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【完結済】天国と地獄  作者: 吉田真一
第4章 琴音の始まり
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セミナー

 そして、時刻は15時05分。


 立て看板通りに開始時間が15時であったとするならば、彼女は少しばかり遅刻してしまったらしい。


 きっとカウンセラー下山は、時間になっても山村琴音が姿を見せないから、区民センターの外まで様子を見に来てたのでは無かろうか。



 やがて、ギー、バタン。


「皆さんお待たせしました。本日最後のご参加者となる山村琴音さんです」


 彼は司会者風にここでも満面の笑みを持って、彼女を紹介した。


 因みに......


 今2人が入室を果たした一室はと言うと、小会議室と言う名だけあって実にこじんまり。


 10畳程度のスペースの真ん中には正方形の白テーブルが1つだけ。それを取り囲むかのように4つの座席が用意されてる。


 西側の椅子にはいかにも気の小さそうな若者男子が驚いたような表情を浮かべ、今入って来たばかりの2人に覚束ない視線を送っている。


 やがて思い出したかのように彼は自己PRを始めた。


「どうも......初めまして。拝島拓也はいじまたくや......です」


 そんな声に釣られて山村琴音の視線が自分に向けられると、今度は真っ赤な顔して即座に下を向いてしまった。どうやらこの男性、極度の対人恐怖症らしい。


 彼は見た目10代後半。山村琴音より少しだけ若く見える。整っていない髪型、疲れたシャツ、うっすらと浮かび上がる無精髭。


 お世辞にも清潔感漂う好青年とは言い難い風貌だ。きっと自分を着飾ることに興味が無いのだろう。


 一方東側の椅子には、打って変わっていかにも神経質そうな女性がどっしりと腰を下ろしてる。


 身体に電気を帯びているのかは分からないが、とにかくビリビリ感満載。


 そんな彼女がイラついた表情を浮かべて一体何を言い出すのかと思えば、


「あたしは霧島翔子きりしましょうこ。あなた、初っぱなから遅刻してきてどう言うつもり?!」


 なんと! いきなり電撃ミサイルを打ち込んで来たのである。


 初対面で有ろうが無かろうが、思ったことは何でも言わなきゃ気が済まないバラの刺タイプらしい。


 そんな彼女は見た目20才過ぎ。山村琴音と同じ年頃とは言え、シワ一つ無いリクルートスーツで身を固めたその風貌は、日常的『普段着』の装いである山村琴音とは明らかに一線を画してる。


 ストレートの黒髪から垣間見れる眼光の鋭さ、更にキビキビとしたそんな振る舞いは、やり手のワーキングウーマンとしか言いようが無い。


  そんなワーキングウーマンがなぜ『障害者雇用支援セミナー』なる催しに参加しているのかは甚だ疑問では有るけど、もしかしたら今見せたような遠慮を知らぬ言動に秘密が隠されているのかも知れない。



 一方、そんなミサイル口撃こうげきを繰り出す霧島翔子に対し、カウンセラー下山はと言うと、


「まぁ、言いたいことは分かりますけど、そうストレートに言うことも無いでしょう。職場において良好な人間関係を維持する為には我慢することも必要なんですよ」


 苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて、そんな即席防空システムを稼働させてみたものの、


「ふんっ、大きなお世話です!」


  やはり馬の耳に念仏。彼女の辞書に、受け入れる・妥協する・大人になる・などと言う難解な単語は載って無かったようだ。


 この霧島翔子なる女史、常人と比べ明らかに導火線が短いことだけはここで明らかとなった。



「それでは時間も押してることですし、早速『障害者雇用支援セミナー』を始めさせて頂きたいと思います。話の途中でも、ご質問が有れば承りますので何でも......」


 カウンセラー北山が強引に話を本題へ引き寄せようとすると、


「僕は......障害者......なんでしょうか?」


 さっきから挙動不審のアピールを続けていた拝島拓也が、いきなり手鼻を挫いて来た。まぁ、本人に悪気は無いんだろうけど。



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