……。そうか、そうだな……」
声だけだが、アステの覚悟は伝わってきた。
そうだよな。
大事な人をいじめる奴は、許せないよな……!
「……あ、あの、アステ……、いや、アユムだったか……。シーツを身体に巻き付けて、何を……?」
「人造人間とはいえ、女の子が裸で外に飛び出すわけにはいかないだろうが」
「だ、駄目だ! もしここでその身体が破壊されたら、アステの魂が……!」
「アステが言ってんだよ。『おとうさんとまちのまぞくをいじめるやつをやっつけて』ってな」
「あ、アステ……!」
崩れ落ちるヒョロガリの横をすり抜け、階段を駆け上がった。
すげぇ! 五、六段は軽く飛ばして駆け上がれる!
扉を開けると、鼻をつく焦げた匂い!
視界に広がるのは、そこここから上がる煙!
……良かった。倒れている人の姿はない。
まぁ定期的に攻撃されたら、避難も早くなるか。
そして、
「ふはははは! 魔王様の庇護を拒む愚か者共め! 人間の国を捨て、魔王様の奴隷となれ! さもなくば命の保証はないぞ!」
空中で何か喚いている奴!
あれが魔族か……!
「ん? 何だ小娘? 風呂上がりか? それは悪い事をしたな。だがそれも魔王様に逆らう国が悪いのだ! 悲劇のヒロインとなってもらおうか!」
俺に気付き、手に光を集める魔族!
勝てるかわからない……!
だが、こんな人を人とも思わない奴に負けたくない!
『ドラゴン』┳剛力
┣竜鱗
┣威圧
┗竜吼砲
さっき見た『ドラゴン』の能力で、絶対強いだろうと思う『竜吼砲』を選ぶ!
!
口の前に力が集まるのを感じる!
「ん? 何かするつもりか? ふふん、無駄な事を……」
くそ! 相手の方が早いか!?
頼む!
あの余裕ぶった魔族が、何とか撤退するくらいの力を……!
「町諸共、焼け焦げろ!」
くそっ!
魔族が手に集めた光の塊を放った!
こっちは感覚的にはまだ半分くらいしか力が溜まっていない!
でもあいつの攻撃が町に放たれたらどうなるか……!
今溜まっている力で、せめて威力を減らすくらいは……!
「はあああぁぁぁ!」
「ふはは! 無駄無駄! そんな程度のちか、え、ちょっ、待っ、ぎゃあああぁぁぁ……!」
え。
ちょっと待って。
あいつの放った魔力をティッシュみたいに吹き散らして、俺の『竜吼砲』は魔族を飲み込んだ。
「……あ、が……」
黒い棒人間みたいになった魔族は、目の前の地面にべしゃっと落ちた。
え、これ、どういう事……?
……こいつ、雑魚だったのか……?
「く……、この魔王軍四天王であるマセイヌカ様を一撃で倒すとは……、き、貴様、何者だ……?」
うわぁ結構強い奴だったみたい……。
この身体の強化ってとんでもないんじゃないか……?
「はぁ、はぁ、あ、アステ……。無事か……?」
あ! ヒョロガリが研究所から出てきた!
俺は地面に落ちた魔族を指して叫ぶ!
「おい! 何か四天王とかいう奴を一発で倒したんだけど、何なんだこの身体!」
「え? 四天王? 良かった、そのレベルだったのか……」
え、四天王って弱いの?
「魔王本人じゃなくて良かった……。そうしたら無傷で勝利できる確率は六割あるかないかだからね……」
おい待て。
魔王って多分ラスボスだよな……?
それを相手に無傷で勝率五割強!?
オーバースペックにも程があるだろ!
「でもアユムのお陰で貴重な魔族の検体が手に入った訳だから」
「な、何をする貴様ー!」
「アステの身体を強化する礎になってもらおうかなって」
あぁ、安定のマッドサイエンティスト。
「すみません許してください、何でもしますから!」
「ん? 今何でもするって言ったよね?」
あ、親の顔より見たやり取り。
「ねんがんのまぞくのけんたいをてにいれたぞ!」
「な、なにをするきさま!」
「実にスゴイ検体をもらったよ。うれしいなあ~。こんな研究めったにできるもんじゃあないよ。これをアステの強化に生かせれば……! グフフフ……! と、得したなあ……!」
満面の笑みを浮かべながら、抵抗できない魔族の身体を引きずっていくヒョロガリ。
魔族よりこいつの方が邪悪に見える不思議。
(おにいちゃん、ありがとね!)
(……おう!)
まぁこの子が救えたなら、俺が転生した意味もあるんだろう。
後は魔王とかいうやつを何とかして……。
「アァ……。早く研究してドロドロになるまで調べたいネ……。一分一秒も惜しいヨ……」
「……化け物め……!」
……いや、あいつをどうにかする方が先かな……。
読了後ありがとうございます。
銀髪ロリッ娘に転生した歩!
迫り来る魔王の手と父親の改造の手!
歩はアステを苦しみから守り抜けるのか!?
次回!『後は皆様の想像の中で』
お楽しみに!




