フェロモン
もしかしたら......この男達は、智美のそんな回答を待ってたのかも知れない。
元よりお金なんかどうでもいいと思ってた可能性だって十分に考えられる。まぁ、非常に残酷な話ではあるのだが......
その証拠に、
「おい、どうする? 金無いってよ」
「無いなら仕方無いんじゃないか?」
「俺もそう思うわ」
3人揃って、ニヤニヤニヤ......嫌らしい笑顔を浮かべてる。
一方、世間知らずの智美はと言うと、そんな男達の会話に聞く耳を立て、有り得ぬ楽観論を述べ始めた。
「なんか......許してくれそうね」
お目出たいとしか言いようが無い。
「そんな訳無いと思うんだけど」
「あたしもそう思う」
でも親友達は分かっていた。その卑しき笑顔の意味が。
そして次の瞬間、そんな親友達の悪い予感が見事的中してしまう事態へと誘われていくことに!
「だったら、お前には別の形で返済して貰うしか無いな。さぁ、来い!」
気付けば男達は、智美を四方から掴んで連行を始めてる。彼らが言うところの『別の形』とは何なのかなど、今更聞くまでも無いことだった。
「ちょっと嫌だ......止めてよ!」
「今すぐ、その手を離しなさい! 警察に電話するわよ!」
果敢にも親友の1人が、スマホをチラつかせながらそんなカウンター攻撃を返した訳では有るのだが、更なるカウンター攻撃を受ける結果に。
「警察? 上等じゃねぇか! あの時こいつとは始めっから3万円で話が付いてたんだ。
それって売春だよな。警察に連絡したけりゃすればいい! でもこいつだって同罪だ。
もっとも......警察が来るころには全て返済は終わってると思うけどな。ハッ、ハッ、ハッ!」
「智美......ほんとなの?!」
「ご......ごめん。ちょっと小遣い欲しかったんだ。でも警察は止めて! だって......お父さん泣いちゃうから。これはあたしだけの問題。自分で......ケジメ付けるから」
「智美......」
突然の方針転換。抵抗を止め、3人の巨漢に身を委ねる智美だったのである。
雨は尚も激しく降り続け、それはもう視界が悪くなる程だった。もしかしたらそれは、智美に対する神が与えた懺悔の雨だったのかも知れない。
その時だ。
突如ヨダレを流す3人の巨漢と、全てを諦めた1人の乙女の間に立ちはだかる者が!
「智美ちゃん......」
やがて土砂降りの中、傘も差さずにボーっと立ち尽くしてる者の姿が突然視界に浮かび上がって来る。
一体それが誰だったのかと言うと、
「こ、琴音?!」
なんと! 智美と同じ家に住むそんな名前の女性だったのである。
見れば全身に雨を浴び、真っ白のブラウスから黒の下着が完全に透けて見える。どうやら彼女は、母から言われてたのに、今日も黒の下着で喫茶店に出勤してしまってたらしい。
ゴクリ......
思わず生唾を飲み込む巨漢達。琴音の放つフェロモンに、思わず化学反応を起こしてしまったらしい。
そんな巨漢達に対し、琴音が一体何を言い出すのかと思えば、
「智美ちゃん......あたしが......代わりに行く」
思いも依らぬそんな言葉だったのである。
ザー......
雨足は強くなるばかりで、一向に止む気配を見せなかった。
時刻は18時30分。
ブルルン、ガガガガッ......
やがて琴音を乗せた男達の車は、激しいエンジン音を轟かせながら闇夜の中へと消えて行く。
彼らはこれから一体、どこへ行こうとしているのか? そんなこと恐ろし過ぎて、考えたくも無いことではあるのだが......




