後悔
一方、嵐が過ぎ去った一室の面々はと言うと......
「山村琴音さんは5年前17才の時、ある事件で大事な人を亡くしてます。あの顔の火傷痕はその時負ったものだと彼女のお母さんから聞いてます」
カウンセラー下山が視線を落としながら、徐にそんな語り部を始めた。
「知ってたん......です......か?」
「顔に火傷痕が有ることは知ってました。でも見たのは今が初めてです。いつも長い前髪で隠してましたからね。でも正直あれ程とは思ってませんでした」
「今の......彼女の性格は......その事件が......原因......なんです......か?」
「元々は明るくて、優しくて、賢くて、本当に活発な女子だったそうです。きっとその時の事件が彼女の精神を壊してしまったんでしょう」
「そう言えば......さっき......記憶喪失になって......全ての感情を......失ったって......言ってたけど......」
「事件に遭遇したのが17才の時。悲しい話ですが、それ以前の記憶が全て失われてしまったそうです。またそれ以降、喜怒哀楽と言う感情が無くなったとも聞いています」
立て続けに質問を繰り返す拝島拓也。そしてそれに答えるカウンセラー北山。でももう1人の女子だけは、なぜかずっと冷凍マンモスを続けてる。
「......」
「あと......喜怒哀楽が......無くなったって......それ、どう言うこと?」
「その言葉の通りです。喜んだことも無ければ、怒ったことも無い。おまけに哀しんだことも無ければ、楽しんだことも無いってことなんでしょう。だから喜怒哀楽の意味が分からないと言うのも、彼女に取っては当然の話なんだと思いますよ」
「つまりさっき......霧島翔子さんに......怒ってるのか、悲しんでるのか......って聞いてたの......本当に分からなかったから......ってこと?」
「元々は素直で優しいお方。潜在的に人を傷付けたり中傷するようなことは絶対にしませんし、言うことも有りません。
きっと彼女は彼女なりに霧島翔子さんの話を理解しようと、必死だったんだと思います。まぁ本人では無いのでよくは分かりませんが......」
それまでそんな押し問答を続けてたカウンセラー下山と拝島拓也の2人。
彼ら等が残る冷凍マンモスに対し、冷たい視線を送っていたことなど、恐らく当人達も気付いてはいなかっただろう。
何やら火の粉の風向きが変わって来そうな雰囲気がしてならない。
すると、
「言いたいことが有るならはっきり言えばいいじゃない! そうよ、あたしはあの子に酷いことしちゃったわよ。
でも仕方無いでしょう?! さっきはそんなこと知らなかったんだから! それで......あの子に仕事なんか見付けて上げれるの?!」
どうやら霧島翔子も氷の中で山村琴音のことが気になってたらしい。
「実はもう、1度紹介してるんです」
「それって、つまり......今回は出戻り......ってこと?」
「そうです。マンション清掃員の仕事でした。最初は上手くやってたみたいなんですが......タバコに火を点けてた居住者の人にホースでたっぷり水かけちゃたみたいで。
何でそんなことをしたのかと聞いてみたところ、火は火傷をするから危ないって、ただそれだけでした。
どうやら山村琴音さんは、大きな音と火がダメなようです。多分、17才の時に起きた事件と関係してるんでしょう。
もちろん私も山村琴音さんもまだ諦めてはいません。でも実際のところ、今の状態で再就職はかなり難しいと思ってます」




