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転生したら親がいわゆるマッドサイエンティストだった

作者: 衣谷強
掲載日:2026/02/28

ご無沙汰しております。

はい皆様ご一緒に。


生きとったんかワレェ!


どうぞお楽しみください。

 ……いたい……。いたいよ……。


『ふふふ……。リッチの魔力、ドラゴンの身体能力、エルフの不老長寿、スライムの再生力……。全てがアステの中で混ざり合い、新たな力へと昇華していく……』


 ……おとうさん、やめて……。

 いたいの、やめて……。


『!? ……何だこの合成反応は……!? いや、いいぞ! 素晴らしい! これでこの研究の成果は確たるものになるはずだ……!』


 ……からだじゅうが、いたい……。

 まるでトラックにはねられた時のような……。

 ……トラック……?

 ……わたし、いや俺は……!


「はっ!」


 目を開けると、刺すような光!

 思わず目を閉じると、


「もう目覚めたのかい!? 僕の想定より一時間近く早い! やはりアステは素晴らしいよ!」


 中年男の嬉しそうな声が響く!

 誰だアステって!

 俺は蓮堂れんどうあゆむ

 特徴がないのが特徴の、どこにでもいるジャパニーズビジネスマン!

 目を覚ましただけでおっさんからキャーキャー言われる筋合いは……!


「……な、なんじゃあこりゃあああぁぁぁ!」


 再度目を開いた俺は、そう叫ぶしかなかった!

 目の前にかざした手ぇちっちゃ!

 腕ほっそ!

 そして白くてつやつや!

 慌てて身を起こす!

 全体的に縮んでる……!

 そして頬にかかる、見慣れない銀色の長髪……!

 シーツみたいな布をめくると、起伏のないすべすべの身体……!

 ビールっ腹はどこへやら……。

 そしてあるべきものが、ない!

 毎日トイレと風呂で顔を合わせていた相棒!

 もう一つの役割には一度も使ってやれなかった相棒!

 それが、ない!

 ……これは、夢か……?


「うっ……!」


 身体の芯から痛みが……!

 くそっ……! 夢じゃないのか……!


「アステ! 身体の中のスライムの力を使うんだ! そうすれば痛みはすぐ消える!」

「何……?」


 ヒョロガリな中年男がそう叫ぶ。

 何を言ってるのかちょっとわからないが、この痛みを何とかできるなら……。

 ん!? 何だ!? 頭の中に、選択肢が……!?


 『ドラゴン』

 『リッチ』

 『エルフ』

 『スライム』


 スライムってこれか……?

 意識を向けると、項目が増えた!


 『スライム』┳粘液

       ┣超回復

       ┣部位再生

       ┗軟化


 この『超回復』ってやつか……?

 意識を向けると、な、何だ!?

 身体を緑色の光が包み込む!

 ……痛みが、消えた……!


「やったやった! さすがはアステ! 僕の娘だ! これでひとまずの危機は脱した!」

「……」


 俺は寝かされていた台を降りると、高笑いしながら小躍りしているヒョロガリの襟首を掴む。


「おい」

「うぐえっ!? あ、アステ……? ど、どうしたん、だい……?」

「黙れ。お前、この子に何をした?」

「う、こ、この、こ……?」


 『超回復』で痛みが消え、意識がはっきりしてくるにつれて、記憶が蘇ってきた。

 この身体の持ち主、アステ・スミックの記憶が。

 途切れ途切れではあったが、最近の記憶は痛みと苦しみに満ちていた。

 こいつがその元凶……!


「この子がどれだけ『やめて』と言っても苦痛を与え続けた……! 何のためにそんな事を……!」

「うぐ……! き、君は一体……?」


 釣り上げてやりたいが、この身長ではそれは無理だ。

 頭の中の選択肢で『ドラゴン』の項目の『剛力』を選び、引き倒して仰向けにして、馬乗りになる。


「答えろ! 何のためにこの子を苦しめた!」

「う……! あ、アステを、ま、もる、ため……!」

「あんな苦痛を与えておいて、何が守るだ!」


 拳を握り、顔面に狙いを定めた。

 思い切り振り下ろしたら、こいつの頭は砕ける。

 そんな確信が、『剛力』で握った拳の中にあった。

 人の命を奪う、その事実が一瞬頭をよぎる。

 だがどうでもいい。

 こいつに罰を……!


(やめて!)

「!?」


 な、何だ!?

 頭の中に、声が……!?


(おとうさんをいじめないで!)

「……っ」


 子どもらしい甲高い声が、必死に俺を止めようとする……!

 これは、この身体の持ち主の声……!?

 何でこんな父親を庇うんだ……!?

 あんなに酷い目に遭わされていたのに……!


(おとうさんをいじめちゃだめ!)

「……くそっ」


 ……この子が望まないなら仕方がない……。

 話を聞こう……。

 でも、やっぱりダメ親だったとわかった時には……!


