[Turn 悪鬼]53.
「ちょっと、社長⁉」
総司の頭の中はもう既に真っ白だ。
それに加えて、社長が自分を殺せということが、総司にとってさらにそれを加速させた。
「……社長の命令でしょ! そんなこと言っていないで早く殺しなさいよ!」
慌てふためく総司にみさきが怒鳴る。
「私は真琴さんと万号さんのところに行ってみる! だから、早く‼」
その言葉に背中を押されるかのように、総司は社長に全力で駆け寄った。
「そうはさせない!」
大柄な男が総司に立ちふさがろうとするが、平気だった。
こうなるかもしれないと、能力で上がった身体能力で天井ギリギリまで飛んだのだから。
そして、社長の目の前に着く。
何度も。何度も。何度だって。
総司は苦しそうな表情を浮かべる社長を殴り続けた。
「……やったか?」
総司は息をこぼすかのように吐く。
それもそのはずだ。仲間を殺すなんて、やってられることなんかじゃない。
次に、総司は飛んできた男の拳を全力で避けた。
「真琴さん⁉ 大丈夫⁉」
「ああ。片手は使えなくなったが、平気だ。ありがとう。」
真琴はみさきに向かって力のない笑みを浮かべている。
その顔はとても疲れ切っているかのようだ。
人形のようにきれいに取り除かれた状態で修復されていて、先ほどまであった右手はもう残されていなかった。
「……万号さんは、ダメだった。……前に真琴さんが試験のときに言ってた、一線を越えたんだと思う。」
「そっか。」
不思議と涙はこぼれなかった。
人間、誰しも自分が絶体絶命のピンチになれば人の死で泣く余裕なんてなくなるのかもしれない。
「みさき君。急いで社長に能力を使ってくれ。」
「……わかりました。」
みさきは社長の肌に触れる。
「『完全修復』。」
社長にあった総司が殴った痕が徐々に薄れて、消えてゆく。
そのまま消えて、完全に傷一つない身体に戻って――。
「……?」
社長は目を開けた。




