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【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
第4章 琴音の始まり
82/178

スコール

『真』の有る言葉には、必ず説得力が有るもの。純なる者が『真』を語れば、それを聞いた純なる者が心を動かさない訳も無かったのである。


 そして琴音もまた、彼女のそんな短い説明を聞いただけで、この店の本質を見抜くことが出来たのだろう。そうともなれば、答えは一つしか無かった。



「このお店で......働かせて......下さい」


 震える声でそんな風に語った琴音の目には、うっすらと涙が。



 この時......


 琴音は明らかなる自分の脳の変化に気付いていた。そして今更ながらに、向日葵の種をくれた老婆の言葉が甦って来る。


『向日葵の種は自然の大きな恵みを貰って必ず芽を出す時がやって来る』


 そんな言葉だ。


 きっと琴音と言う『種』は、自分1人の力では決して芽を出すことは叶わないのだろう。しかし今の琴音には、それを助けてくれる数々の恵みが存在していることを忘れてはならない。


 いつも彼女を気遣ってくれる母も然り、


 いつも彼女を助けてくれる謎の『番犬』も然り、


 そして彼女を影で後押ししてくれる霧島翔子も然り、


 更には、


「ありがとう」


 琴音のそんな答えに、満面の笑みを浮かべて言葉を返してくれるウェイトレスさんもまた然りだったのである。



 この時、本人はまだ気付いて無かった。他人を魅了する不思議な力が、自分には備わってるってことを。


 とにもかくにも今日と言う1日が、いい意味でも悪い意味でも、琴音に大きな変化をもたらしたことだけは間違い無い。


 期待しよう......


 明日から始まる琴音の『覚醒』と言う日々に。



 ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

 ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★


【向日葵の観察記録】


 4月10日(木)2日目

 あたしの門出


 今日もあたしは、向日葵の種にたっぷりと水をあげた。


 今日は暖かくて天気も快晴。太陽もあたしの水やりの姿を見て、一生懸命日の光を当ててくれた。


 しばらく見てたけど、種は土の上に顔を出さなかった。直ぐには芽を出さないらしい。



 今日あたしは一つの言葉を覚えた。


『一生懸命』そんな言葉だ。


 辞書で調べると、


『本気で物事に当たるさま、真剣に物事に当たるさま』


 だそうだ。


 今日あたしは一生懸命だったから、ウェイトレスさんに採用して貰った。


 だからあたしは明日から一生懸命お仕事をしようと思う。


 向日葵の種が,今土の中で芽を出そうと一生懸命なように......  


                 琴音


 ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★ ★

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 その翌日。


 4月11日(金)


 曇り時々晴れ、所により一時雨 

 降水確率 30%


 そんな天気予報の中、薄暗くなり掛けた18時のこと。


 場所は打って変わって駅前通りでの出来事。



 ザー......ッ


「あれぇ~雨降ってるよ!」


「やだぁ、傘持って来て無いし!」


「濡れちゃうじゃん!」


 今、駅前のカラオケ店から出て来たばかりの今時女子高生3人組は、完璧な困り顔。


 人で賑わう駅前の商店街は、突然のスコールに右往左往する人々で溢れ返っていた。


 やがてそんな女子高生3人組の1人が、


「天気予報ムカつく!」


 などと八つ当たりを始めれば、


「コンビニで傘買うのバカらしい~!」


 もう1人が財布と睨めっこを始める。


 正直、ずぶ濡れ必至。諦めムード満載だ。



 ところが、3人目の女子高生だけはなぜか少し反応が違ってた。


「タクシー呼んじゃおう! 2人共家まで送ってってあげる!」


 余裕でそんな絵空事を語り始めたのである。


「ちょっと智美、今日はどうしたのよ?」


「カラオケ代だってご飯代だって全部おごって貰っちゃったし。大丈夫なの?」


「気にしない、気にしない! まぁ、ちょっと......臨時収入が入ってね」


 得意満面にそんなことを話したのは他でも無い。山村智美だったのである。


 山村智美と言えば、言うまでも無く琴音と同じ家に住む山村家の1人娘。琴音をとことん嫌ってるその者に他ならない。



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