「……? あ、アステ……?」

「……話せ。何でこの子にあんな辛い思いをさせたのか……」

「アステ、ではないのか……? 君は誰なんだ……?」

「……蓮堂歩。いわゆる異世界で死んで、この身体に転生したみたいだ……」

「異世界からの転生!? それは是非とも研きゅ……、いや、だからか……。未完成な状態にも関わらず魂の移し替えが成功したのは……」

「どういう事だ?」

「……アステは、魔族の攻撃で瀕死の重傷を負った……」

「!?」


 ……確かにアステの記憶に、いや、俺の最初の記憶に、激しい痛みと共にヒョロガリの泣き顔がある……。

 俺がトラックに轢かれた時に思った『痛い!』と『死にたくない!』が、同じように思ったアステの感情によって、魂が引き寄せられたのか……?


「私は以前からこの地下の研究室で人造人間と魂の研究をしていた。魔族からアステを守るために。しかし魔族の攻撃で、研究完成前にアステは瀕死に……」

「……」

「アステを守るために、僕は未完成の人造人間にアステの魂を移した……。本来は必要な強化を施してから行う予定だったんだが……」

「その時だろうな……。俺の魂が混ざったのは……」

「混ざった!? あ、アステの魂は、今、一体……!?」


 動揺したヒョロガリが身体の下で暴れる。

 体重差はかなりありそうだが、『剛力』のおかげかびくともしない。

 だがこのままだとまたアステが辛そうな声を上げるだろう。


「大丈夫だ。ちゃんと意識があって、『おとうさんをいじめないで』だとよ」

「そ、そうか……。良かった……」


 こうして安堵する姿を見ると、こいつも悪い奴じゃないのかもしれない。

 しかしアステに苦痛を与え続けた事は、簡単には許せない。


「んで? 何でアステに苦痛を与えるような真似をしたんだ?」

「そ、それは、魂を守るため仕方がなかった……。未強化の人造人間では、簡単に破壊されてしまうから……。強化の際に苦痛があるのはわかっていたが……」

「それがこの、『リッチ』『ドラゴン』『エルフ』『スライム』の四つの力って訳か……」


 子を守りたい親心ってやつか……。

 独善的な感じもするけど、一度失いかけたらそうなるのかもしれないな。


「この後、グランドタートルの防御力と、ファイアイーグルの耐火能力と、アイスタイガーの耐寒能力と、スカイサーペントの飛翔能力を追加する予定で」

「やりすぎだろ! どんだけオーバースペックにするつもりだ!」

「えぇ!? でも今のままだとまだ不安で……!」


 過保護なのか!?

 それとも研究を深めたいだけなのか!?

 何にしてもこれ以上の苦痛をアステに与えるわけには……。


「!? 何だ!? 爆発音!?」

「……来たか、魔族……。思ったより早かったな……」

「何!?」


 激しい振動と爆発音に天井を見上げると、ヒョロガリが絞り出すように言った。


「……奴らは人間を奴隷にしたいようでね。各地を散発的に攻撃しているのだ。『降伏しなければ攻撃が続くぞ』とね」

「何だと!?」

「だが国王は、降伏した後の地獄を理解している。だからこの町は度々攻撃され続けるのさ」

「そのせいで、アステは死にかけたのか……!」

「あの日、僕が買い物なんか頼まなければ……!」


 俺は前世、別に正義に燃える熱血漢ではなかった。

 どっちかと言えば、自分に害が及ばないなら、見て見ぬ振りをする事の方が多かった。

 だが今、俺の中にアステの記憶がある。

 傷付けられた痛み。

 自分の生まれ育った町が火に包まれ、壊れていく光景。

 そして大切な存在である父親の絶望。 

 こんなの、許しちゃおけねぇだろ……!


「なら俺がぶっ飛ばしてくる!」

「や、やめてくれ! その改造は魔族と戦うためのものじゃない! あくまでアステを守るためなんだ!」

「!? こんだけ力を積んでるのに、魔族には勝てないってのか!?」

「……あぁ、高位魔族の力には、おそらく及ばない可能性が……」

「くっ……」

「ここにいれば安全だ! 万が一魔族がここを見つけた時でも、不意打ちで一撃入れて裏口へ行けば逃げられる可能性が高い……!」

「……」


 ……この地下の研究所では地響きしか感じられなくても、町ではきっと大きな被害が出ているんだろう……。

 それを見過ごすなんて……!

 でもこの身体はアステのものだ……。

 それを危険にさらすのも……。


(おにいちゃん! いって!)

「!?」


 アステ!?


(おとうさんを、まちのひとをいじめるまぞくをやっつけて!)

「……。そうか、そうだな……」


 声だけだが、アステの覚悟は伝わってきた。

 そうだよな。

 大事な人をいじめる奴は、許せないよな……!


