夢
実を言うと......
そんな琴音にも1つだけ悩みが有ったりもする。それは何かと言うと、同じ夢を何度も見ると言うこと。
何ヵ月間も見ない時もあれば、3日連続で見たりとか。とにかくタイミングは不規則。
因みにここ数ヶ月は全く見てない。なのでその存在すらも忘れ掛けてたその日の夜、再び見たのである。
それは『向日葵の観察記録』に初めて思いを綴った正にその夜のことだった。
では一体、それがどんな夢だったのかと言うと、少しだけ琴音目線でその内容を綴ってみることにしよう。
※ ※ ※ ※ ※ ※
スヤスヤスヤ......
夢の始まりはどう言う訳か、
いつも真っ暗闇。
目を開けているのか
閉じているのかも分からない。
もっと言うと、
夢の世界なのか?
現実の世界なのか?
それも分からなかった。
「ここはどこ?」
そんな夢の中で、
手探りしながら歩き続けるあたし。
上に登っているのか?
下へ降りているのか?
それすらも分からない。
すると、
サラサラサラ......
何やら
木の枝葉が風で揺れる音がしてくる。
しかも至る所から。
何となくだけど......
砂利や草を踏む感触が
足の裏に伝わって来るような
感じがする。
きっとあたしは
森の中を歩いてるんだろう。
夢の中を彷徨ってる筈なのに
ほんと不思議な感覚。
それで必ずあたしは
毎回同じ場所で立ち止まる。
なぜそこで
足を止めるのかは分からない。
ただその場所に来ると、
必ず足が勝手に止まる。
もしかしたら夢を操る誰かが、
その場所にあたしを
導いてるのかも知れない。
すると次に、
天上から 目が眩む程の光が差し込み
辺り一面が真っ白になる。
「眩しい......」
もしこの暗闇が
夜を演出してるとするならば、
天上から差し込むこの光は
月灯りなのかも。
ただ一つだけ
感覚的に分かっていることが有る。
それはその光が
あたしの目の前に存在する何かを
映し出す為に照らされてるってこと。
それが人なのか?
動物なのか?
ただの物体なのか?
光に包まれてて
よくは見えないけど、
全く動いて無いことだけは
分かってる。
何となくだけど......
毎回同じに思えるこの夢も、
実は少しづつ映像が
鮮明になってるような気がする。
今回に限って言えば、
目の前に存在する何かが
一瞬だけ真っ黒に
見えたような気がする。
そんなに
大きな『物』じゃ無い。
あたしの胸の高さ位かな?
やがて......
天から降り注ぐ真っ白な光は、
あたしの視界に映る全ての景色を
白に染めて、
再び何も見えなくなっていく。
黒で始まった夢が
必ず白で終わりを遂げる。
たったそれだけの夢だけど、
1分にも満たない
短い夢だったのか?
1時間を超えるような
長い夢だったのか?
そんなことすらも
分からなかった。
全くそんな
時間と言う観念が
存在しないと言うことは......
時空を越えた未知なる空間に、
あたしは迷い込んで
しまってるのかも?
とにかく全てにおいて
謎だらけの夢だけど、
心に焼印が押されたような
痛みすら感じる程の
辛い夢であったことだけは
間違い無かった。
その証拠に......
そんな夢を見た直後、
あたしは必ず
うなされて目を覚ます。
すると
いつも枕が濡れていた。
※ ※ ※ ※ ※ ※
そして......
4月10日(木) 翌朝の7時。
そんな夢を見終えたばかりの琴音の目からは、またしても大粒の涙が零れ落ちていたのである。
「涙......」
苦しいような、痛いような、逃げ出したくなるような、それはそんなネガティブ感情が入り交じった涙だった。
ただこの時、琴音はあることを一つだけ覚えてた。それは真っ白の光が目の前の黒い何かを包み込んだ時、それが自分に微笑み掛けてたような気がしたってこと。
その瞬間、それまで自分に押し掛かってた目に見えぬ重圧が、一瞬吹き飛んだことを目が覚めた今でもはっきりと覚えてる。
もしかしたら......
毎度見るこの夢は、自分の脳の奥に封印された過去の記憶が夢となって漏れ出しているのでは?
何となくだけどそんなことを直感的に感じ取る琴音だったのである。