番犬
※ ※ ※ ※ ※ ※
一方、そんな事件が巻き起こってから僅か10分後のこと。
2人の帰りを待つ山村家では、
トゥルルルル、トゥルルルル......
母のスマホが突如けたたましい着信音を轟かせ始めたのである。
カシャ。
「あら、智美ちゃん、あたしに電話なんて珍しいわね」
「た、大変......こ、琴音が......」
「どうしたの? そんなに慌てて」
「琴音が連れてかれたの! あ、あたしどうしよう?!」
「ちょっと落ち着いて。琴音がどうしたって言うの? 連れてかれたって......一体誰に?!」
さすがの智美も自分の仕出かした過ちの大さに漸く気付いたのだろう。逆にそうだからこそ、実の父である徹には言えなかったのかも知れない。
やがて智美は、起きてしまった事実を一部始終涙ながらに語り始めた。その声は震え、悲壮感漂うものであったことは言うまでも無い。
そして話が進むにつれ、美和の顔はみるみるうちに強ばっていく。実の娘に及んだ最大のピンチともなれば、居ても立っても居られなかったに違いない。
「智美ちゃん、分かったわ。あとはあたしに任せて。あなたはもういいから早く家に帰って来なさい」
今は琴音を助けることが最優先。言ってやりたいことは山程有った筈だが、そんなことは後回しにせざるを得ない状況。ことは火急を要する。
「やっぱ......警察に通報するんだよね? 琴音を助ける為にはもうそれしか無いもんね。うっ、うっ、うっ......」
きっと、電話の向こうで泣き崩れてるに違い無い。義母の前では、今までに一度足りとも見せたことの無い弱々しい姿だ。
彼女はもう十分反省している......今更ながらにそんなことを悟る美和だった。
「智美ちゃん」
「はい......」
「もう2度と、こんなことしないわね?」
「も、もちろん! あたしだってもうこんな辛い思いしたく無い!」
「分かったわ......ならば警察には言わない。それとお父さんにも。だから......安心して」
「で、でも......それで琴音は大丈夫なの?!」
「大丈夫。智美ちゃんがしっかり車の車種とナンバーを控えてくれたから。だからあなたは何も心配しないで大丈夫」
「あ、ありがとう......うっ、うっ、うっ」
やがて美和は智美との電話を打ち切ると、直ぐ様別の電話番号を打ち始めた。もはや一刻を争う状況。猶予は無い。
やがてそんな電話が繋がると、
「ご、ごめん、誠也さん。琴音が大変なの! そう......相手は大柄な男3人よ。うん、第二京浜を下って行ったらしい......大丈夫かしら......そ、そう、分かった。
車の車種とナンバーは直ぐにショートメールで送るから。そうね......確かにこの時間、下りの道は混んでるわよね。
分かった......もう、あなたに頼むしか無いから。うん、何か分かったら直ぐに教えて......ありがとう」
カシャ、ツー、ツー......
そんな電話を切り終えた母は、心なしか落ち着いた表情を浮かべてる。
ちなみに......
以前美和は実兄の徹に、『琴音には強い番犬がついている』そんなことを語ってた。
もし電話の相手が『番犬』だったとするならば、きっと『番犬』は『番犬』の仕事をしっかりとやり遂げてくれるに違いない。
多分美和は、そんな確信を持っていたのでは無かろうか? まぁ、今はただそう信じるしか無かったのではあるが......
※ ※ ※ ※ ※ ※
一方その頃......
車に乗せられた琴音の方はどうなってたのかと言うと、
「ヘッ、ヘッ、ヘッ......姉さんも好き者だな。自ら乗り込んで来るとはよ」
「......」
「あんなションベン臭せぇガキなんかより、あんたの方がよっぽどキュートだぜ。フッ、フッ、フッ」
「......」
例によって、何を言われても無言を通す琴音。ただ前だけをじっと見詰め、微動だにしなかった。
動くものが有るとすれば、10秒に1回だけ行われる瞬き程度のもの。今流行りのAI人形とでも言われれば、誰もがそう信じるに違いない。
その一方、巨漢達の方はと言うと、1人は運転手、残りの2人は助手席に座らず、後部座席で琴音を両サイドから完全ガードしてる。




