スケッチ
少しふくよかで小柄な体型。落ち着いているのが苦手らしく、いつもちょこちょこ動いてる感じ。
なんだかゴム毬みたいで凄く愛嬌のある子よ。あたしはそんな彼女が大好き。
「そうね......角度もいい感じだし、ここにしようか?」
「そうだな、じゃあ俺もここで描くことにするぜ」
横から突然乱入して来たのは、実菜ちゃんと同じく陰徳村の沢渡大地君。実菜ちゃんとは幼なじみで、何かにつけて彼女と行動を共にしたがるみたい。
中肉中背。特に体躯に特徴は無いけど、家がキャベツ栽培の専業農家だけあって、春夏秋冬に限らずいつも肌は日焼けで真っ黒。
本人は好き好んでやってる訳じゃ無いらしいけど、登校前にも畑仕事手伝わされてるから、泥だらけで高校にやって来ることもしばしばだったり。
「じゃあ3人で描こうか」
「まぁ、あたしは別に構わないけど......」
心なしか実菜ちゃんの顔が少し赤くなったような気もする。気のせいか?
「じゃあ、そう言うことで。よっしゃあ、描くぞ!」
実菜ちゃんの反応に満足したのかホクホク顔。ヤル気満々でハチマキを絞め直す大地君だった。きっと、いいところを見せたいんだろうね。
そんな訳で、キックオフと同時にペンと筆を動かし始める青春まっただ中の3人だった。
「俺ってよぉ......畑仕事が大っ嫌いでさぁ、絶対農家なんて継ぎたくねぇんだよな」
「ええ、そうなんだ? 休みの日はいつもご両親と畑に出てるから好きなのかと思った。意外だなぁ......」
スケッチに集中したいあたしと違って、実菜ちゃんはそんな大地君の呟き節に食い付きが良かった。まんざらでも無さそう。
「俺さぁ、将来ヘリコプターのパイロットになろうと思っててさ、『回転翼事業用操縦士』の免許取りたくて密かに勉強してるんだわ。
このヘリをメンテナンスし直して操縦するのが今の俺の夢かな。だからはっきり言ってキャベツなんか作ってる時間は無いんだわ。親は俺に畑継がせたいみたいだけどな」
「ヘリコプターのパイロット?! めちゃめちゃかっこいいじゃん!」
この2人は相思相愛?!
なんて......好ましく無い空気を読みながら、口では無く筆だけを動かしてるあたしは、なんだかお呼びでないオーラを感じ取ってしまう。
そんな訳で、遂に尻を上げたくなったあたしは、
「なんかこの角度だとイメージ湧かないな......あたしちょっと場所変えてみようかな?」
などと声に出して言ってみようと思ったその時のこと、
「ちょっとあたし喉乾いちゃった。なんか飲み物買って来るね」
そんな調子で実菜ちゃんに先に立たれてしまったので、思わず尻を上げるタイミングを逃してしまった。あらら......
よくよく見渡してみれば、出身村別にグループが出来上がってるように感じる。
御影村、寂蓮村、陰徳村のそれぞれに小学校は有るけど、中学、高校はこの御影村にしか存在しない。
やっぱそれぞれの小学校で共に勉強した仲間が、高校に来ても一番馬が合うんだろう。
そんな意味で言っちゃうと、御影村のあたしと陰徳村の実菜ちゃんが仲がいいのは少し特異な気がしてならない。
きっと境遇が似てるからなんじゃ無いのかな。実菜ちゃんの家も共働きで、少し年の離れた弟さんが居るからね。
ちなみに......
あたし達のすぐ隣には、あたしと同じ御影村出身の女子達が筆を動かしながら楽しそうにくっちゃべってる。
どちらかと言うと、裕福な家柄の女子グループね。
一般庶民のあたし達からすると、少し世界が違うような気がしてならない。別に嫌ってる訳でも無いんだけどね。
そんなこんなで......
実菜ちゃんが飲み物の自動販売機へ向かうべく、御影村裕福家柄グループの横を通り抜けようとしたその時のことだった。
ここでちょっとした事件が巻き起こってしまうのでした。
ピチャッ。
「あっ?!」
残念なことに、小さな水溜まりがあったみたい。