「……あ、あの、アステ……、いや、アユムだったか……。シーツを身体に巻き付けて、何を……?」

「人造人間とはいえ、女の子が裸で外に飛び出すわけにはいかないだろうが」

「だ、駄目だ! もしここでその身体が破壊されたら、アステの魂が……!」

「アステが言ってんだよ。『おとうさんとまちのまぞくをいじめるやつをやっつけて』ってな」

「あ、アステ……!」


 崩れ落ちるヒョロガリの横をすり抜け、階段を駆け上がった。

 すげぇ! 五、六段は軽く飛ばして駆け上がれる!

 扉を開けると、鼻をつく焦げた匂い!

 視界に広がるのは、そこここから上がる煙!

 ……良かった。倒れている人の姿はない。

 まぁ定期的に攻撃されたら、避難も早くなるか。

 そして、


「ふはははは! 魔王様の庇護を拒む愚か者共め! 人間の国を捨て、魔王様の奴隷となれ! さもなくば命の保証はないぞ!」


 空中で何か喚いている奴!

 あれが魔族か……!


「ん? 何だ小娘? 風呂上がりか? それは悪い事をしたな。だがそれも魔王様に逆らう国が悪いのだ! 悲劇のヒロインとなってもらおうか!」


 俺に気付き、手に光を集める魔族!

 勝てるかわからない……!

 だが、こんな人を人とも思わない奴に負けたくない!


 『ドラゴン』┳剛力

       ┣竜鱗

       ┣威圧

       ┗竜吼砲


 さっき見た『ドラゴン』の能力で、絶対強いだろうと思う『竜吼砲』を選ぶ!

 !

 口の前に力が集まるのを感じる!


「ん? 何かするつもりか? ふふん、無駄な事を……」


 くそ! 相手の方が早いか!?

 頼む!

 あの余裕ぶった魔族が、何とか撤退するくらいの力を……!


「町諸共、焼け焦げろ!」


 くそっ!

 魔族が手に集めた光の塊を放った!

 こっちは感覚的にはまだ半分くらいしか力が溜まっていない!

 でもあいつの攻撃が町に放たれたらどうなるか……!

 今溜まっている力で、せめて威力を減らすくらいは……!


「はあああぁぁぁ!」

「ふはは! 無駄無駄! そんな程度のちか、え、ちょっ、待っ、ぎゃあああぁぁぁ……!」


 え。

 ちょっと待って。

 あいつの放った魔力をティッシュみたいに吹き散らして、俺の『竜吼砲』は魔族を飲み込んだ。


「……あ、が……」


 黒い棒人間みたいになった魔族は、目の前の地面にべしゃっと落ちた。

 え、これ、どういう事……?

 ……こいつ、雑魚だったのか……?


「く……、この魔王軍四天王であるマセイヌカ様を一撃で倒すとは……、き、貴様、何者だ……?」


 うわぁ結構強い奴だったみたい……。

 この身体の強化ってとんでもないんじゃないか……?


「はぁ、はぁ、あ、アステ……。無事か……?」


 あ! ヒョロガリが研究所から出てきた!

 俺は地面に落ちた魔族を指して叫ぶ!


「おい! 何か四天王とかいう奴を一発で倒したんだけど、何なんだこの身体!」

「え? 四天王? 良かった、そのレベルだったのか……」


 え、四天王って弱いの?


「魔王本人じゃなくて良かった……。そうしたら無傷で勝利できる確率は六割あるかないかだからね……」


 おい待て。

 魔王って多分ラスボスだよな……?

 それを相手に無傷で勝率五割強!?

 オーバースペックにも程があるだろ!


「でもアユムのお陰で貴重な魔族の検体が手に入った訳だから」

「な、何をする貴様ー!」

「アステの身体を強化する礎になってもらおうかなって」


 あぁ、安定のマッドサイエンティスト。


「すみません許してください、何でもしますから!」

「ん? 今何でもするって言ったよね?」


 あ、親の顔より見たやり取り。


「ねんがんのまぞくのけんたいをてにいれたぞ!」

「な、なにをするきさま!」

「実にスゴイ検体をもらったよ。うれしいなあ~。こんな研究めったにできるもんじゃあないよ。これをアステの強化に生かせれば……! グフフフ……! と、得したなあ……!」


 満面の笑みを浮かべながら、抵抗できない魔族の身体を引きずっていくヒョロガリ。

 魔族よりこいつの方が邪悪に見える不思議。


(おにいちゃん、ありがとね!)

(……おう!)


 まぁこの子が救えたなら、俺が転生した意味もあるんだろう。

 後は魔王とかいうやつを何とかして……。


「アァ……。早く研究してドロドロになるまで調べたいネ……。一分一秒も惜しいヨ……」

「……化け物め……!」


 ……いや、あいつをどうにかする方が先かな……。

読了後ありがとうございます。


銀髪ロリッ娘に転生した歩!

迫り来る魔王の手と父親の改造の手!

歩はアステを苦しみから守り抜けるのか!?

次回!『後は皆様の想像の中で』

お楽しみに!

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― 新着の感想 ―
新作ありがとうございます。
完全に悪い親父さんじゃないけど、完全にイカレてますね。 魔王より質が悪そう(笑)。
カマセイヌ様一撃でした。
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